第三王女クレイシアルと七支刀が第六刃『聖音』
「お前こそ、何者じゃ? わしはクレイシアルであるぞ!」
どや、という顔で一〇歳くらいの女の子が名乗りを上げた。
ク、クレイシアル!?
俺はその名前を聞いて驚愕した。
驚くほど名前に覚えがない……。
「残念だが、クレイシアルなんて知り合いはいないんでね。俺にとってお前は生意気なクソガキでしかないんだよ」
「な、なんじゃと!?」
「ほら、嫌がってるだろ。やめてやれ」
俺はクレイシアルの首根っこをつかんでひょいと持ち上げる。クレイシアルは手足をばたばたして暴れた。
「お、お前!? なんということを!? 不敬じゃぞ!?」
「そうかそうか。偉いんだな。よかったな」
俺はクレイシアルを持ち上げたまま、赤毛の少年に目を向けた。
「お前、ひょっとしてフレイアの弟か?」
「姉さんを知っているんですか?」
「クラスメイトで師匠だからな」
「ひょ、ひょっとしてオウマさんですか!?」
「え、俺を知ってるの?」
「はい。姉さんから聞いていますので……すごく強い人だって。僕の名前はフラムと申します」
フラムは名乗ってから血相を変えた。
「オ、オウマさん! 早くその人を降ろしてあげてください!」
「え? どうして? こういう生意気なやつは少しくらい反省させてやらないとダメだろ」
「うがー! 離せー!」
クレイシアルが激しくじたばたする。
そこでルシフェルが口を開いた。
「その子は王族ですよ」
「は?」
「クレイシアル――確かこの王国の第三王女の名前かと」
俺はじっとクレイシアルの顔を見た。
「お前、王族なの?」
クレイシアルが勝ち誇った顔をした。
「ふっ! 今ごろ気づいたか!? わしの位の高さに? なら早くわしから手を離せ! そして土下座して命乞いせよ! さすればこの無礼、忘れてやらんこともないぞ!」
「そうか」
俺はいらっときた。
「位の高いやつなんだな。じゃ、高いところに行くか?」
そう言って、俺はぽーんと真上にクレイシアルを投げ飛ばした。
「いやああああああああああああああああああああああ!?」
昼下がりの青空に王女の絶叫が響き渡った。
「心配するな。落とさないから」
俺は落ちてきた王女をキャッチ、再び上空へと投げ飛ばす。
「きいいいいやああああああああああああああああああ!?」
しおらしく謝っていれば降ろしてやったのになあ……。
なんだかあの状況で降ろしたら権力に屈したみたいで嫌じゃないか。それにこのクソガキの教育上もよくない。権力をちらつかせれば誰でも言うことを聞くと思っちゃうからな。
世の中って意外と厳しいんだぜ?
俺はクレイシアルをキャッチした。
「どう? 俺の無礼とやら忘れる気になった?」
「こ、この程度で……クレイシアルが屈すると思うか!?」
「その意気やよし!」
「あああああああああああああああああああああああ!?」
そんな感じで一〇回ほど打ち上げたところでクレイシアルが根負けして「まじごめんなさい許してください許しますから」と泣きついてきたので降ろしてやった。
クレイシアルはドレスが土につくことも構わず、地面に突っ伏して肩でぜーはーぜーはー息をしている。やがて、がばっと頭を起こして敵対心むき出しの顔を俺に向けてくる。
お、やるのか、第二ラウンド?
「ダ、ダメですよ、クレイシアルさま!」
フラムがクレイシアルの肩に手を置く。
「許すって言ったじゃないですか!」
「わかっておる! わしも王族じゃ! 二言はない!」
クレイシアルはフラムの手をふりほどいて立ち上がる。
そして、転がっていた木刀を手に取った。
「おい、そこのオウマ。お主フレイアより強いのか?」
「まあ、そうだな」
「ならば、わしと勝負せい!」
「なんだお前。俺をボコッて憂さ晴らししたいのか?」
「違うわい! 単純に強いやつと戦いたいだけじゃ!」
「剣に自信があるのか?」
「ある!」
ふん、とクレイシアルが胸を反らす。
「わしはパーティキュル伯から直々に剣を習っておるのじゃ!」
ああ、なるほど。だから、フレイアの両親が王都に来ていたのか。そのつながりで弟くんと知り合いで、今日はこの屋敷に遊びに来たのだろう。
「王女なんだろ? 剣を学んでどうするんだ?」
「魔王を倒す!」
ほおー……。
力強い言葉だった。その言葉のおかげで、俺は少しばかりこの小生意気な王女さまに興味を持った。
「勝つ見込みはあるのか、王女さま?」
「ある! なぜならわしは七支刀が第六刃『聖音』を起動できるからな!」
「しちし……?」
なんだそれは、と俺は笑い飛ばそうとしたが――
総毛立つような気配を覚えて言葉が詰まった。
それは一瞬で爆発的に膨れあがり、あっという間に霧散した。俺は気配の出元に視線を送る。
ルシフェルはぷいと横を向いてそれをごまかした。
あいつ……何か知っているのか?
