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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第三章 深層
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第八話 二つの捜索



三人は、しばらくその場を動かなかった。


地下に響いた三度の音。


少しの間。


そして、また三度。


音が消えたあとも、地下には静寂が残っていた。


「……さっきより、近く聞こえませんでしたか?」


リディアが小さく言った。


「ええ」


アシュレイは周囲を見回した。


「ですが、音を追う必要はありません」


「相変わらずですね」


レオンが苦笑する。


「何か聞こえると、まず罠を疑う」


「実際、ここでは疑ったほうがいいでしょう」


「否定はしません」


レオンは周囲を見た。


石壁。


古い梁。


そして、床に残された痕跡。


三人が先ほど見つけた足跡は、入口から奥へ向かっていた。


だが、それだけではなかった。


「……この跡」


リディアがしゃがみ込む。


足跡の横。


土埃の上に、何かを引きずったような線が残っている。


一定の幅ではない。


重いものを、何度か持ち上げながら運んだようにも見えた。


「新しいですね」


レオンが言う。


「少なくとも、古いものではありません」


アシュレイは線の先を目で追った。


その先には、崩れかけた木箱があった。


蓋は外れている。


中には何もない。


ただ、底に黒ずんだ金属片が一つ残っていた。


アシュレイが手袋をつけて拾い上げる。


「……鉱山道具の一部でしょうか」


リディアが覗き込む。


「形は近いですね」


「ですが、現在使われているものではありません」


レオンが答えた。


「この場所で使われていたものかもしれません」


アシュレイは金属片を裏返した。


表面には細かな傷がある。


長い間、岩盤に触れていたような傷だった。


「誰かが、ここを調べている」


リディアが言った。


「ええ。ただし」


アシュレイは木箱を見る。


「調べた後に、何かを持ち出した可能性があります」


「つまり、私たちより先に?」


「そう考えるのが自然でしょう」


三人の間に沈黙が落ちた。


その時だった。


奥の通路。


ほんの一瞬。


人影が横切った。


「……!」


リディアが立ち上がる。


レオンも反応した。


だが、アシュレイは動かなかった。


「待ってください」


「見ましたよね?」


「ええ」


「追わないのですか?」


リディアが問う。


アシュレイは人影が消えた方向を見る。


「追えば、相手の思う通りになるかもしれません」


「囮、ですか」


「可能性はあります」


レオンが静かに息を吐いた。


「ここまで来て、ようやく人が現れた。しかも、こちらに気づかせるような動きですか」


「偶然とは考えにくいでしょう」


アシュレイはそう言って、別の場所へ視線を向けた。


人影が消えた通路ではない。


木箱のあった壁。


「こちらを見てください」


壁の一部だけ、石の積み方が違っていた。


リディアが近づく。


「……隙間があります」


アシュレイが手を伸ばす。


石を押す。


わずかに動いた。


内部から、冷たい空気が流れ出した。


「隠し通路……」


リディアが呟く。


「でしょうね」


アシュレイは周囲を確認した。


その壁の前には、足跡がいくつも残っている。


しかし、通路の中にはほとんど残っていない。


意図的に消されたようにも見えた。


「この先に何かあります」


レオンが言う。


「ですが、今すぐ入る必要はありません」


アシュレイは答えた。


「またですか」


リディアが少しだけ呆れた顔をする。


「この先に何があるか気にならないんですか?」


「気になりますよ」


アシュレイは即答した。


「だからこそ、今は入りません」


「……なるほど」


レオンが頷いた。


「追跡者を追うのではなく、追跡者が残したものを見る」


「ええ」


アシュレイは木箱に視線を戻した。


「相手が何を探しているのか。それが分かれば、この場所の意味にも近づけます」


リディアはしばらく黙っていた。


やがて、古い地図を広げる。


東へ伸びる線。


鉱山。


そして、先ほど見つかった道。


「この地図にある線……」


リディアが指でなぞる。


「私たちが今いる場所まで続いています」


アシュレイは頷いた。


「つまり、過去の記録に残っていた場所と、現在の地下構造がつながった」


「そして」


レオンが続ける。


「そこを、私たち以外の誰かも探している」


アシュレイは答えなかった。


まだ、相手が何者なのかは分からない。


王国なのか。


帝国なのか。


それとも、どちらにも属さない誰かなのか。


ただ一つだけ、分かったことがある。


自分たちは、この場所を探している。


そして。


自分たちとは別の誰かも、この場所を探している。


その事実だけが、静かな地下の中で重く残った。


再び。


三度。


少し間を置いて。


三度。


音が響いた。


今度も、三人は動かなかった。


毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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