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オウマは魔王を倒す剣となる男! 伝説はここから幕を開ける!

 ミファーを助け出した翌日、俺は学校をサボって爆睡した。

 とにかく眠かった。

 ミファーを救護室に連れていった後、騒ぎを聞きつけた教師たちに連行されて朝まで質問攻めにあったのだ。

 教師たちが俺に質問するのは当然だ。

 そもそも当事者の五人のうち四人が気絶していたのだから。


「ミファーを追いかけて森に行ったら森が火事になっていきなり爆発した。俺は他の四人を抱えて逃げた」


 俺はそう説明した。

 俺が隠したいのは森を吹っ飛ばしたことだけだ。知らぬ存ぜぬ。なんか奇跡が起こっちゃいましたね。真相を知るのはミファーだけだろうが、あいつもまともな状態ではなかったから記憶は残っていないだろう。

 教師から解放されて俺はそのまま部屋に戻って寝た。


 で、さらに翌日。

 学校に登校すると全校生徒を集めた緊急集会が講堂で開かれた。


 森が火事になって、おまけに半分吹っ飛んだのだ。大事故だと判断した学校側は生徒たちへの説明の場を作ったようだ。

 とはいえ、教師たちの説明は要領を得ない。

 肝心の森の爆発について、はっきりとした原因を説明できないのだからそうだろう。


 調査中である!

 を連発している。すべてを知る俺はもちろん、他の生徒たちですら退屈気味である。


 この集会いらなくない?


「この集会いらなくない? とお思いですか、魔王さま?」


 俺の隣でルシフェルが小声でささやく。


「怖……お前って俺の心が読めるの?」

「魔王さまの副官ですから当然です」


 当然かなあ……。


「確かにこの集会は不要です。であるならば、他の狙いがあるということです」

「ほう。それは何だ?」

「古来より敗戦した側ほど自軍の奮闘を喧伝けんでんし、貢献した将軍に勲章を与えたそうです。負けたことから民衆の目をそらすためには英雄が必要ということですね」

「へえ、そうなんだ」


 ためになるなあ、ルシフェルのうんちくは。伊達に本をたくさん読んでいない。

 だけどその話、今する必要なくない?


「だけどその話、今する必要なくない? と思っていますか?」

「え、ええ……どうしてわかるの……?」

「魔王さまの副官ですから当然です」


 ルシフェルがメガネをちゃきっといじり、にやりと笑う。


「というわけで魔王さま。英雄役として茶番劇におつきあいください」

「は?」


 いつの間にか前で喋っている人間が中年の教師から爺さんに変わっていた。

 確かこの学校の学長だ。入学式で見た。


「残念なことに儂らはまだ森での事故について君らに説明する言葉を持ってはおらん。じゃが、もっとも大事なことは犠牲者がいなかったことじゃ。巻き込まれた生徒たちのうち誰かが死んでもおかしくないほどの大事故じゃ。にもかかわらず誰も死ななかった。これは偉大なる奇跡と言っていい。しかし、これは決して神より与えられただけの奇跡ではない。それをなさしめた偉大なる人間がいた。儂はそのものの努力と奮闘を皆に伝えたいのじゃ」


 一拍間を開けてから、爺さんは続けた。


「そのものはこの学校の生徒で、名をオウマという」


 へえー、オウマって言うんだ。

 ……。

 俺!?


「彼が勇気を持って行動しなければ、他の四人は死んでいたじゃろう。その勇気を称え、儂は彼を表彰したい。オウマよ、前へ」


 オウマよ、前へ。

 その言葉と同時、俺の周りにいた生徒たちが自然と道を作った。その動きに気づいた前の生徒たちが左右に動く。その流れはだんだんと前へ前へと広がっていき――

 俺の前には人垣による道ができていた。

 お、おおお……。

 え、前に行かないといけないの、これ?


