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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第一章 偽りの戦線
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第七話 嘘をつく理由



 翌朝。


 ヴェルナの街には、いつも通りの朝が来ていた。


---


 市場では商人が声を張り。


 職人は仕事を始め。


 子供たちは通りを走る。


---


 一見すれば。


 何も問題のない街。


---


 しかし。


 アシュレイには分かっていた。


---


 静かな街ほど。


 人は何かを隠している。


---


「聞き込みの結果です」


 ミレイが資料を渡す。


---


「鉱山関係者への聞き取り」


「周辺住民への確認」


「自治評議会の記録」


---


 アシュレイは目を通す。


---


「一致していませんね」


---


 ミレイが頷く。


---


「はい」


---


 灰色塔の情報。


 現地住民の証言。


 自治政府の報告。


---


 三つが。


 少しずつ違っている。


---


「誰かが嘘をついている」


 ギルが言う。


---


 しかし。


 アシュレイは首を振った。


---


「全員です」


---


 ギルが驚く。


---


「全員?」


---


「はい」


---


 アシュレイは資料を置く。


---


「ただし」


---


「悪意による嘘とは限りません」


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---


 最初に訪れたのは、鉱山労働者の家だった。


---


 失踪者の妻。


 エレナ。


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「主人は帝国を嫌っていました」


---


 彼女は言った。


---


「だから帝国が連れていったんです」


---


 アシュレイは聞く。


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「理由は?」


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「鉱山の調査に反対していたから」


---


 記録にはない話だった。


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 次に訪れたのは、商人。


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「彼らは帝国と取引していた」


---


 商人は言う。


---


「帝国の人間に協力していたんです」


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 全く逆。


---


 最後に訪れた自治評議会。


---


「失踪者たちは」


 評議員が言う。


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「勝手に逃げた可能性があります」


---


 誰も。


 本当のことを言っていない。


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 宿へ戻る途中。


 ギルが言った。


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「結局、誰を信じればいいんですか」


---


 アシュレイは少し考えた。


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「全員です」


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「……矛盾してませんか?」


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「いいえ」


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 アシュレイは街を見る。


---


「彼らは嘘をついている」


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「しかし」


---


「嘘をつく必要があるほど、何かを恐れている」


---


---


 その夜。


 灰色塔の臨時拠点。


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 カイルが珍しく真剣な顔をしていた。


---


「一つ、気になることがあります」


---


「何ですか」


---


「帝国軍人の情報です」


---


 資料を置く。


---


「失踪事件の前後」


---


「ヴェルナに来た帝国軍関係者は一名」


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「ですが」


---


 カイルが続ける。


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「その人物は」


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「帝国軍の正式な命令では動いていません」


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 沈黙。


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「独断行動?」


 ミレイが聞く。


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「可能性が高いです」


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 アシュレイは考える。


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 もし帝国の命令ではないなら。


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 なぜ帝国軍人がここにいる?


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 そして。


---


 なぜ帝国外交官レオンは警告した?


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 疑問が増える。


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 その時。


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 扉が開いた。


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「失礼します」


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 入ってきたのは。


 一人の老人だった。


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 ヴェルナ鉱山組合の元責任者。


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「あなたが王国の外交官ですか」


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「はい」


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 老人は周囲を確認する。


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「なら伝えます」


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「三十七人は」


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「連れ去られたんじゃありません」


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 アシュレイは黙って聞く。


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「自分から行きました」


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 ギルが反応する。


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「何?」


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 老人は続けた。


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「彼らは逃げたんです」


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「誰から?」


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 老人は答えた。


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「帝国からでも」


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「王国からでもない」


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 少し間。


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「この土地そのものからです」


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 意味の分からない言葉。


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 しかし。


 アシュレイは引っかかった。


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「土地から逃げる?」


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 老人は頷く。


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「この鉱山の奥には」


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「昔から触れてはいけない場所があります」


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「何があるんですか」


---


 老人は小さな声で言った。


---


「帝国も」


---


「王国も」


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「欲しがるものです」


---


---


 アシュレイは理解した。


---


 失踪事件の中心は。


---


 三十七人ではない。


---


 彼らが見つけた。


---


「何か」だ。

毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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