魔王くんの閃き! 道がないなら造ればいいじゃない?
「うちは人類の敵、魔族とのハーフなんや」
先の尖った特徴的な耳を見せてアルカシオンが言った。
本人的には、ついに言ってしまった! という感じらしく、けだるげな空気を漂わせている。
「どや?」
寂しげな口調でアルカシオンが問いかけた。
問いの後に省略された言葉はこうだろう。
――あんたも離れていくんやろ、うちから……。
嫌われるのを覚悟して言ったんだろうな。
で、俺としては。
こ、これは反応が、難しい……!
ハーフどころか純血魔族の俺にしてみれば、どちらかというと好感度が上がる属性なのだが……。
だからといって、
「へえ、そうなんだ。俺も実は魔族? ていうか、魔族の王? だからさ、ぜんぜん気にしなくていいよ~♪」
なんて爽やかに言えるはずもない。
学園での俺の設定は人間だからなあ……。そんなこと言ったらアルカシオンもビックリするだろう。それにこいつも魔族の血で苦労しているようだが、別に魔族と会いたいわけではないだろうし。
ちなみに、俺の耳は特に尖ってはいない。人間と同じ形をしている。魔族の外見は様々で特に一定ではない。アルカシオンの、魔族側の親の耳がたまたま尖っていて、それが遺伝したのだろう。
「そ、そうだな……」
どう答えよう。
アルカシオンが首を振った。
「気にせんでええよ。嫌われるのは慣れてるからな……はよ先に進み。英雄のあんたは成績を少しでもあげなあかんやろ?」
「ひとつ訊いていいか?」
「……なんや?」
「どうして耳を隠さない?」
「?」
「お前の魔族の特徴は耳だけだろ? なら、その後ろでまとめている髪を下ろせば耳は隠せる。髪も癖のある色だが、それも染めるなり何なりすればごまかせるだろ。魔族の血のせいで苦労しているのなら、それを隠せばいいんじゃないのか?」
「絶対に嫌や」
アルカシオンは断固とした口調で言った。
そこに一切の妥協の余地はなく、自らの人生の指針として決めた強さが込められていた。
ほう……そこに強さを持つのか。面白い。
「でも、隠したほうが楽だろ?」
「楽とか……そんなん関係ないやろ。自分がどうするかや!」
ぎらっとした目を向けてアルカシオンがまくしたてた。
「この耳も、この髪も、この目も! 死んだ母親がうちに贈ってくれたもんや! なんで隠さなあかんねん! 別にこれは恥ずかしいもんやない! うちはうちや! そのどこがあかんねん! 文句言うやつが悪いんや! それとも、うちが間違ってるんか!?」
言い切った後、アルカシオンは不自然に口をつぐんだ。
自分の内心を吐露しすぎたと後悔したのだろう。
「忘れてくれ」
「忘れない」
俺はさらに続けた。
「あと、お前は間違っていない」
アルカシオンは驚いた顔で俺を見た。
俺は気分が良くなっていた。いいじゃないか。その強さ。己を貫こうとする意志。
それが魔族の生き方だ。
俺はそうやって生きてきた。俺以外の、俺が戦ってきた魔界の強者たちもまた。
お前の母親は姿形だけではなく、その気質も考え方も正しく伝えているじゃないか。
ならば、俺も魔王として教えてやろうじゃないか。
道がなければ造ればいい。そんな魔族の生き方を。
俺は天井を見上げた。
「アルカシオン。確か上位一〇〇位に入らなければ退学になるんだったか?」
「……そうやけど」
「もう一〇〇人ゴールしていると思うか?」
「まだやろ。せやけど、ここはまだ地下四階、ほぼスタート地点や。今さら地上に向かったところで――」
「一直線にいける道があれば間に合うだろ?」
俺は右こぶしに力を込める。
四階層分のぶち抜きか……。別にたいしたことじゃないが。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
俺は右こぶしを打ち放った。
俺の魔力と闘気が混ぜあわさった衝撃波がダンジョンの天井に激突する。激突した刹那――
ごっ!
