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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第一章 偽りの戦線
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第九話 嘘を守るもの



 地下施設から戻った後。


 アシュレイはほとんど眠らなかった。


---


 机の上には、あの紙が置かれている。


---


『国を守るための嘘は』


『いつか国を壊す』


---


 何度読んでも。


 意味は変わらない。


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 しかし。


 気になるのは文章ではなかった。


---


 なぜ。


 自分に向けたのか。


---


「悩んでいますね」


---


 声に振り返る。


 ミレイだった。


---


「顔に出ていますか」


---


「少しだけ」


---


「珍しいですね」


---


 ミレイは椅子に座る。


---


「いつものあなたなら、すぐに分析を始めます」


---


「分析しています」


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「違います」


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 即答だった。


---


「あなたは今、考えている」


---


「何が違うのかを」


---


 アシュレイは黙る。


---


 確かに。


---


 犯人の目的。


 地下施設の価値。


 帝国の関与。


---


 それらは考えられる。


---


 しかし。


 一番引っかかっているのは。


---


 自分の信念だった。


---


「ミレイ」


---


「はい」


---


「嘘は、悪だと思いますか」


---


 突然の質問。


---


 ミレイは少し考える。


---


「場合によります」


---


「便利な答えですね」


---


「諜報員ですから」


---


 ミレイは淡々と言う。


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「嘘で人を救うこともあります」


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「でも」


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「嘘をついた本人が、その嘘を正義だと思った瞬間」


---


「危険になります」


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 アシュレイは顔を上げる。


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「なぜですか」


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「自分を疑わなくなるからです」


---


 その言葉は。


 深く残った。


---


 その日の午後。


---


 帝国外交官レオンから面会の申し出が届いた。


---


「また彼ですか」


 ギルが警戒する。


---


「警戒するのは正しいです」


 アシュレイは答える。


---


「ですが」


---


「会わない理由にはなりません」


---


---


 街外れの小さな館。


---


 そこにレオンはいた。


---


「お久しぶりです」


---


「数日前に会ったばかりですが」


---


「外交官にとって数日は長いですよ」


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 レオンは笑う。


---


 しかし。


 その表情は以前より少し疲れていた。


---


「あなたも知ったようですね」


---


「何をですか」


---


「地下施設」


---


 アシュレイは警戒する。


---


「なぜ知っているのですか」


---


「帝国も調査していたからです」


---


 あっさり認める。


---


「つまり」


---


「帝国はヴェルナを狙っている」


---


「半分正解です」


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 レオンは答える。


---


「では、残り半分は?」


---


「帝国の全員が同じ目的ではない」


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 レオンは窓の外を見る。


---


「大国というものは」


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「一人の意思では動きません」


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「皇帝の命令」


「軍の判断」


「貴族の利益」


「商人の欲望」


---


「全てが絡みます」


---


 アシュレイは理解する。


---


 帝国という巨大な存在。


---


 それは一つの意思を持つ怪物ではない。


---


 多くの人間が動かす巨大な仕組みだ。


---


「では」


---


「あなたは何を求めているのですか」


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 レオンは少し黙った。


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「戦争を避けたい」


---


 意外な答え。


---


「帝国外交官としては」


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「珍しいですか?」


---


「いえ」


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 アシュレイは首を振る。


---


「大国の人間ほど、戦争の代償を知っていると思っています」


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 レオンは少し笑った。


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「やはり面白いですね」


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「あなたは帝国を恐れている」


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「しかし」


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「帝国の人間を一括りにしない」


---


---


 その時。


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 レオンの表情が変わった。


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 一瞬。


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 ほんの一瞬。


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 警戒。


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 アシュレイは見逃さない。


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「何かありましたか」


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「……」


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 レオンはため息をつく。


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「あなたは本当に厄介ですね」


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「褒め言葉として受け取ります」


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「では忠告です」


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 レオンは声を落とす。


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「ヴェルナで起きていること」


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「帝国と王国の争いだと思わない方がいい」


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 アシュレイは目を細める。


---


「では何ですか」


---


 レオンは答える。


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「誰かが」


---


「帝国と王国が争うように仕向けている」


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 静寂。


---


 アシュレイの中で。


 点だった情報が繋がり始める。


---


 軍の移動。


 失踪者。


 地下施設。


 脅迫。


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 全ては。


---


 戦争を起こすための準備なのか。


---


「なぜ私に教えるのですか」


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 アシュレイが聞く。


---


 レオンは少し笑った。


---


「簡単です」


---


「あなたが失敗すると」


---


「私も困るからです」


---


 敵。


 味方。


---


 そのどちらにも分類できない男。


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 それが。


 レオンだった。


---


 その夜。


---


 アシュレイの元へ最後の報告が届く。


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『失踪者三十七名』


『全員、死亡確認』


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 短い報告。


---


 しかし。


 その下に続きがあった。


---


『ただし』


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『一名を除く』


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 アシュレイは息を止める。


---


 名前。


---


 そこに書かれていた名前は。


---


 ヴェルナ鉱山の元技師。


---


 そして。


---


 アシュレイの父が生前、唯一信頼していた人物だった。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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