第八話 地下に眠るもの
「触れてはいけない場所」
老人の言葉が、アシュレイの頭から離れなかった。
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翌朝。
アシュレイたちは、鉱山の奥へ向かっていた。
案内役は昨日の老人。
元鉱山組合長、バルド。
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「本当に行くのですか」
バルドが聞く。
「危険だと分かっていて?」
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アシュレイは歩きながら答えた。
「危険だから確認する必要があります」
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「若いのに、随分と老いた考え方をしますな」
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「褒め言葉として受け取ります」
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バルドは笑った。
「そういうところは、父親に似ていますな」
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アシュレイの足が止まる。
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「父を知っているのですか」
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「昔、何度か会いました」
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父。
その言葉だけで。
アシュレイの表情がわずかに変わる。
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「どんな人でしたか」
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バルドは少し考える。
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「不器用な人でした」
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「不器用?」
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「正しいことをしようとして、周りを困らせる」
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アシュレイは苦笑する。
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「それは……」
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「あなたと似ています」
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否定できなかった。
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鉱山の奥。
人がほとんど立ち入らない区域。
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壁には古い封印跡があった。
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「これは……」
ミレイが近づく。
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「帝国式でも、王国式でもありません」
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カイルが壁を調べる。
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「かなり古い」
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アシュレイは周囲を見る。
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ここには不自然な点が多い。
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失踪者たちは。
この場所を見つけた。
そして。
何かを知った。
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「この先に何があるんですか」
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バルドは答えなかった。
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代わりに。
小さな扉を開ける。
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地下への階段。
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「昔から、この先には誰も入るなと言われていました」
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「理由は?」
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「分からないからです」
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「分からない?」
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老人は頷く。
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「人間は、理解できないものを恐れます」
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「だから」
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「昔の人間は、恐れる理由だけを残しました」
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階段を降りる。
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しばらく進むと。
広い空間に出た。
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そこには。
古い研究施設のようなものが残っていた。
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「これは……」
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カイルが息を呑む。
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「遺跡?」
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違う。
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もっと新しい。
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しかし。
現在のどの国の技術とも違う。
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アシュレイは机の上を見る。
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紙。
記録。
研究資料。
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その中に。
一つの文字があった。
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「魔道具技術……?」
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ミレイが呟く。
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リーヴェルト王国では、魔法は戦闘補助程度にしか使われない。
しかし。
一部の大国では。
魔法技術を応用した道具研究が進んでいる。
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帝国が欲しがる理由。
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少しだけ見えた。
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「これが目的ですか」
ギルが聞く。
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アシュレイは首を振る。
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「分かりません」
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「でも」
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「これだけは確かです」
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彼は古い資料を見る。
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「三十七人は、この場所を見つけた」
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「そして」
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「誰かが、それを隠そうとしている」
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その時。
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カチリ。
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小さな音。
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全員が振り返る。
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入り口。
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誰かが立っていた。
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黒い外套。
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顔は見えない。
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「ここまで来るとは思わなかった」
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低い声。
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ギルが剣を抜く。
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「何者だ」
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男は答えない。
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ただ。
アシュレイを見る。
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「お前は」
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「父親と同じ失敗をする」
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その言葉だけを残し。
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男は煙玉を投げた。
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視界が白く染まる。
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「追いますか!」
ギルが叫ぶ。
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しかし。
アシュレイは動かなかった。
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逃げたことではない。
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最後の言葉。
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父親と同じ失敗。
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それが頭から離れない。
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数分後。
煙が晴れる。
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男はいなかった。
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しかし。
床には一枚の紙が残されていた。
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そこには。
短い文章。
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『国を守るための嘘は』
『いつか国を壊す』
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アシュレイは静かに紙を見る。
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初めて。
彼自身の信念を否定する言葉だった。
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