灼炎姫の恋(中) ~恥ずかしくて顔が爆発しそうだ!~
模擬戦が始まった。
といってもオウマが何か教えてくれるわけでもない。単にフレイアがオウマに全力で打ち込むだけ。
だが、それだけでも充分だった。
オウマという高い壁。今まで遭遇したことのない存在とぶつかりあえるだけでフレイアにとっては貴重な経験だった。
それはいつもどおりの訓練。
だが、いつもどおりではなかった。
オウマの剣とフレイアの剣。ぶつかった二本の剣が金属音を響かせるたびに、フレイアの胸がきゅんと高鳴るのだ。
そして、頭のなかの小フレイアが唄いながら踊っている。
――きんきんきんきん♪ きゅんきゅんきゅんきゅん♪ 二人の模擬戦楽しいな♪ 恋の模擬戦嬉しいな♪ 気づいて欲しいマイハート、気づかれて怖いマイハート♪ デートしたいなんて言い出せない! 臆病なわたしは踏み出せない! だから模擬戦♪ 模擬戦♪ ふたりできんきんきんきん♪ きゅんきゅんきゅんきゅん♪ ずっと続けばいいのにな♪
「あああああああああああああああああああああ!」
フレイアは煩悩を払うように、ものすごい形相でオウマに剣を振るった。
「フ、フレイア! 落ち着け! そんなペースじゃもたないぞ!」
オウマが制止する。
実際そうだった。フレイア自身も疲れを感じていたし、息も上がりつつあった。
だが、止まるわけにはいかなかった。
フレイアの心がこう反応したからだ。
(やはりオウマはわたしのことをよく見てくれているな)
ちょっと嬉しくなった。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
フレイアはその気持ちを否定するかのごとく、さらに加速した。
「フレイア!? さらにペースアップしているが!?」
「かかかまわん! ぼぼぼ煩悩を追い払いたいのだ!」
「ぼ、煩悩って……。ていうかお前、口から火が漏れてるけど、大丈夫?」
オウマに言われてフレイアは慌てて自分の口を左手で押さえた。
恥ずかしかった。
間違いなく、胸の高まりが止まらないせいだ。
「うううううううう!」
フレイアが口を押さえたまま剣をぶんぶん振るう。
「危ない、危ないって! 口ふさぎながら剣を振るなよ! と、とにかく止まれ!」
オウマの制止の声は少しばかり遅かった。
疲れと変な姿勢で剣を振り回していたせいで、フレイアは見事に体勢を崩した。
前につんのめったフレイアは、急速に迫る地面を見た。
(――しまった!)
フレイアは剣を手放し、両手を前に伸ばす。
だが、その身体が地面に転ぶことはなかった。
「おっと」
オウマがフレイアを支えたのだ。
オウマの腕がフレイアの腰から脇を背後からグリップしていた。
「大丈夫か、フレイア?」
「あ、ああ……」
フレイアは身体をこちこちに強ばらせていた。オウマがすぐ側に立っていて、その身体の一部が触れあっているのだから。
フレイアの頭の芯がかっとなり、熱を帯びた。
「と、とにかく……は――」
離れてくれ!
とフレイアは言おうと思った。
もちろんオウマが嫌いだからではない。これ以上くっついていると頭がどうにかなりそうだったからだ。
だが、それよりも早くオウマは次の行動に移っていた。
「今日はおかしいぞ、フレイア。熱でもあるんじゃないか?」
オウマの手がフレイアのおでこに触れた。
オウマの手が、フレイアのおでこに、触れた。
その瞬間。
ぼっっごおおおおおおおおおん!!
派手な音ともに、フレイアの顔が爆発した。
文字通り爆発した。顔から火を噴くを現実に再現して見せたのだ。オウマもびっくりしたし、フレイアもびっくりした。
(し、知らなかった……気をつけよう……)
どうやら恥ずかしいと火を吐くが、それがさらに高まると顔が爆発してしまうらしい。
「な、なんで爆発したの!? だ、大丈夫か、フレイア!?」
オウマが驚いた顔でフレイアを見る。
オウマの手はなんともなかった。『業炎の大刺突』を素手でつかむくらいなのだ。この程度の爆発びくともしないだろう。
普通の人だと手が吹っ飛んでいた可能性もあるので、相手がオウマでよかったとフレイアは思った。
――やっぱりオウマくんとフレイアはお似合いだね☆
小フレイアのそんな声に反論する気力をフレイアは持っていなかった。疲れやら動揺やらで意識が朦朧としてきたのだ。
(もう……どうとでも言ってくれ……)
すべてが面倒になったフレイアは意識を保とうとする努力をやめ、そのまま気を失った。
寝て覚めればきっとすべてが元通りだと信じて。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
寝て覚めると状況はさらに悪化していた。
ゆらゆらとした身体全体の揺れを感じて、フレイアの意識は目覚め始めた。
(ん……なんだこの揺れは……)
フレイアはゆっくりと目を開く。
まず最初に視界いっぱいの空が目に映った。陽が傾き始め、輝きを失いつつある鈍い色。
そんな空を背景に――
オウマの顔がすぐそこにあった。
(……ん?)
フレイアは目をぱちくりとさせた。
位置関係がいろいろおかしい。
青空が見えるということはフレイアは仰向けになっているということだ。それにしてはオウマの顔の位置がおかしい。まるでフレイアが胸のあたりから彼を見上げているような距離だ。
仰向けなのに、胸のあたりから?
おまけに背中と膝の裏に感じる、何者かの手の感触――
かっとフレイアは目を見開いた。
これらの符丁が示すものはたったひとつ。
(お姫さまだっこ!?)




