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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第一章 偽りの戦線
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第三話 灰色塔の仕事



 リーヴェルト王国には、不思議な組織がある。


 


 王国騎士団でもない。


 軍隊でもない。


 外交局でもない。


---


 その名は、


 灰色塔。


---


 名前の由来は古い。


 かつて王国が大国との戦争に敗れかけた時。


 ある外交官が言った。


 


「白か黒かで判断できる時代なら、我々は剣を持てばいい」


「しかし現実は灰色だ」


「ならば、灰色を見る者が必要だ」


---


 それが灰色塔の始まりだった。


---


「相変わらず趣味の悪い場所ですね」


 アシュレイが言う。


「褒め言葉として受け取っておきます」


 ミレイが返した。


---


 灰色塔の内部。


 王都の外れに建つ古い塔。


 外観は薄暗く、近寄りがたい。


 


 しかし内部には、


* 商人から得た情報

* 他国の記録

* 貴族の動向

* 軍の配置

* 過去の外交資料


あらゆる情報が整理されていた。


---


「情報量は多いですが」


 アシュレイが棚を見る。


「整理が雑です」


「あなた以外には理解できます」


「それは問題では?」


「灰色塔ですから」


 ミレイは平然と言った。


「誰にでも理解される情報なら、価値はありません」


---


 アシュレイは苦笑した。


---


 灰色塔の人間は変わっている。


 


 普通なら、


「国を守るために優秀な人間を集める」


となる。


 


 しかし灰色塔の場合。


 少し変わった人間が集まった結果、


「優秀な組織になった」


という方が近い。


---


 資料を調べていたアシュレイの前に、一人の男が現れる。


---


「おや」


 長い髪。


 眠そうな目。


 片手には書類ではなく菓子。


---


「珍しい客ですね」


 男は言った。


「あなたが現場に来るとは」


---


「紹介します」


 ミレイが言う。


「情報分析官、カイル・ノルド」


---


「よろしくお願いします」


 カイルは軽く頭を下げる。


「噂の天才外交官ですね」


「噂は信用しない方がいいです」


「同感です」


 カイルは笑う。


「私も、仕事中に寝ているという噂がありますが」


「事実では?」


「……半分ほど」


---


 アシュレイは少し驚いた。


---


 灰色塔。


 もっと堅苦しい組織だと思っていた。


---


「それで」


 カイルが資料を差し出す。


「ヴェルナについてですね」


---


 地図を見る。


---


 北部自治区ヴェルナ。


 


 帝国とリーヴェルト王国の間に存在する地域。


 


 人口は少ない。


 軍事力も弱い。


 


 しかし。


 交易路。


 鉱山資源。


 地理的な重要性。


 


 小さいながら、大国が無視できない場所だった。


---


「最近、ヴェルナで妙なことが起きています」


 カイルが言う。


「失踪者」


「人数は?」


「まだ確定していません」


---


 アシュレイが資料を見る。


「鉱山関係者」


「はい」


「商人」


「はい」


「元帝国兵」


「……はい」


---


 アシュレイの目が止まる。


---


「元帝国兵が?」


「偶然だと思いますか?」


 カイルが聞く。


---


 アシュレイは答えない。


---


 偶然。


 可能性はある。


 


 しかし外交官の仕事とは。


 偶然を疑うことではなく。


 偶然では説明できない部分を探すことだ。


---


「現地へ行きます」


 アシュレイが言った。


---


 ミレイが顔を上げる。


「予想通りですね」


「止めませんか」


「止めても行くでしょう」


「はい」


「なら言うだけ無駄です」


---


 カイルが手を挙げる。


「一つ問題があります」


「何ですか」


「ヴェルナは王国の領土ではありません」


---


 アシュレイは頷く。


---


 自治区。


 


 そこでは王国の法律も。


 帝国の命令も。


 完全には通じない。


---


「つまり」


 ミレイが言う。


「外交官として行く必要があります」


---


 アシュレイは理解した。


---


 これは軍事任務ではない。


 


 敵を倒すためでもない。


 


 誰かに許可をもらい。


 誰かの顔を立て。


 誰かの本音を探る。


---


 最も面倒で。


 最も失敗できない仕事。


---


「準備します」


 アシュレイは言った。


---


 その夜。


 王都では別の場所で。


 一人の貴族が報告を受けていた。


---


「若い男爵がヴェルナへ?」


「はい」


---


「帝国との問題に、あの男を近づけるのは危険では?」


---


 暗い部屋。


 声だけが響く。


---


「危険だからこそです」


---


「彼が成功すれば、王国内での発言力はさらに増す」


---


「失敗すれば……」


---


 男は笑った。


---


「若い英雄も、ただの若造になります」



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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