完全武装で聖剣握って奥義ぶっ放したけど真剣勝負じゃないぞ?(きりっ)
「私がフレイアの父、こちらが妻だ。そう肩肘張らずに気楽にしてくれていい。そこにかけてくれたまえ」
にこやかに席を薦めてくるフレイア父。
ちょっとばかり俺は感動してしまった。なんかもう、フレイア以外ろくな貴族がいないからさあ……リテイルも俺たちをずっと立ちっぱなしにさせてたしなあ……たかが席を薦められたくらいで涙が出そうになっちゃうよ……。
「ルシフです」
如才なくルシフがすっと頭を下げる。
おっととと……俺も挨拶しなければ。
「オウマだ」
あれれれー? フレイアの両親がちょっとぎょっとしてるぞ? ついでにフレイアもビビってるぞ?
「申し訳ございません」
いきなりルシフェルが頭を下げた。
「兄は敬語が喋れないのです」
ああ、そうだった。俺は一六歳の平民という設定なのだ。年上の貴族からすると「オウマだ」とため口で自己紹介されるとびっくりするわけか。……本当のところ俺こそが貴族どころか王で年上なのだが。
とはいえ、フレイアには世話になっているし、フレイアの両親も人が良さそうだ。ここは意地を張らずに――
ルシフェルの舌がさらに高速回転していた。
「兄は五歳の頃に生死の境をさまよう病気にかかりまして。そのときの高熱で後遺症が残ってしまいました。病名は『後天性敬語不認識症』と申しまして敬語を認知できないのです。本人は敬語を喋っているつもりなのですが……」
そう言って、ルシフェルが目頭を押さえて、うっうっうと泣く。
「そ、そんな過去が……!」
「そうだったのか、オウマ!?」
フレイア父とフレイアが哀れみのこもった目で俺を見てくる。
そ、そうだったのか……だから俺は敬語が喋れないのか! 俺自身も初めて知る衝撃の事実!
……なんてことあるかーい!(ノリツッコミ)
ルシフェルの演説がまだ続く。
「そこでわたしは決心したのです。兄の分まで敬語を喋ろうと!」
「だ、だからルシフはいつも誰に対しても敬語だったのか……!」
フレイアが今わかった! みたいな顔でうなずいている。
いや、思いっきりだまされてるからな、それ?
「兄は敬語を喋っているつもりなのです。しかし、敬語にならないのです。兄の心にある敬意を表すためにも、この不肖の妹が兄の分も敬語を喋ります。なにとぞ兄の無礼については水に流していただければと……」
「うんうん。わかったわかった。病気なら仕方がない。気にしなくていい。オウマくん、君は本当にいい妹さんを持ったね……!」
「あ、はい」
身体を伸ばして俺の肩をばんばんと叩くフレイア父に俺は生返事を返した。なんか知らんがルシフェルの株が上がってた。ていうか、よくもあんなデタラメがすらすらと出てくるな。天才か?
「寛大なお心遣いありがとうございます」
ルシフェルが頭を下げた。
「誠に心苦しいのですが、もうひとつ甘えさせていただけないでしょうか、パーティキュル伯爵。この話を他の貴族さまたちにもお伝えしていただきたいのです。兄はさらに有名になり名を轟かせる身。今後も貴族さまと会う機会も増えるでしょう。そのたびにご不快な思いをさせるのはあまりにも忍びないのです」
「任せたまえ! 多くの貴族がオウマくんに興味を持っているのだ。オウマくんに悪くならないよう、わたしから国中に伝えておこう!」
感動した! 当然じゃないか! みたいな口調で熱くフレイア父がうなずく。この辺のおせっかいな性格はフレイアと同じなのだろう。
ルシフェルが深く頭を下げた。
「ありがとうございます!」
いつの間にか俺のため口が王国公認になった瞬間だった。
ああ……なんかまた俺に関する変な噂ができている……。
「まあまあ、オウマくん。細かい礼儀の話は別にいいよ。私は君と話がしたいんだ」
「俺と?」
「噂は聞いているよ。学校での武勇伝。それに、うちのフレイアを弟子にしたんだって?」
わー、俺の噂って本当に広まっているんだね……。
「いろいろと話を聞かせて欲しいんだ。この子は剣の道にはうるさい子でね。その子が師匠という男。実に興味があるんだ」
俺はフレイアの両親にいろいろと話した。学校のこと、フレイアとの訓練のこと。
フレイアの両親はなかなか気さくな人物で俺との会話を楽しそうに聞いてくれた。おかげで俺も気持ちよく話すことができた。
「ところで、オウマさん」
そう言ったのは、上品なマダムのフレイア母。
「うちの娘とは戦ったことはあるのかしら?」
「知り合ってからは訓練が主だが……最初の頃はそうだな」
げふんげふんとフレイアがわざとらしく咳払いをした。
「そ、そうだな、ちょっと遊びのような戦いをな、オウマ……! 遊びみたいな。そ、そうだ、母上。ルシフはとても成績が優秀で――」
「フレイアさん」
フレイア母がぎろりとフレイアをにらむ。
「わたしはオウマさんに訊いているのです。割り込むのが貴族のたしなみですか?」
「も、申し訳ありません……」
しゅんとフレイアが小さくなった。なんだかぷるぷる震えている。
「それはどんな戦いかしら?」
「うーん、そうだな……最初は学校の模擬戦でね。いい勝負だったんだが、運悪くフレイアの剣が折れて中断になってしまったな」
「そう、模擬戦だったのね。最初は」
最初は、を強調してから、フレイア母が続けた。
「最初以外にもあるのかしら?」
「最初以外かあ……」
「たとえば、この子には聖剣を持たせているのだけど、その聖剣を持ちだして戦ったとか」
「おお、あったぞ」
「聖剣を……?」
そんなことを言いながら、フレイア母がちらりとフレイアを見る。フレイアはびくりと身体を震わせた。フレイアが不安げな視線を俺に向けてくる。
俺はうなずいた。
大丈夫だ。覚えているぞ。真剣勝負については喋らないでくれという話は。安心しろ。俺とお前で真剣勝負をしたことはない。だからうかつなことを喋る可能性は、ゼロ!
