第十話 開かれた扉
その名前を見た瞬間。
アシュレイの思考が止まった。
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報告書。
そこに書かれた名前。
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## エドガー・ヴァイス。
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アシュレイの父。
ではない。
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しかし。
父が最後まで信頼していた男。
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元王国鉱山技師。
十年前、突然姿を消した人物。
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「生きていた……?」
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ミレイが資料を見る。
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「確認します」
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しかし。
アシュレイは首を振った。
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「いえ」
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「確認する前に、考える必要があります」
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ギルが眉をひそめる。
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「なぜです?」
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「この情報が出るタイミングが不自然です」
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三十七人の失踪。
地下施設。
脅迫者。
帝国軍人。
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そして。
父の旧友。
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偶然が重なりすぎている。
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「誰かが」
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アシュレイは言った。
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「私に、この情報を見せている」
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翌朝。
アシュレイはヴェルナ鉱山へ向かった。
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目的は一つ。
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生存者。
エドガー・ヴァイスを探すこと。
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しかし。
鉱山へ入る前。
一人の男が待っていた。
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黒い外套。
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昨日の人物。
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「また会いましたね」
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アシュレイは言う。
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男は驚いた様子を見せる。
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「恐れないのか」
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「恐れています」
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「……」
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「ただ」
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アシュレイは続ける。
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「恐れていることと、動かないことは別です」
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男は少し黙った。
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「父親に似たな」
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「父を知っているのですか」
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「知っている」
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「そして」
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男は言う。
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「あの人間は失敗した」
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アシュレイの表情が変わる。
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「何を?」
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「守ろうとした」
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男は答える。
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「全てを」
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鉱山内部。
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地下施設。
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さらに奥。
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そこに小さな部屋があった。
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中には。
一人の老人。
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「……アシュレイ?」
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老人は目を開く。
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「本当に」
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「大きくなったな」
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アシュレイは言葉を失う。
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「エドガーさん」
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老人は笑った。
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「父親に似たな」
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「その言葉」
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「何度目でしょうね」
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老人は悲しそうに笑う。
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「君の父は」
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「最後まで国を信じていた」
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アシュレイは聞く。
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「何を知っているんですか」
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老人は答える。
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「ヴェルナの地下施設」
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「そこにある技術」
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「それを巡って」
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「帝国と王国の一部の人間が動いている」
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「一部?」
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「国全体ではない」
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老人は続ける。
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「問題は」
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「誰もが自分の正義を信じていることだ」
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アシュレイは黙る。
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正義。
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それは便利な言葉だ。
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人は。
正義のためなら。
多くのことを許してしまう。
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「父は何をしようとしたんですか」
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老人は答える。
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「止めようとした」
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「帝国を?」
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「違う」
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「王国を?」
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「違う」
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老人は首を振る。
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「戦争を望む人間たちを」
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帰路。
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アシュレイは馬車の中で資料を見ていた。
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事件はまだ終わっていない。
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むしろ。
始まったばかりだ。
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しかし。
一つだけ分かった。
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今回の敵は。
帝国ではない。
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王国でもない。
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戦争そのものでもない。
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人々が。
自分の都合のために作り出す。
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「偽りの理由」
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それだった。
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王都へ戻る前。
アシュレイは最後にヴェルナを振り返った。
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三つの旗。
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帝国。
王国。
自治。
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三つの国。
三つの思惑。
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その間で。
一人の外交官が立つ。
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勝つためではない。
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負けないために。
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「国を守るためなら」
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アシュレイは小さく呟く。
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「私は嘘をつく」
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しかし。
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その嘘が。
いつか国を壊す可能性があることも。
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彼は忘れなかった。
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