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威張っているザコの相手とか超疲れるんですけど?

 王都に来たその足で、俺とルシフェルはリテイル侯爵の家へと向かった。招待客ではないフレイアは、


「わたしは先に家へと戻る。話が終わったら来てくれ」


 そう言って俺たちと別れた。


 王都に来たのは二度目。一度目は学校の入学試験をしたときだ。

 王城を中心に貴族たちの邸宅が並んでいる。俺たちは教えてもらった道順どおり歩き、侯爵の家までやってきた。

 さすがに侯爵の家はでかい。俺たちの寮よりも大きな家だ。立派な庭までついている。


 門の近くで待っていると、仕立てのいい服を着た男がやってきた。年の頃は三〇歳くらいだろうか。腰に剣を差している。


「お前がオウマか」


 その目は実に尊大で、俺たちを見下すのを隠そうとしない。

 なるほど、仲よくするつもりはないようだ。


「そうだが。あんたは誰だ?」

「俺はリテイルさまの側近でグレイという。お前たちを連れてくるように言われている。ついてこい」


 それだけ言うと、男は俺たちに背を向けて一瞥もせずに歩き出す。

 側近ねえ……。

 グレイと名乗った男の身体は服の上からわかるほどに鍛えられている。おまけに腰の剣。ただの側近とは思えないのだが。


 グレイは邸宅の玄関に通じる道をはずれ、庭の片隅へと俺たちを誘導する。


「おいおい、どこに行くんだ?」

「いいから黙ってついてこい」


 なんて冷たい言葉を返して。


 俺たちが連れてこられたのは庭の片隅だった。そこには武器を持った四人の男たちが立っている。

 そこでようやくグレイは俺のほうを向いた。


「侯爵さまからの命令だ。お前の実力を試せと」


 四人の男たちがにやにやとした――明らかに俺たちを格下と見下した顔を向けている。


「俺を痛めつけたくて王都に呼び出したのか?」

「勘違いするな。侯爵さまはそんなお方ではない。純粋にお前たちが任務に足る力を持っているか試すだけだ」

 

 はいはい。口ではなんとでも言えますよね。

 グレイが余っている剣を俺の足下へ投げる。


「こちらからひとりずつ出して順番に戦ってもらう。別に勝つ必要はないが、それなりの戦いはしてもらいたい。できなければ侯爵さまに会うことなく帰ってもらう」

「ははっ!」

「何がおかしい?」

「遠慮はするな。五人がかりでかかってこい」

「な、なんだと……?」

「時間の無駄だと言っているんだ。一気に終わらせてやるよ」


 俺の挑発に、グレイたちの殺気が膨らむ。

 勘弁してもらいたいものだ……自分の分をわきまえていないバカと相まみえるのは。少しばかり警告しておいてやるか。

 俺は足下にある剣を拾った。


「そうだ、少しばかり余興を見せてやろう」


 鞘に入れたまま、剣の先端と柄を握って力を込める……といっても、ほんのちょっぴりなのだが。

 ぴきっという音ともに剣が曲がった。

 そのまま、びき、びき! と音が続き、ついには剣が真っ二つにへし折れた。


「返すよ。高いやつだったらすまんな」


 俺はグレイの足下に折れた剣を投げ返した。

 俺の一芸を見てグレイたち五人が明らかにたじろいでいる。おおかた俺を集団リンチするだけの簡単な仕事だと思っていたのだろう。あてがはずれたな。さっきのやる気はどこ行ったの?

 グレイが剣を引き抜く。


「ふっ……どうやら力自慢のようだが、その程度で試験を突破できると思ったら大間違いだ!」


 あ、立ち直った。


「いいだろう! お前の言うとおり五人がかりで挑んでやる! 我々を侮ったこと後悔するなよ!」


 グレイの言葉に従い、他の四人もまた抜剣する。

 俺は手をひらひらと振った。


「前置きが長いよ、お前は。言っただろ? 時間の無駄だと。武器もいらない。素手でやってやる。さっさとかかってこい!」


 激高した男たち五人が俺へと向かってくる。

 とはいえ、ザコ五人との戦いなど細かく描写する必要もない。

 がし! ぼか! どこ! べし!

 俺は四人をあっという間に倒し、グレイへと向き合う。


「どうした? もう一対一だぞ?」

「う、うわああああああああああああ!」


 悲鳴なのか雄叫びなのか、よくわからない声をあげてグレイが俺目がけて剣を振り下ろす。

 逃げない心意気は感心しよう。

 ま、心意気だけで魔王が倒せれば苦労はないが。

 俺はグレイの剣を刃ごと片手で握り止めた。


「な――!?」

「いくら暇な俺でも実に時間の無駄だったよ。まだやるのか?」


 グレイは真っ青になった顔で首をぶるぶると振った。


「い、いや……! わかった! 侯爵さまにあわせよう!」


 わかればよろしい。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 俺とルシフは侯爵の応接室に通された。

 バカでかいテーブルの向こう側に、五〇歳くらいのおっさんが座っていた。俺は貴族だぞ! と叫ぶかのような派手な赤い服を着て、鼻下の左右にメダカのような髭を生やしている。


「よく来たな。オウマ……だったか」


 だったか、ってなんだよ。お前が俺を呼んだんだろうが。

 さっきのグレイといい、初手からケンカ腰なのなんとかならんのか。もうちょっと隠せよと。


「そうだ。俺がオウマだが?」

「そちらの娘さんは?」

「オウマの妹でルシフと申します、侯爵さま」

「はっはっは。美人だな。それに兄と違って礼儀がわかっておる!」


 上機嫌に喋りながら、さりげなく俺をディスるリテイル侯爵。

 うるせーな。どうして魔界の王である俺がお前みたいに不愉快でショボいたかだか貴族に礼儀を守らないといけないんだ。


「おっさん、俺に何の用だ」

「貴様……!」


 後ろに控えていたグレイが怒りの声を上げる。

 リテイルが手を上げてそれを制した。


「よいよい。自分を過信しているのだろう。だが若いの。権威ある年上には敬意を払うものだ。でなければ、あらぬところで怒りや不興を買い、人生を台無しにする」


 リテイルが自分の首を指で切る仕草をする。


「最悪、死ぬこともある。注意することだ」


 くくくく、とリテイルが笑う。

 うーむ。そう言われてもなあ……。

 俺はお前よりも年上なんだが……。

 魔族は基本的に人間よりもはるかに長命である。俺も例外ではなく、このおっさんよりは充分に長生きしている。

 言えないのがもどかしい限りだが。


「では、お前たちへの依頼を話そう」


 リテイルが腕を伸ばした。彼が指した先には頑丈そうなケースに入った古びた壺があった。


「あの壺をお前たちに守ってもらいたい」


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