鈍い音ともに天井に穴が開く。衝撃波は止まらない。三階の床をぶち抜いた後、そのままの勢いで三階の天井を吹っ飛ばす。
二階、一階も同様。
ごっ、ごっ! と大きな音が連続して響き渡る。
あっという間に、人ひとり分くらいの地上直通ルートができた。きらめく太陽の明かりがダンジョンへとこぼれ落ちる。
「な――!?」
アルカシオンが見開いた目で天井を見上げている。
「我を通すための道ってのは自分で造るものだぜ、アルカシオン?」
そう言って、俺は笑った。
「実は俺も退学寸前で一〇〇位以内に入らないとダメなんだよ」
「え?」
「すまん。急ぐぞ」
「わっ!?」
俺はアルカシオンの身体を抱えると、そのまま床を蹴って天井の穴へと飛んだ。
魔法で次々と一時的な足場を造って、それを蹴りながら上へ上へと上がっていく。
驚いたアルカシオンが俺の身体にしがみついてくる。
あっという間に俺たちはダンジョンの暗がりから、地上へと舞い戻った。
「ふぅ……」
地上にはあまり人がいなかった。出発前はあんなにいたのだが。おそらく、まだほとんどがダンジョンの中にいるのだろう。
今ここにいる連中はゴール組だろう。
詳細な数はよくわからないが、ぱっと見で七〇人くらいだろうか。
順位は複雑なポイント計算で単純な脱出順ではないらしいが、この状況なら間違いなく予選突破だろう。
「立てるか?」
俺はアルカシオンを降ろしてやる。
アルカシオンは信じられない様子で周りを眺めた。
「こ、これは……」
そして、俺を見上げる。
「オ、オウマ……。お前は何をしたんや?」
アルカシオンの目が動揺で揺れている。それは周りの生徒たちも同様だった。彼らは遠巻きに不審の目を俺たちに向けていた。
……。
…………。
ああ……。
そりゃ、いきなり地面に穴が開いてそこから生徒が二人でてきたらビックリするよなあ……。
あ!
ていうか……よくよく考えるとまずくない?
俺、アルカシオンの目の前でダンジョンに大穴ぶち開けてしまったんだが……。
俺はアルカシオンの耳元でこっそりささやいた。
「すまん……面倒に巻き込まれたくないんだ。急にダンジョンが崩れたってことにしてくれないか?」
「かまわんけど……。それ苦しくないか? それにどうやって上ってきたって訊かれたらどうするねん?」
空中に足場を造って連続ジャンプとか普通の人間にはできないよなあ……。
「急な……上昇気流……とか……」
「……苦しいってもんやないやろ……。なんでダンジョンで上昇気流が起こるねん……」
「勢いよく言ったら……信じてくれるんじゃないかな……」
森が吹っ飛んだ件も、何だかんだで有耶無耶になったし……。
「あんたがそれでええんやったら話あわせるけどな……」
なんて俺たちが話しているときだった。
「兄上さま。無事にゴールできたようで何よりですね」
ルシフェルがやってきた。
どうやら一足先にゴールしていたらしい。
ルシフェルはちらりと足下の大穴に視線を送る。
「また豪快にやらかしましたね」
「あ、いやあ……その、ダンジョンの天井が急に崩れてさ。おかげで道ができたんだよ。で、崩落のせいで空気の流れがおかしくなったのかな? よくわかんないけど、急な上昇気流が起きて気づいたら外に出てたよ。あは、あは、あははははは……」
「それは運がよかったですね(棒)」
ルシフェルは俺の横にいるアルカシオンに目を向けた。
「こちらの方は?」
と問いを投げかけながらも、俺が答えるよりも早くこう言った。
「ああ、あなたがあのアルカシオンさんですか」
外見だけでわかったらしい。有名という話は本当のようだ。
だが、アルカシオンは特に喜びの表情は見せず、さっとルシフェルから目をそらし、俺とも距離を取った。
「連れが来たようやな。ほな、うちは先に行ってゴールの手続きをしてくるわ」
「一緒に行かないか?」
アルカシオンは首を振った。
「ええわ。気持ちだけもらっとく」
アルカシオンは手をぶんぶんと俺に振りながら歩き始めた。
「ありがとな、オウマ! あんまええ想い出のない学校やったけど、あんたと出会えたのはよかった! 頑張ってホンマもんの英雄になるんやで!」
……?
アルカシオンの言い方が気になった。
予選突破でとりあえずの退学を免れたはずなのに、まるで自分の退学が決まっているかのような言い回しだった。
気にはなったが、ここを離れたがっているアルカシオンを留めるわけにもいかない。
「ああ、じゃあな」
俺はアルカシオンを見送った。
その後、俺もゴールの手続きを行い――
俺は七四位という成績で予選突破した。
ちなみに、俺とアルカシオンのゴールには物言いがついた。いきなり天井が抜けたのでそこから出てきました――というのは許されるのかと。
そりゃそうだよなあ……。
結局、ルールにはその件についての記載がないため、今回は認める方針となった。ただし、次の大会までには対応を決めるらしい。
ま、それは好きにしてくれよ。
今回のところは俺とアルカシオンが予選突破できればそれでいい。
次の本戦は一週間後に行われる。
予選は突破したが、確実に退学を免れるためには本戦で中位以上の成績を残さないとダメだ。
まだまだ気が抜けないな。




