生徒会の、生徒会による、生徒会のための大反省会
「予選一位おめでとう、キルビス」
予選の翌日。
キルビスは生徒会室でリリィナからの祝辞を受けた。
「ありがとう。そして、君も予選二位おめでとう、リリィナ」
生徒会メンバーの力は圧倒的だった。
下馬評どおりの力を見せつけ、生徒会は予選一位から四位の独占をやってのけた。
多くの生徒たちは言った。
「さすがは生徒会だ!」
だが、キルビスに誇らしい気持ちはかけらもなかった。
当たり前のことだからだ。
彼が精鋭と見込んで集めた生徒会メンバーなのだ。それくらい軽くこなしてもらわなければ困る。
彼らは彼らの能力にふさわしい結果を残した。
それだけのこと。
ゆえにキルビスの興味はそこはない。
すでにキルビスの明晰な頭脳は起こってしまった問題に向けられていた。
「穢れた血が予選通過してしまったな」
キルビスは重いため息とともに口にする。
実に不愉快なことだった。
穢れた血――半魔の血を引く少女アルカシオンの予選敗退と退学はキルビスの脳内で既定事項、終わったことだった。
例年ほとんどの一年は予選を通過できない。
それがこの大会の事実だ。
それでもキルビスは完璧を期するため、生徒会メンバーのラガルドを張り付けて彼女の妨害を行った。
そこまで積み上げてもなお――
アルカシオンはゴールして当面の退学を回避した。
「私の詰めが甘かったのか……」
「いえ、キルビス。あなたの計画にぬかりはなかったわ。他の不確定要素を御せなかったのが原因ね」
リリィナが続けた。
「オウマくんというイレギュラーを」
「オウマか……」
目覚めたラガルドから報告は受けていた。
オウマがやってきて一撃のもとにラガルドを打ち倒したと。
何かの間違いかとキルビスは思った。
ラガルドは理力三万強を誇る。理力五万のキルビスの敵ではないが、真正面から一撃で倒せるかと言われると自信はない。
「オウマと穢れた血が出てきた――彼らが岩盤崩落したと言っているあれはやはりオウマがやったのか?」
「そうね。問題はどちらが現実的か、どちらを信じたほうがマシかということかしらね」
オウマたちが言うとおり、運よく岩盤崩落が起こって運よく上昇気流に飛ばされてゴールしたのか。
あるいは、ラガルドを一撃で倒したオウマという規格外がダンジョンの天井を吹き飛ばし、何らかの手段でその穴からアルカシオンとともに飛び出したのか。
どちらの非常識こそが常識なのか?
キルビスは喉の奥で笑った。
「いい判断基準だ。私はいい副会長を持ったものだ」
「ありがとう、会長さま」
「で、副会長の意見は?」
「どちらもバカバカしいけど。前にもオウマくんは事故に巻き込まれたわね。学内の炎上した森が半分消し飛んだ件よ」
「あったな」
「それも事故だって話だったけど。はたしてそんな大規模な事故が特定人物を中心に短期間で続くものかしら?」
「続かない」
「であるのなら、答えは決まっているのではなくて?」
オウマがダンジョンの層を吹き飛ばした。
オウマが燃えた森の半分を消し飛ばした。
それは身震いするような事実だ。理力五万のキルビスにもできはしない。
いずれも非常識だと一蹴するほうがまともだ。
だが、あのラーロットが五公爵家の権力を駆使して巻き起こした王都の動乱もオウマはくぐり抜けたのだ。
生半可な相手ではないのは事実。
であれば――
侮るべき相手でないのは確かだ。
「オウマは危険だな」
「口説けなかったのが、残念ね」
「まったくだ」
キルビスはうなずいた。
彼の底知れなさを知って不気味さすら覚えるが、それとは別に彼の力が欲しいという気持ちもわいてくる。
キルビスは優秀な人間が好きだった。
彼女の右腕たるリリィナはたかだか子爵の娘だ。生徒会には平民のメンバーすらいる。
キルビスにとって才能の前には階級など些末なことだった。
だから、才能があると思った人間はすべて配下におさめてきた。
才能ある人間たちもキルビスの背中を喜んで追いかけた。仲間になれてよかったと手を叩いて喜んだ。
キルビスもまた才能ある男だから。