「どうぞどうぞ行ってきてください。主が栄光に預かる瞬間を見ることが副官の幸福ですから」


 なんてルシフェルは殊勝なことを言っているが、言葉のあちこちに「ぷくくく」という笑い声が混じっている。

 まったく気が進まないが――

 無視することもできまい。

 俺は前へ前へと歩き出した。ここには他の学年も含めた全校生徒がいる。俺のことを始めて知る生徒も多いだろう。彼が俺を見ながらこそこそとささやく。


「あいつがオウマか……普通っぽいがすごいのか?」

「噂だと、あのラーロットを入学式でぶっ飛ばした平民とか……」

「本人の顔はアレだが妹さんは超絶美人らしい」

「理力ゼロのおちこぼれとか聞くけど」

「新入生ナンバーワンのフレイアを舎弟にしたってって話だぞ」

「平民が貴族を? 冗談だろ?」


 うん、とりあえず、俺の顔をアレ呼ばわりしたやつ、ゆるさんぞ。

 ていうか、フレイアが舎弟とか微妙にズレてない? 弟子だぞ。噂だからそういうものかもしれないけどさ。

 少しばかり怖いなあ。

 これで有名になったからもっと変な噂が立ったりするんだろうか。魔王の俺が山のような大男とか人を食べるみたいに言われているみたいにさ……。

 俺には俺の意図していない風評が立つ運命でもあるのだろうか。

 俺は舞台の上にあがり、学長の前に立った。

 学長はまるで孫でも見るかのような目で俺を見るとうんうんとうなずいた。


「君のおかげで四人の命が救われた。その健闘をここに称え、君に勲章を与えよう」


 と言って爺さんは俺に勲章をくれた。

 正式に国に登録されているものなので国がくれるものと同じくらいありがたく名誉があるらしい。確かにもらうとき、後ろの貴族たちがざわざわしていたな。

 なんだか興味がない俺がもらうのが申し訳ない気分である。終わったら即引き出し行きだろうしなあ……。

 はい。終わり終わり。

 もう戻っていいよね?


「オウマくん。あちらを見たまえ」


 爺さんが生徒たちのほうを手でさす。

 はい。まだ帰れませんよねえ……。

 言われたとおり振り返ると、全生徒たちがじっと俺を見ている。羨望せんぼう猜疑さいぎ誰何すいか……彼らの目には様々な感情の輝きが込められていた。


「皆のもの、聞くがよい。オウマくんは危険を顧みず四人の命を救った。勇者とは自らの命を危険にさらしてでも弱きものたちを救うもの。彼の行動はまさにそれを体現しておる!」


 うーん……なんだろこの流れ。嫌な予感しかしないんだが。


「この者こそ、まさに勇者の鏡じゃ!」


 あ、その流れですよね、やっぱり。

 爺さんの声と同時、勇者候補生たちがざわついた。


「学長にそこまで言わせるのか……!?」

「ということは本当にすごいのか……?」

「いや……さすがに言い過ぎじゃない?」


 なんて声が聞こえてくる。まだ少し信じ切れていない様子だ。そうだよね。うんうん。別に目立ちたくないからそういう感じがいいよ。


「……皆のものはまだ信じられないようじゃな。しかし、儂は聞いておるよ。あの武門でならすパーティキュル家のご令嬢ミス・フレイアもまた彼を『本当の勇者』と称えたと!」


 再び学生たちがざわめいた。

 待ってましたと言わんばかりに、フレイアがよく響く声で叫ぶ。


「その通り! このフレイア・パーティキュルの名においてオウマの実力、人望を保証しよう!」


 ぎゃああああああああ! そういう保証いらないからああああ!


「オウマは魔王を倒す剣となる男! まさに人類の希望! 皆もまた英雄となる男の始まりをその両眼にしかと焼き付けよ! 伝説はここから幕を開ける!」


 その瞬間――

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!

 フレイアの口調に触発されたかのように、学生たちの熱を帯びた声が講堂に響き渡る。

 フレイアお前、煽るのうまいなあ……。

 フレイアは俺をじっと見て「どうだ、言ってやったぞ」みたいな満ち足りた表情をしている。

 あ、ありがとう……(震え声)

 背後から爺さんが俺の肩に手を置いた。


「儂も君には期待しておる。打倒魔王……ひょっとしたら本当に君のような男が果たすのかもしれんな」

「ははははは……」


 俺は笑うしかなかった。とりあえず笑ってごまかした。

 いつの日か本当に打倒魔王に送り出されそうな気がしてならない。

 俺が魔王なんですけどねえ……。


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