「聖剣以外にはどんな装備をつけていたの?」
「なんだか赤い鎧と盾を持っていたな。完全武装だったよ」
「完・全・武・装!」
フレイア母が鼻息を荒くしている。
「で、その完全武装で『業炎の大刺突』を撃ってきたよ」
「完全武装の上に、奥義まで!」
フレイア母が目をむいている。フレイアは額に手を当ててうなだれている。あれ? なんか失言してる、俺?
「そこまで切り札を切ったのだから、もちろん娘が勝ったのよね?」
「いや? 俺の完勝だよ」
「真剣勝負で……完敗した、と……」
フレイア母が呆然とつぶやいた。
え? 真剣勝負?
今のって真剣勝負だったの?
がたっと音がした。
「も、申し訳ない! お腹が痛くなってきたのでお手洗いに……」
そう言って立ち上がるフレイア。
「フレイアさん」
フレイア母が娘の名を呼んだ。その声は氷のナイフとなって逃げ出そうとするフレイアの足下に突き刺さった。
「今から少し――お話をしましょうか?」
「は、はい……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
その後、パーティキュル家の緊急会議が開かれるとのことで俺とルシフェルは部屋から追い出された。部屋を出るとき、
「なんか、すまんな……フレイア……」
と謝ると、フレイアはげっそりした顔ながらも笑みを浮かべた。
「いや、ちゃんと話をしていなかったわたしも悪いんだ。気にしなくていいぞ?」
「ところで、真剣勝負で負けると問題あるの?」
俺がそう聞くとフレイアは顔を真っ赤にした。
それが示すのは――羞恥
ああ、そういうことか。
俺は合点がいった。
そんなことなら最初から言ってくれれば良かったのに。
「わかったよ、フレイア」
「え?」
「真剣勝負に負けるとさ――怒られるんだよな?」
フレイアはぽかんとしていたが、首をぶんぶんと振った。
「そ、そうだ! 怒られるんだ!」
「まじでごめんな……」
俺たちはフレイアと別れた。
フレイア家の廊下を歩きながらルシフェルが俺に訊いた。
「部屋に戻りますか?」
「いや……せっかくだしぶらぶらしよう」
そう言って、俺たちは屋敷の外に出た。庭を歩いていると、人の話し声が聞こえてくる。
「こら、お主! 本ばかり読みおってからに……武門のパーティキュルの名が泣くぞ?」
「で、でも……僕はあまり剣術が得意じゃありませんし……」
「諦めるのはよくないのお……。わしはお主に将となってもらいたいのじゃが……わしがその性根をたたき直してやる!」
「いたたたたた! や、やめてください、クレイシアルさま……!」
そちらに足を向けると、一〇歳くらいの二人の子供がいた。
一人はフレイアと同じダークレッドの髪をした、脇に本を抱えた男の子。だが、印象は鷹のようなフレイアとは真逆。線が細く優しげな表情をしている。
その男の子につかみかかっているのがおかっぱ金髪頭の女の子だ。右手に木刀を持ってぶんぶん振っている。やたらと高そうな白いドレスを着ているが、すでに裾のあたりは土で汚れて台無しだ。
「何をやってるんだ、お前たちは?」
俺が声をかけると、おかっぱ頭の女が振り返った。大きな三白眼で俺をにらみつける。
「お前こそ、何者じゃ? わしはクレイシアルであるぞ!」
……誰?




