第七話 嘘をつく理由
翌朝。
ヴェルナの街には、いつも通りの朝が来ていた。
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市場では商人が声を張り。
職人は仕事を始め。
子供たちは通りを走る。
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一見すれば。
何も問題のない街。
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しかし。
アシュレイには分かっていた。
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静かな街ほど。
人は何かを隠している。
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「聞き込みの結果です」
ミレイが資料を渡す。
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「鉱山関係者への聞き取り」
「周辺住民への確認」
「自治評議会の記録」
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アシュレイは目を通す。
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「一致していませんね」
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ミレイが頷く。
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「はい」
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灰色塔の情報。
現地住民の証言。
自治政府の報告。
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三つが。
少しずつ違っている。
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「誰かが嘘をついている」
ギルが言う。
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しかし。
アシュレイは首を振った。
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「全員です」
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ギルが驚く。
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「全員?」
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「はい」
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アシュレイは資料を置く。
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「ただし」
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「悪意による嘘とは限りません」
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最初に訪れたのは、鉱山労働者の家だった。
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失踪者の妻。
エレナ。
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「主人は帝国を嫌っていました」
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彼女は言った。
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「だから帝国が連れていったんです」
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アシュレイは聞く。
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「理由は?」
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「鉱山の調査に反対していたから」
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記録にはない話だった。
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次に訪れたのは、商人。
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「彼らは帝国と取引していた」
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商人は言う。
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「帝国の人間に協力していたんです」
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全く逆。
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最後に訪れた自治評議会。
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「失踪者たちは」
評議員が言う。
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「勝手に逃げた可能性があります」
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誰も。
本当のことを言っていない。
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宿へ戻る途中。
ギルが言った。
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「結局、誰を信じればいいんですか」
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アシュレイは少し考えた。
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「全員です」
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「……矛盾してませんか?」
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「いいえ」
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アシュレイは街を見る。
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「彼らは嘘をついている」
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「しかし」
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「嘘をつく必要があるほど、何かを恐れている」
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その夜。
灰色塔の臨時拠点。
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カイルが珍しく真剣な顔をしていた。
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「一つ、気になることがあります」
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「何ですか」
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「帝国軍人の情報です」
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資料を置く。
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「失踪事件の前後」
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「ヴェルナに来た帝国軍関係者は一名」
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「ですが」
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カイルが続ける。
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「その人物は」
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「帝国軍の正式な命令では動いていません」
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沈黙。
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「独断行動?」
ミレイが聞く。
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「可能性が高いです」
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アシュレイは考える。
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もし帝国の命令ではないなら。
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なぜ帝国軍人がここにいる?
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そして。
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なぜ帝国外交官レオンは警告した?
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疑問が増える。
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その時。
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扉が開いた。
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「失礼します」
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入ってきたのは。
一人の老人だった。
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ヴェルナ鉱山組合の元責任者。
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「あなたが王国の外交官ですか」
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「はい」
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老人は周囲を確認する。
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「なら伝えます」
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「三十七人は」
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「連れ去られたんじゃありません」
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アシュレイは黙って聞く。
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「自分から行きました」
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ギルが反応する。
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「何?」
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老人は続けた。
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「彼らは逃げたんです」
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「誰から?」
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老人は答えた。
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「帝国からでも」
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「王国からでもない」
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少し間。
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「この土地そのものからです」
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意味の分からない言葉。
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しかし。
アシュレイは引っかかった。
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「土地から逃げる?」
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老人は頷く。
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「この鉱山の奥には」
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「昔から触れてはいけない場所があります」
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「何があるんですか」
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老人は小さな声で言った。
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「帝国も」
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「王国も」
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「欲しがるものです」
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アシュレイは理解した。
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失踪事件の中心は。
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三十七人ではない。
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彼らが見つけた。
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「何か」だ。
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