魔王はダンジョンで迷子になった!(同日二度目)
俺の油断をついた、ルシフェルの胴払い。
だが、ルシフェルの攻撃は俺に届かなかった。超反応した俺がそれをかわしたからだ。
「え!?」
さすがのルシフェルも驚いている。かわされるとは思っていなかったのだろう。
俺だってびっくりしている。
かわせると思っていなかったから。
無意識のうちに動いた感じだからな……。ちょっと俺の反応よすぎじゃない? これ。
俺は一歩前に出る。
「嘘は良くないぞ」
こつんとルシフェルの頭を棒で叩いた。
「あ痛」
棒からぴこんという音がする。
勝敗は決した。
「嘘じゃなくてハッタリですから」
頭を押さえながらルシフェルがぼやく。
「あーあ、負けちゃいましたか。けっこう有利に進めていたと思ったんですけどね……これでも魔王さまに勝てないですかあ……」
うーんと煮えきれない様子で一人反省会をしているルシフェル。
俺は俺で――
喜びが爆発していた!
「はーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」
そりゃあね!
嬉しいよね!
あのルシフェルのトラップをくぐり抜けて! マジで負けたと思ったこともあったけど!
それをものともせずにルシフェルに勝ったのだ!
最 強 魔 王 健 在 !
ふははははははははははは!
いやー、副官にね。負けるわけにはいかないのですよ。負けるなんてこれっぽっちも思っていなかったけどね! だって最強だからね!
「ルシフェルさん、俺がビビってるとか言いました?」
「はいはい。魔王さま強いです強いです。これでいいですか?」
「さすがです、魔王さま、だろ?」
「はいはい、さすまおさすまお(棒)」
ルシフェルが気のない様子でぺしぺし拍手する。
「気がすみましたか? では行きますよ」
「行く? どこに?」
「地上ですよ。魔王さま迷子になっちゃうでしょ? 案内して差し上げますから一緒に行きましょう」
迷子……!
確かに下の階層では迷子になっていたのだが。
しかし、その苦い記憶は俺のなかで急速に存在感を失っていた。気の大きくなった今の俺は、俺ってやればできる子みたいな気持ちになっていた。
「迷子? 誰に言っているのかな、ルシフェルさん?」
「は? 魔王さまですが?」
「お前が勝てなかった存在――最強の魔王である俺がこの程度のダンジョンで迷子になるとでも?」
「いや、もうそういのいいですから。ほら、ね?」
「まだまだお前は、お前が仕える主の偉大さと優秀さへの理解が足りていないようだな」
俺はびしい! っとルシフェルを指さした。
「ならば見せてやろう。俺が華麗にダンジョンを踏破する姿を!」
「……マジで言ってます?」
「もちろん。俺が迷子になるはずなどない!」
「普通になると思いますけど?」
「ならない!」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや」
「ならない!」
「……わかりましたよ。わかりましたわかりましたわかりました」
ルシフェルは大げさに肩をすくめると俺に背を向けた。
「ならばお一人でやってみてください。わたしは行きますからね」
すたすたとダンジョンの奥へと消えるルシフェルに、俺は高笑いしながらこう言った。
「はっはっはっは! 俺に抜かれないよう気をつけることだ! 最強魔王が迷子になるはずなどないのだからな!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数時間後、俺は立派な迷子になっていた。
いったい俺はダンジョンのどこら辺を歩いているのだろう。まだ地下四階なのは間違いないのだが……。
「ルシフェルぅー。助けてぇー」
と口にしてみるが、もちろん助けなど来ない。
……どうかしていた。
ルシフェルの言うとおり、俺一人でダンジョンを踏破できるはずもないのだ。
ルシフェルに勝てた高揚感のまま「行ける行ける!」なんて言ってしまったけど……失敗だった。ルシフェルに出会えるという幸運を俺自ら投げ捨ててしまったのだ。