「とにかく! オウマとやら、わしと勝負せい!」
「ああ、いいぜ」
俺は余っている木刀を拾い、クレイシアルと相対した。
「ちょうど暇だったからな」
それから俺は倒しても倒しても挑みかかるクレイシアルを倒し続け、起き上がれなくなった彼女をフラムに託して場所を離れた。
ま、根性があるのは認めよう。
「あとはよろしく、フラムくん」
少し離れてから、俺はルシフェルに問うた。
「で、七支刀ってなんなんだ?」
「え、なんのことですか?」
「とぼけるな。お前むっちゃ反応してただろ」
「いやー……バレちゃいましたか。まさかこんなところで聞くとは思っていなかった単語なんでびっくりしてしまったんですよ」
ルシフェルが頭をかく。
確かに、こいつにしては露骨な反応だった。言葉の通り、それほどに衝撃的だったのだろう。
ルシフェルが我を失うほどのものなのか……。
「七支刀ってなんだ? まさか秘密とか言わないだろうな?」
「いえいえ、別に。七支刀というのはですね……聖剣にも格があるのはご存じですか? はい、知りませんよね。格があるんですけど」
「ちょっと待って! 知らないという決めつけはひどくないか!?」
「知ってたんですか?」
「知らない、かも……」
「格があるんですけど」
見事にスルーされてしまった。
「人間が使える聖剣で最高級に位置するのが七支刀です」
「むっちゃ強いんだ?」
「むっちゃ強いですね。たぶん、七支刀を使えばフレイアやラーロットくらいの聖気でも魔王さまにダメージが通ります」
「ほおー」
「でも、彼女たちでは使いこなせないですけどね」
「そうなの?」
「王女さまが言っていたでしょ? 自分なら起動できると。つまり、使える人間が限られているんですよ」
「なるほど、あの王女さまじゃないと使えないと」
「そうなります」
「そう言えば、七支刀が第六なんちゃらかんちゃらって言ってたけど、あれはなんなの?」
「七支刀は七本の聖剣につけられた総称なんですよ。よって七本の聖剣それぞれに第一刃から第七刃の名前がつけられています」
やだ。なんかかっこいい。
「七支刀ってことは七本とも剣じゃなくて刀なわけ?」
「いえ。ただの総称なので、普通の剣だったような気がしています」
わりと適当だなその辺。
「なんかすごい聖剣ってのはわかったよ。だけど、それだけでお前があんなに反応するとは思えないんだけど」
「……わかってしまいましたか」
「わかるさ。長いつきあいだからな」
「あれはですね、天界の回収対象の聖剣なのです」
「回収?」
「はい。聖剣というのはもともと天界から人間に無期限で貸与されたものなのです。その最高格こそが七支刀シリーズです。さすがにあれほどの逸品は天界でもレアなので、回収しようという動きになりました」
へえ、てことは本当に一級品の聖剣なんだな。
「すごいというレベルを超えて――それほどの銘品なのです。で、半分忘れかけていたところに久しぶりに聞いたものですから、びっくりしてしまったというわけです」
「ルシフェル」
「はい?」
「奪うなよ」
「え?」
「今お前、思いっきり王国の宝物庫だかに忍び込んでその七支刀とやらを盗む気だっただろ?」
「チョット、ナニイッテルカ、ワカリマセンネ?」
「盗む気だっただろ?」
「ナイナイ、ソンナキ、マッタクアリマセンヨ?」
「バレバレだって。長いつきあいだからな」
「長いつきあい、ですか」
俺の言葉に、ルシフェルがふふっと笑う。
「そうですね。バレてしまいましたか。魔王さまのご命令ならば仕方ありませんね。喉から手が出るほど欲しいんですけど諦めますよ」
肩をすくめるルシフェル。
だが、その顔はなぜか嬉しそうだった。
その後、俺たちは屋敷に戻った。フレイアが寝込んでいる以外は特に何もなく、俺たちは一晩を過ごした。大丈夫? フレイア?
そして、翌日――
俺たちはリテイル侯爵の屋敷へと向かった。




