最強魔王vs太古の狂戦士!
「魔王! 魔王か! お前が今の魔王か!」
バルドゥスはおかしくてたまらない表情で笑う。
「勇ましい肩書きだ! 懐かしい肩書きだ! だが、その肩書きはそう安くはないぞ! 真の強者のみに許される名! わが誇りとともにある偉大なる名! このバルドゥスの目が黒いうちは簡単に名乗れぬものと思え!」
バルドゥスが咆哮し、巨大な斧を振り下ろした。
俺めがけて。
俺は――
動かない。
「むう!?」
バルドゥスの顔が引きつった。
城の塔ほどもある巨腕から振り下ろされた巨大な斧。
その刃を俺は片手で受け止めた。
「なるほど。俺が魔王にふさわしいかテストしてくれるわけだ」
俺は余裕の声でバルドゥスに話しかける。
「これくらいじゃまだ認められないか?」
バルドゥスはうなりながら満身の力を斧に込めている。
だが、斧は動かない。
押しても引いてもびくともしない。
なぜかって? 俺が片手で押さえているからだ。
「ああ、そうだ。俺の副官がさっきカッコいいセリフを言っていたんだよ。俺も言ってみたくてね。ちょっとつきあってくれ」
俺は斧をひねり、言った。
「頭が高い」
ひねられた斧にあわせて、巨人の身体がぶるんと回った。
「おおおおあああ!?」
バランスを崩したバルドゥスの巨体が地面に倒れた。文字通りの地震が周囲を揺るがす。
俺は屋根から飛び降り、城の庭園へと着地した。
目の前にバルドゥスの巨体が横たわっている。
「どうした、もう終わりか?」
「まさか! まさかまさか!」
バルドゥスが身を起こした。
「これくらいはしてもらわんとなあ!」
起き上がったバルドゥスが片膝をついて、俺を見下ろした。
そんな姿勢でもうんざりするほどにデカい。
「なぁに! まだ始まったばかりだ!」
叫んだバルドゥスが虫でもつぶすかのように平手を俺に打ち付けた。
直撃すればそれでよし。
だがもしも俺が受け止めれば、そのまま俺の身体をつかむつもりなのだろうが――
そんなのろい攻撃を受けてやる道理はないね。
バルドゥスの平手が大地にめりこむ。土ぼこりを巻き上げ、爆音が響き渡った。
残念だが、もうそこに俺はいない。
俺はバルドゥスの巨大な腕を駆け上っていた。これだけ太ければ踏み外すこともなくなかなか走りやすい。
「むおっ!?」
バルドゥスが身じろぎして俺を振り下ろそうとする。
遅い。
すでに俺はバルドゥスの肩に達し、筋肉でカチカチのその足場を蹴ってバルドゥスの顔面へと肉薄していた。
「一撃で倒れてくれるなよ?」
俺はバルドゥスの頬めがけてこぶしを叩き込む。
だが、声を上げたのは――
俺だった。
「つあっ!?」
バルドゥスの右頬がいきなり岩盤に覆われたのだ。
おそらくはただの岩盤ではなく、魔法で強化されたすこぶる防御力の高い代物なのだろう。
俺のこぶしと岩盤が激突し、俺が弾かれた。
「な、なんだこれは!?」
「うおおおおおおおお!」
バルドゥスが咆哮、動揺した俺の隙をついて腕を一閃。中空にいる俺はその一撃をかわせない。一気に斜め上へとはね飛ばされた。
けたたましい音。
背中の向こう側で建物が砕ける感覚。
俺が叩きつけられたのは、俺が飛び降りた屋根だった。
どうやらまた戻ってきてしまったらしい。
「おっさん、いい技持ってるな。驚いたぜ」
「儂はアースジャイアントだからな。大地を使った技は得意よ!」
バルドゥスの巨体がのっそりと立ち上がった。そして、間髪入れずに左こぶしを俺めがけて打ち込む。
だが、甘い!
俺も立ち上がり、こぶしを繰り出した。
バルドゥスの巨大なこぶしと、俺のこぶしが激突。
勝ったのはもちろん俺だ。
殴った瞬間に大きな音がした。おそらくは俺のこぶしの衝撃が、バルドゥスの左こぶしの骨を割ったのだろう。
「ぐぅお!」
バルドゥスが左腕を引いて呻く。
「どうした、力比べじゃ勝てないってまだわからないか?」
「そうかな?」
バルドゥスが笑い、再び左こぶしを俺に打ち込む。
無意味な!
無傷のときに負けたこぶし勝負。骨の割れた今のお前に勝ち目などないだろ!?
俺が再び殴り返そうとしたとき――
そのこぶしが岩盤化した。
「むっ!?」
そうきたか!
圧倒的な質量と強度による重拳。
俺は殴り負けた。
自分の身長ほどもあるバルドゥスの巨大なパンチをまともに喰らう。俺の身体が弾け飛ぶ。俺は屋根をぶち破り、城内の天井やら壁やらをたたき割って派手に吹っ飛んだ。
はは! なかなか楽しませてくれる!
ちょっとばかり気を抜きすぎたか!?
そんな俺の身体が建材の残骸をまき散らしてごろごろと転がった場所には――
「おや、魔王さま?」
ルシフェルと身なりのいいおっさんの二人がいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
巨人退治に向かうオウマと別れた後――
ルシフェルは謁見の間にたどり着いた。
巨大な両開きの扉に鍵はかかっていなかった。押すと静かに開く。
ルシフェルは謁見の間に足を踏み入れた。
長細い造りの部屋の奥、何段か高くなった部分に玉座がある。そこに身なりのいい男が座っていた。
王だ。
ルシフェルは急ぐこともなく、淡々とした足取りで王へと近づく。
ルシフェルがその気になれば一足で距離を縮めることもできるが、それはしない。
あの男は王としての責務を果たすため、逃げ出したい気持ちを抑えてここにいるのだ。
遠目からでも王の気迫が伝わってくる。
彼が王としての威厳を持つもの――
であるのならば。
こちらもそれ相応の態度で接するべきであろう。
だが。
ルシフェルは玉座の前で足を止めた。そして、立ったままでじっと王の顔を見る。
ひざは折らない。
王として敬意は示そう。しかし、へりくだりはしない。なぜならルシフェルは誇り高き魔王の副官であり、最強である魔王軍の筆頭なのだから。
その肩書きはたかだか人間界の王などよりもはるかに重い。
その矜持が、ルシフェルのひざを折らせない。
「わたしは魔王さまの副官ルシフェルと申します。あなたがガルダ王国の現王でよろしいですか?」
ガルダ王はうなずいた。
「わたしがガルダ王だ。こちらも念のため確認させてもらう。お前たちは本当に魔王軍なのか……?」
「はい、嘘偽りなく」
「狙いは?」
「国が軍をあげて他国の王都――いえ、王城を攻める。それだけでは飽き足らず、こうして王まで引きずり出している」
くすりとルシフェルが笑う。
「狙いなんて――訊かなくてもわかりますよね?」




