第四話 大国の外交官
外交官という仕事には、様々な種類がある。
交渉する者。
情報を集める者。
相手の意図を読む者。
しかし。
最も重要な能力は別にある。
---
相手が何を隠しているか。
ではない。
相手が、
「何を隠さなければならない立場なのか」
を理解することだ。
---
ヴェルナへ向かう準備を進めていたアシュレイに、急な連絡が入った。
---
「帝国の使者です」
王城の外交官が伝える。
---
アシュレイは眉を動かした。
「この時期に?」
「はい」
---
帝国軍の動き。
ヴェルナの失踪事件。
その状況で帝国側からの接触。
偶然とは考えにくい。
---
王城の応接室。
---
そこにいた男は、想像より若かった。
二十代後半ほど。
金色に近い髪。
整った服装。
しかし。
その立ち姿には隙がない。
---
「初めまして」
男は立ち上がる。
「レオン・ヴァルディアです」
---
帝国外交官。
---
「アシュレイ・ファン・ヴァイスです」
二人は握手する。
---
その瞬間。
アシュレイは感じた。
---
この男は強い。
---
剣の強さではない。
経験。
判断。
余裕。
---
大国を背負う人間の重さだった。
---
「若いですね」
レオンが言う。
「失礼でしたか?」
「事実ですので」
アシュレイは答える。
---
レオンは少し笑った。
「噂通りですね」
「どのような噂でしょう」
「王国には珍しい外交官だと」
---
アシュレイは黙る。
---
「普通、弱い国の外交官は」
レオンが続ける。
「強い国に対して、二つの態度を取ります」
---
「媚びるか」
「敵意を持つか」
---
レオンは紅茶を飲む。
---
「あなたは違う」
---
「帝国を恐れている」
レオンは言った。
「しかし、帝国を嫌ってはいない」
---
アシュレイは答えなかった。
---
正確だった。
---
帝国は脅威。
しかし。
脅威だから悪とは限らない。
---
「あなたは帝国をどう見ていますか?」
アシュレイが聞く。
---
レオンは少し考えた。
---
「巨大な船です」
---
「船?」
---
「ええ」
レオンは窓の外を見る。
---
「大きな船は、多くの人間を乗せられる」
「しかし」
---
「方向を変えるのは難しい」
---
アシュレイは理解した。
---
帝国にも事情がある。
---
大国とは。
自由に動ける存在ではない。
大きいからこそ。
多くの利害を抱えている。
---
「では」
アシュレイが聞く。
「帝国軍の移動について」
---
一瞬。
レオンの表情が変わった。
---
わずかな変化。
普通なら見逃す。
---
しかし。
アシュレイは見逃さなかった。
---
「何か知っていますね」
---
レオンは笑う。
「鋭いですね」
「否定しないのですか」
「否定しても信じないでしょう」
---
少し間。
---
「ただし」
レオンは言った。
「私が知っていることと、帝国全体が考えていることは違います」
---
その言葉。
アシュレイは覚えておくことにした。
---
「帝国軍はヴェルナへ向かっています」
アシュレイが言う。
---
レオンは驚かなかった。
---
「ご存じでしたか」
---
「確認しただけです」
---
「なるほど」
レオンは笑う。
「あなたは情報を集めるだけではなく」
---
「相手の反応で情報を得るのですね」
---
アシュレイは答えない。
---
外交とは。
言葉だけではない。
沈黙。
表情。
間。
全てが情報になる。
---
「一つ忠告します」
レオンが立ち上がる。
---
「ヴェルナへ行くなら、気をつけてください」
---
「何にですか?」
---
レオンは答えるまで少し時間を置いた。
---
「帝国に」
---
「ではありません」
---
「ヴェルナでは」
---
「誰もが、自分の国を守るために嘘をつきます」
---
その言葉が残った。
---
応接室を出た後。
アシュレイは考える。
---
帝国外交官。
レオン・ヴァルディア。
---
敵ではない。
しかし。
味方でもない。
---
最も危険な相手だった。
毎日20時20分投稿予定です。
もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。




