指名手配犯オウマ・勇者学校生徒・罪状、国家反逆罪
「オウマが王への反逆罪で追われている……?」
しかも部隊を率いるのがラーロット。
突拍子もない展開にフレイアはめまいを覚えた。頭が追いつかない。
「どういうことですか、父上?」
「少し前、夜の王城に賊が入ったのだ」
「賊?」
「正しくは二匹の魔族だが」
「魔族!?」
「魔族は次々と城内の衛兵たちをなぎ倒し、王の寝室へと向かった。そこに立ち塞がったのが私用で王城を訪れていたラーロットだ。さすがは勇者学校の生徒、ラーロットは魔族を撃退して王を守ったらしい」
「ラーロットが、王を……?」
「翌朝、リテイル侯爵が王城にやってきてこう言った。家宝の壺――悪魔を封印した壺が強奪された。仕事の依頼で呼び寄せていたオウマが犯人である、と」
「バカな!? そんなはずがない!」
「王城の近くで割れた壺の破片も見つかった。オウマくんたちはここで壺を割り、悪魔をけしかけたのではないかとみられている」
「その壺は偽物ではないのですか?」
「いや、魔法を使って鑑定したが、間違いなく本物だったらしい」
「それでもオウマが犯人という証拠には!」
「リテイル侯爵がそう証言しているんだよ」
「侯爵ひとりの証言ではないですか! それにオウマに王族を狙う理由がない!」
「その通り。だが……貴族の証言というのは重いのだよ」
フレイアは口をつぐんだ。父の指摘はまったく正しい。何代にも渡って仕えている貴族の証言を退けてまで、面識のない一平民のオウマを守る理由が王にはない。
「リテイル侯爵はオウマを取り逃したが、隠れ家を押さえていた。侯爵の腹心グレイがオウマたちの後をつけていたのだ」
「場所は……?」
「すまない。そこまでは教えてもらえなかった」
フレイアは奥歯を噛んだ。フレイアはオウマの無実を信じている。だから、もし場所を知っていれば今すぐにでも行ってオウマに状況を教えてやりたかったのだが。
「そこでオウマくんを捕まえるための制圧隊が組まれることになった。隊長に手を上げたのがラーロットだ」
「ラーロット……なぜ、そこでラーロットなのですか? あの男はまだ学生で城の役職にはついてないはずですが?」
「王を守った功績でだ。王より感謝を述べられた席でラーロットはこう言ったらしい。『勇者には勇者を。やつのやり方はよくわかっております。このラーロットにすべてをお任せください』と。もちろん、王に断る理由はない。ラーロットのやる気をかって部隊のリーダーをお任せになったのだ」
「な……なんという……」
フレイアは手に持っていた剣の柄を強く握りしめた。
頭に浮かんだ言葉は――
罠、だった。
あまりにもラーロットにとって都合よく動きすぎている。
「父上! これはきっとラーロットが裏で仕組んだものです! リテイル侯爵もファーブル家に近い人物、口裏を合わせることなど造作もないこと!」
「そうだな。パパもオウマくんを知っている。そんなことを考えているとはとても思えない。フレイアちゃんの言った説もありえるだろう……だが、証拠がない」
「で、ですが……!」
「フレイアちゃんも貴族ならば知っているだろ? 大貴族の言葉の強さを。彼らが黒を白と言えば白になるのだよ」
はあ、と父がため息をつく。
フレイアは父のため息の重さを理解している。武門のパーティキュル家は単純明快な気風のため、他の貴族のような政治的な強さがない。おまけに階級は伯爵。決して強い家格ではなく、格上の公爵や侯爵の横暴に泣かされることも多い。
「もう今の状況は止まらない。ラーロットにオウマくんが捕まるまでね。もしもオウマくんがラーロットを振り払えば――」
一拍の間を置いてから、フレイア父が続けた。
「この国中が彼の敵となるだろう」
フレイアは目を閉ざした。
(オウマ、わたしはお前のことを信じているぞ)
そして、心の中で決めた。
もしもこの国がオウマの敵となろうとも――
自分だけは彼の味方であろうと。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
夜――
城内にいくつかある広場のひとつ。
城のあちこちに仕掛けられた魔法による明かりが、剣や槍で武装した鎧姿の男たちの集団を照らし出している。
先頭に二人の男がいた。
「ラーロットどの! 王命により一〇〇の兵をお預けする! この兵をもって逆賊オウマを必ずや捕らえられたし!」
王の使いが命令書を差し出し伝令する。
ラーロットは一礼しつつ、恭しくそれを受け取った。
「必ずや成し遂げましょう」
この瞬間――武装した男たちはラーロットの兵となった。
王城勤めの兵士たち。忠誠心も実力の質もそこら辺の傭兵とは段違いだ。そんな精兵一〇〇人がラーロットを主と仰ぎ見ている。
なんという気持ちよさか。
少し前までのファーブル家の面汚しの状況を思えば――
世界は完全に逆転した。
ラーロットは高笑いしそうになる自分を必死に押さえた。
(すばらしい……グレファンは本当に天才だ……)
すべては兄であるグレファンの策略だった。
王城を襲撃した魔族は壺から出てきたものではない。兄の手駒である召喚士の差し金だ。
召喚士の操る魔族二匹が王を狙う。
それを阻止するのがラーロットだ。
襲撃したものを襲撃させたものが防ぐという構図。単純な出来レース。しかし、効果は絶大だった。
王を守った英雄。
この一事だけでラーロットの汚名は一瞬で消え去った。
さらに、王からの絶大な信頼も勝ち得た。
たかだか平民二人を捕らえるために兵士一〇〇人は多すぎる。だが、オウマを警戒するラーロットは一〇〇人の兵を所望した。
王も驚いたようだが、
「よい。わかった。ファーブル公爵の嫡男の初陣。いや、命の恩人の初陣だ。王としても万難を排したい。要望を受け入れよう。成功せよ、ラーロット!」
そう言ってくれた。
本当にわずか一日ですべてが変わったのだ。
そしてそれはラーロットだけの話ではない。
(お前は俺とは逆。天国から地獄だな、オウマ……)
くくくくく、とラーロットは喉の奥で笑う。
オウマはリテイル侯爵の証言により指名手配犯となった。英雄の座から泥沼の奥へと突き落とされたのだ。
この国のどこにも逃げ場はない。
それだけでもラーロットは笑いが止まらないのだが、さらに傑作なのはラーロット自身が部隊のリーダーであること。
この手でオウマに引導を渡せる。
英雄ラーロットとして、罪人オウマに。
ラーロットはオウマを生かしておくつもりはなかった。それは兄の命令でもある。無実の男を生かして弁解の余地を与えるほどラーロットも兄も優しくはない。
オウマが抵抗したのでやむなく殺した。
それこそがこの事件の最後を飾る言葉。
(俺とお前が決着をつけるんだ。これ以上のシチュエーションはあるまい?)
ラーロットは腰の剣を引き抜き、天高く掲げた。
「聞け! 一〇〇の精兵たちよ! これより逆賊オウマを討つ! 相手は凶悪な男だが臆することはない! 諸君らには退魔の英雄ラーロットがついているのだから!」
おおおおおおおお! と兵士たちが呼応する。
「出撃だ! 王都外れにある廃教会へと向かうぞ!」
ラーロットの号令とともに一〇〇の男たちが動き出した。足音が、鎧のこすれる音が、空気を震わせて王都に轟く。
「さあ、すべて終わらせようじゃないか、オウマ……!」
ラーロットの哄笑が響き渡った。