「やっちまったなあ……」
俺は頭を抱えてため息をつく。
やばい! と思った俺は他の生徒たちに声をかけてみるも、地下五階と同じく逃げられるだけ。
転移魔法を使えば一発で外に出られるのだが、それはルシフェルと約束して使わないって言っちゃったしな……。
こっそり使ってもバレないんだろうけど、そういうのは俺の趣味じゃないんだよな。
さて、どうしたらいいのかね……。
そんな感じで俺が通路を歩いていると、腕を組んで仁王立ちしている体格のいい男子生徒に出会った。
「おい。お前!」
身長一九〇はあるだろうか。俺を見下ろしながら男が言う。
「こっちはどん詰まりだ。あっちへ行け!」
「そりゃ親切にどうも」
だが、腑に落ちない。
俺は大男に質問を投げかける。
「お前は生徒だろう? なぜこんなところでじっとしているんだ?」
「どうもでいいだろ。さっさと消えろ!」
大男は横柄な態度で手を振る。
ふぅん……どうにも怪しいね。
俺は大男の横から奥をのぞき見る仕草をする。
「この奥に何かあるのか?」
「やめろ!」
大男が声を荒げ、俺の身体を押す。
「どっかに行けと言っているだろ!」
どうやらよほどこの奥には入って欲しくないらしい。俺は大男の言葉を無視して奥に行こうとする。
大男が大きく舌打ちし、俺の肩をつかんだ。
「お前、俺が誰だか知らないのか!? 俺は三年生のラガルド。生徒会で庶務をしている!」
「生徒会……?」
「生徒会の人間として命令する! ここから消えろ! この先には何もない。だいたい、ここは本線からずっと外れた場所だ。迷子にでもならないと来ない場所だぞ! 早く戻れ!」
悪かったな。迷子で。
「生徒会ねえ……」
おそらく普通の生徒なら効果がある肩書きなのだろうが、悪いね。俺にはふぅんレベルだ。
というわけで、ビビることなく質問する。
「逆に聞くが、そのマジメな生徒会の人間がこんなところでサボっててもいいわけ? ゴールを目指せよ」
「別にサボっているわけじゃない。それに、生徒会の人間は予選を突破しなくても本戦に出られるんだよ! だから俺はここで会長から頼まれた任務を果たしているだけだ!」
言い切ってからラガルドが顔をしかめる。
うっかりいろいろ言い過ぎたという感じの表情だ。
「会長……キルビスとかいうやつか?」
確か、さっき俺に仲間になれと言ったスカした男――キルビスが自分ことを生徒会長と言っていたような。
ラガルドの顔が不愉快げに歪む。
「貴様……会長に何という言いぐさ……!」
「フランクすぎたか? さっき本人と会って少し話をしたからな。そのせいかもしれない。気にするな」
「……さっき会った……?」
ラガルドが俺の顔をじっと見て表情を変える。
「お前、オウマか!?」
「そうだが?」
「会長と一緒にいないということは――まさか貴様、会長からの誘いを断ったのか?」
どうやら今回の勧誘は生徒会メンバーの共有事項らしい。
「ああ。興味がなかったのでね」
「キルビス会長のメンツを潰したのか!」
ラガルドが割と本気で怒っている。どうでもいいが。
ふむ……。
キルビスは言っていた。優秀な人間には特権が与えられると。優秀な人間とは特権を活用し自発的に動いて結果を残す人間だと。
自称できる男のキルビスくんは落第寸前の俺の予選突破サポートなど自発的に暗躍しまくっているらしい。
そして、この大男ラガルドの妙な動きはキルビスの命令だ。
となると――
俄然この奥に興味が出てきた!
キルビスのやつは何を企んでいるんだろう?
俺はラガルドを押しのけると奥へと歩き出した。
「お、おい! お前! 行くなって言ってるだろ!」
ラガルドが俺を引き留めようと腕を伸ばす。
俺はその手を取った瞬間、ラガルドを放り投げた。
「おわっ!?」
くるりと回ったラガルドの身体が床に転がる。
「邪魔しないでくれ。奥に行くって決めたんだよ」
「こ、この!」
ラガルドが起き上がって追いかけてくるよりも早く、俺はずんずんと奥へと進んでいき――
そして、見た。
ロープで身体をぐるぐる巻きにされた、亜麻色の髪の女子生徒が部屋に横たわっている姿を。