世界の大英雄になりえる男だから。
きっといつか魔王を倒す男だと彼らは信じて人生を託してくれた。
だが、オウマは違った。
生まれて初めてだった。
――お前は一番上になりたいんだろ? 俺も同じなんだよ。俺は誰の下につくつもりはない。
キルビスの誘いを一刀両断で切り捨てた相手は。
リリィナが口を開く。
「脈はありそうなの?」
「どうだろう。彼は誰かの下につくのが嫌らしい」
キルビスの答えを聞いてリリィナが笑った。
「それは脈なしってことじゃない?」
「そうかな?」
「だって、あなたも人の下につくつもりないでしょ? そんな二人が握手するなんて無理よ無理」
「その通りだ」
キルビスは苦笑する。
「だが、猛獣をしつけるのは嫌いじゃない。いずれは配下にするさ」
「あなたの楽しみが増えたわね」
「そうだな。だが、それはいずれの話だ。まずは本戦で勝利をおさめて私の力を理解してもらおうか」
キルビスは続けてリリィナに問う。
「本戦出場の生徒たちは何割が我々に従う?」
「現状で七割といったところね。残りもすでに工作を仕掛けて本戦までには落としてみせるわ」
すべての生徒を仲間に引き込めば、キルビスは戦うまでもなく優勝の座を手に入れられる――
試験の趣旨からすれば卑怯だが、キルビスはそう思わない。
場外戦術も立派な戦い。戦闘が始まる前にすべてを確実に決する。むしろ、本当の戦いとはそういうものだ。
これを卑怯というものは、しょせん目の前の盤面しか目に入らない蛮族でしかない。そんな愚者の暴言などキルビスは気にしない。見えている世界が違いすぎるのだから。
そもそも、結果は同じなのだ。
最強の生徒会長キルビス・アーガイルは普通に戦っても負けない。
それが事実だ。
だが、今回ばかりは昨日の時点で様相が変わった。
オウマという計算できない存在がいる。
キルビスが懐柔した一〇〇の勇者たちはオウマに対する強力な抑止力となるであろう。
いかにオウマといえど、それだけの数の勇者を相手にして無事で済むはずがない。
それでもキルビスは安心できない。
キルビスにとっての至宝はあくまでも生徒会メンバーのみ。他の生徒たちはランクがどうしても落ちる。
数あわせの域を出ない。
キルビスは思った。
生徒会が隠し持つ最後の切り札を出すことになるかもしれないと。
「ラガルドが穢れた血を監禁していた件がオウマたちから学校に報告されたという話を聞いたが。ラガルドは大丈夫か?」
「ええ、問題なく。半魔のアルカシオンの存在をよく思わない教師は多いから、あまり大きな問題にならずにすんだわ。あとで多少の注意を受けるだけね」
「体調のほうは?」
「ひどい打ち身みたいだけど。本戦までには治る見込みよ」
「素晴らしい」
「あら、ラガルドの心配? 珍しいわね」
「今まで心配するような事象が起きていなかったからだよ、リリィナ。私は自分の手駒を安易に切り捨てるタイプではない。ラガルドはこの生徒会に必要な人材だ」
キルビスは深くうなずいた。
「ひょっとすると『極光撃』を撃つことになるかもしれない。生徒会のメンバー誰ひとり欠けてもらっても困る」
「極光撃ね……」
リリィナが薄く笑う。
「オウマくん相手に本気なのね。そこまで三連覇にこだわりがあったの?」
「三連覇はどうでもいい。私は負けるのが嫌いなだけだよ」
成功と勝利に彩られたキルビスの生涯。
魔王討伐のその日まで、ひとつの敗北も刻むつもりはない。
キルビスは知っている。
強いリーダーがひとつの敗北で弱くなることを。ひとつの敗北が部下からの侮りを産むことを。
だから、キルビスは思う。
このキルビス・アーガイルに敗北などあってはならないと。
「オウマに穢れた血か……面倒なことだが何とかしてみせよう」
「オウマくんはともかく、アルカシオンのことなら気にしなくてもいいと思うけど?」
「なぜ?」
「あら、生徒会長ともあろうあなたが忘れたの?」
リリィナは口元に笑みを浮かべて言った。
「本戦出場の条件は三人から五人でチームを組むこと。残念だけど、お友達のいない半魔のあの子は出場前に失格よ」




