生徒会の標的、半魔の少女アルカシオン
部屋にはロープでぐるぐる巻きにされた女子生徒が転がっていた。
女子生徒は俺の姿を見るなり、うーうーと声を上げる。口を布で塞がれていて言葉になっていないが。
「くそ……見られたか……」
ラガルドが舌打ちまじりにつぶやく。
俺は背後のラガルドに冷めた視線を送った。
「生徒会の業務とは関係なさそうだが、これは何だ? 女子をダンジョンに監禁するのがキルビスの性癖か?」
「オウマ! 貴様、会長を愚弄するか……!」
「いやいやいや」
俺は苦笑する。
「この状況はどう見ても言い逃れできないだろ? 愚弄されても仕方ないんじゃないの?」
「愚かな! キルビス会長のお志も知らずに!」
「女の子をロープで縛って薄暗いダンジョンに監禁する。確かに志が高すぎて俺には理解できないかもな」
「茶化すな! 穢れた血を学園から一掃するためだ!」
穢れた血……?
そう言えば、キルビスもそんなことを言っていたな。どういう文脈で言ってたっけ……。
「黙ってここから立ち去れ、オウマ! お前はここで何も見なかった。そうすれば今回だけは見逃してやる!」
「見逃す? お前が、俺を?」
くっくっくっくと笑いながら俺はラガルドに向き直る。
「面白い冗談だ」
「英雄呼ばわりされて粋がっているのか? 言っておくが冗談ではないぞ!」
ラガルドが両手の指をバキバキと鳴らしながら言う。
「俺の理力は三万。一年生のお前ごとき素手で簡単にひねり潰すぞ」
理力三万(笑)
「そうか。俺は理力ゼロだよ。だが、三年生のお前ごときを張り倒すのに支障はないぞ」
瞬間、俺の掌底がラガルドの腹を一撃した。
「ぐぅお!?」
女の子をこんなところで監禁していたんだ。有無を言わせずにぶっ飛ばされても文句はないよな?
弾き飛ばされたラガルドの巨体が壁に激突、そのままぐったりと床に倒れて動かなくなる。
ふぅ……。
うるさいのが消えてせいせいした。
「大丈夫か?」
俺は女子生徒に近づき、そのローブを引きちぎった。口を塞いでいる猿ぐつわも外してやる。
息がしにくかったのだろう。ぷはぁ、という感じで女子生徒が空気をむさぼっている。
少し落ち着いたのか、女子学生はゆっくりと立ち上がった。そして、警戒したまなざしを俺に向けた後、じりっと距離を取った。
……仕方ないよね。
俺は助けてくれた恩人ではあるが、知らない相手だ。おまけにあんな扱いを受けた直後である。警戒心の強い人物ならこういう硬い対応も変ではないだろう。
少し風変わりな容貌の少女だった。
亜麻色の髪をポニーテールにしているのだが、その毛先が薄い緑色に変わっている。髪の下三分の一くらいにグラデーションがかかっていて少しずつ色が変化している。
強ばった翡翠色の目がじっと俺を見つめていた。
……はて……。
どこかで会ったような気がするのだがどこだったっけ……。
少女は口を開いた。
「あんたが助けてくれたんや。礼は言ったほうがええよな。……ありがとう」
「どういたしまして。俺はオウマと言う。名前を訊いてもいいか?」
「……うちはアルカシオンや」
ぼそっと少女――アルカシオンが答えた。
妙にナマった喋り方をするやつだ。
うーん、この方言も聞き覚えがあるな……だけどこいつと喋ったことはないと思うんだが……?
「あんたが噂のオウマか」
「俺のこと知ってるの?」
「あんたを知らん子はこの学校におらんと思うよ。……うちも有名さでは負けてないと思うけどね」
そう言って、アルカシオンは寂しそうに笑った。
「お前って有名なの?」
俺がそう問うと、アルカシオンがぎょっとした顔になった。
「な……! うちのこと知らへんの?」
「うーん……その、ごめん……」
アルカシオン……聞き覚えがない。単に俺が学校の噂に無頓着なだけなのもあるが。きっとルシフェルなら知っているだろう。あいつ情報フェチだし。
「なにで有名なんだ?」
「……知らへんのやったら、ええ。英雄のあんたと違って悪名みたいな感じのもんやからな。いきなり態度変えられるのも嫌やし……」
アルカシオンは部屋の隅に歩いていくと、壁に背中を預けてそのまま座り込んだ。
俺が首をかしげる。
「何をしている? 地上を目指さないのか?」
アルカシオンは首を振った。
「もう、ええんや。間にあわへんから」
「間に合わない?」
「今回の大会――うちは退学がかかってたんや。予選突破して本戦でいい成績を残す。それが残留の条件やった」
あら奇遇。お前もかよ。
「今から頑張っても予選突破の条件、上位一〇〇位以内は絶望的や。ゴールしたところで意味なんてないやろ」
アルカシオンが倒れたラガルドを見る。
「生徒会の連中の狙いどおりにな!」
アルカシオンが吐き捨てた言葉には悔しさがにじんでいた。
このとき実は――
俺は俺でひっそりと落ち込んでいた。
……え? もう間に合わないの? 俺も退学じゃん。
とはいえアルカシオンの話のほうが深刻そうなので、ぼやくのは後にしよう。
「生徒会の連中の狙いって、どういうことだ?」
「自分で言うのもなんやけど……うちは成績ええねん。退学になるような成績ちゃうんや。それを生徒会の連中が裏から手を回して退学になるよう仕向けてきたんや……!」
「ははーん」
俺はちらっと倒れているラガルドに目をやった。
「だからお前の退学を確実にするため、こいつらはここにお前を監禁して時間切れになるのを待っていたのか」
「そや……いきなり不意を打たれて……気づいたらあのざまや!」
アルカシオンが手首についた縄の縛り目のあとを忌々しげに指でなぞる。
意外と荒っぽいことするんだね、生徒会。
目的のためなら手段を選ばないというか。
「何をして生徒会に目をつけられたんだ?」
俺の質問にアルカシオンは口を開かない。しばらく無言で考え事をしてから大きなため息をついた。
「ま、ええやろ。あんま言いたくないけど、あんたは助けてくれた恩人。それにうちは退学するからどうせバイバイやしな」
アルカシオンは覚悟を決めたような口調で続ける。
「さっき、うちは有名やって言ったやろ? それと関係あるねん。うちは――」
そこでアルカシオンは横を向いた。
横?
俺の視界に映ったのはアルカシオンの耳。その耳は人間の丸いものとは違い、先端が長く尖っていた。
「人類の敵、魔族とのハーフなんや」




