第三話 灰色塔の仕事
リーヴェルト王国には、不思議な組織がある。
王国騎士団でもない。
軍隊でもない。
外交局でもない。
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その名は、
灰色塔。
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名前の由来は古い。
かつて王国が大国との戦争に敗れかけた時。
ある外交官が言った。
「白か黒かで判断できる時代なら、我々は剣を持てばいい」
「しかし現実は灰色だ」
「ならば、灰色を見る者が必要だ」
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それが灰色塔の始まりだった。
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「相変わらず趣味の悪い場所ですね」
アシュレイが言う。
「褒め言葉として受け取っておきます」
ミレイが返した。
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灰色塔の内部。
王都の外れに建つ古い塔。
外観は薄暗く、近寄りがたい。
しかし内部には、
* 商人から得た情報
* 他国の記録
* 貴族の動向
* 軍の配置
* 過去の外交資料
あらゆる情報が整理されていた。
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「情報量は多いですが」
アシュレイが棚を見る。
「整理が雑です」
「あなた以外には理解できます」
「それは問題では?」
「灰色塔ですから」
ミレイは平然と言った。
「誰にでも理解される情報なら、価値はありません」
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アシュレイは苦笑した。
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灰色塔の人間は変わっている。
普通なら、
「国を守るために優秀な人間を集める」
となる。
しかし灰色塔の場合。
少し変わった人間が集まった結果、
「優秀な組織になった」
という方が近い。
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資料を調べていたアシュレイの前に、一人の男が現れる。
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「おや」
長い髪。
眠そうな目。
片手には書類ではなく菓子。
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「珍しい客ですね」
男は言った。
「あなたが現場に来るとは」
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「紹介します」
ミレイが言う。
「情報分析官、カイル・ノルド」
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「よろしくお願いします」
カイルは軽く頭を下げる。
「噂の天才外交官ですね」
「噂は信用しない方がいいです」
「同感です」
カイルは笑う。
「私も、仕事中に寝ているという噂がありますが」
「事実では?」
「……半分ほど」
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アシュレイは少し驚いた。
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灰色塔。
もっと堅苦しい組織だと思っていた。
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「それで」
カイルが資料を差し出す。
「ヴェルナについてですね」
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地図を見る。
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北部自治区ヴェルナ。
帝国とリーヴェルト王国の間に存在する地域。
人口は少ない。
軍事力も弱い。
しかし。
交易路。
鉱山資源。
地理的な重要性。
小さいながら、大国が無視できない場所だった。
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「最近、ヴェルナで妙なことが起きています」
カイルが言う。
「失踪者」
「人数は?」
「まだ確定していません」
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アシュレイが資料を見る。
「鉱山関係者」
「はい」
「商人」
「はい」
「元帝国兵」
「……はい」
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アシュレイの目が止まる。
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「元帝国兵が?」
「偶然だと思いますか?」
カイルが聞く。
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アシュレイは答えない。
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偶然。
可能性はある。
しかし外交官の仕事とは。
偶然を疑うことではなく。
偶然では説明できない部分を探すことだ。
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「現地へ行きます」
アシュレイが言った。
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ミレイが顔を上げる。
「予想通りですね」
「止めませんか」
「止めても行くでしょう」
「はい」
「なら言うだけ無駄です」
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カイルが手を挙げる。
「一つ問題があります」
「何ですか」
「ヴェルナは王国の領土ではありません」
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アシュレイは頷く。
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自治区。
そこでは王国の法律も。
帝国の命令も。
完全には通じない。
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「つまり」
ミレイが言う。
「外交官として行く必要があります」
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アシュレイは理解した。
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これは軍事任務ではない。
敵を倒すためでもない。
誰かに許可をもらい。
誰かの顔を立て。
誰かの本音を探る。
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最も面倒で。
最も失敗できない仕事。
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「準備します」
アシュレイは言った。
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その夜。
王都では別の場所で。
一人の貴族が報告を受けていた。
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「若い男爵がヴェルナへ?」
「はい」
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「帝国との問題に、あの男を近づけるのは危険では?」
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暗い部屋。
声だけが響く。
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「危険だからこそです」
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「彼が成功すれば、王国内での発言力はさらに増す」
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「失敗すれば……」
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男は笑った。
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「若い英雄も、ただの若造になります」
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