第二十三話 越えない一線
ローゼンベルク領都へ戻る馬車の中。
アシュレイは一言も話さず、窓の外を眺めていた。
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国境。
街道。
監視所。
そして、古い鉱山道。
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頭の中で何度も情報を組み直す。
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「考えすぎですよ。」
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向かいに座るミレイが言った。
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「顔に出ていますか?」
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「かなり。」
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アシュレイは苦笑した。
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「それは困りましたね。」
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「外交官としては致命的では?」
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「だから、あなたには見られないようにしているんです。」
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「もう見られてますけど。」
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二人の間に小さな笑いが生まれる。
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しかし。
笑いが消えると、車内は再び静かになった。
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「……本当にヴェルナへ戻るんですか?」
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ミレイが尋ねる。
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「ええ。」
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「帝国側の調査官も同行することになります。」
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「分かっています。」
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「地下施設のことも、帝国に知られる可能性があります。」
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アシュレイは答えなかった。
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それが問題だった。
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今までは、地下施設について王国側が握っている情報を帝国に渡さないことが重要だった。
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だが。
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ここまで情報が繋がってしまった以上。
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何も見せないという選択も危険になっている。
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隠せば疑われる。
話せば利用される。
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どちらにも危険がある。
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「だからこそ。」
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アシュレイが呟く。
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「自分の目で確かめる必要があります。」
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「何を?」
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「地下施設が、誰のために作られたものなのか。」
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ミレイは黙った。
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それは、これまで誰も答えられなかった問いだった。
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王国のものなのか。
帝国のものなのか。
それとも。
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そもそも、この二つの国とは関係のないものなのか。
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馬車が領都へ入る。
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迎賓館へ戻ると、すぐにレオンが待っていた。
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「お帰りなさい。」
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「ただいま、というのも妙ですね。」
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「では、お疲れさまでした。」
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「そちらの方が自然ですね。」
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アシュレイは席につく。
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「監視所で旧鉱山道を見つけました。」
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「聞いています。」
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「もう情報が入っているんですか?」
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「辺境伯領ですから。」
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レオンは苦笑する。
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「国境で起きたことは、私より先に軍へ届きます。」
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「なるほど。」
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アシュレイは一枚の紙を取り出した。
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「これを見てください。」
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古い地図。
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レオンがしばらく見つめる。
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「……旧鉱山道。」
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「知っていますか?」
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「存在は。」
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「ですが、使われていないはずです。」
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「なぜ?」
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「崩落したと聞いています。」
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アシュレイは顔を上げた。
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「聞いている?」
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「ええ。」
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「実際には?」
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「確認していません。」
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アシュレイは黙った。
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ここにも、情報の空白がある。
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「レオン。」
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「はい。」
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「帝国は、地下施設についてどこまで知っています?」
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レオンはすぐには答えなかった。
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「私個人としては。」
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「王国が発見したこと。」
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「古い施設であること。」
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「そして、何らかの調査が行われていること。」
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「それ以上は知りません。」
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「帝国政府としては?」
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「分かりません。」
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アシュレイは目を細める。
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また同じ答えだった。
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帝国そのものが一つの意思で動いているわけではない。
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外務府。
軍。
辺境伯領。
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それぞれが、それぞれの情報を持っている。
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「だから、今回の襲撃も。」
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アシュレイが言う。
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「帝国政府の命令だとは限らない。」
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「その通りです。」
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レオンは頷いた。
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「そして、王国側も同じです。」
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その言葉に、アシュレイはレオンを見る。
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「どういう意味です?」
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「あなたの国にも。」
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「あなたが知らないところで動いている人間がいるかもしれない。」
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アシュレイは返事をしなかった。
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それは十分にあり得る。
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国を守るために。
誰かが独断で動く。
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その結果。
別の国が脅威を感じる。
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そしてまた、軍が動く。
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小さな嘘が。
大きな戦争を生む。
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「……だから、境界線なんですね。」
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アシュレイが呟いた。
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レオンが首を傾げる。
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「何がです?」
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「国境だけじゃない。」
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「人が越えてはいけない線が、いくつもある。」
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「秘密を守るための線。」
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「国家を守るための線。」
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「そして。」
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アシュレイは一度言葉を止めた。
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「誰かを疑う前に、越えてはいけない線。」
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レオンはしばらく黙っていた。
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やがて。
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「あなたは、少し変わりましたね。」
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「そうですか?」
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「ええ。」
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「以前なら、もっと早く答えを出そうとしていた。」
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アシュレイは苦笑した。
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「あなたに言われるとは思いませんでした。」
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「私もです。」
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二人が笑う。
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だが。
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その時だった。
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扉が勢いよく開いた。
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「失礼します!」
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帝国軍の伝令だった。
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「レオン様。」
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「何があった?」
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「ヴェルナ方面から緊急報告です。」
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伝令は一度息を整える。
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「旧鉱山道付近で、何者かが確認されました。」
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アシュレイが立ち上がる。
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「誰です?」
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「まだ確認できていません。」
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「ですが。」
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伝令が続ける。
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「現場に残されていたものがあります。」
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「何が?」
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「鉱山技師用の工具箱です。」
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アシュレイの表情が変わる。
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「工具箱に、名前は?」
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伝令は頷いた。
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「あります。」
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そして。
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「エドガー・ヴァイス。」
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沈黙。
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アシュレイはゆっくりと目を閉じた。
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ここまで来れば。
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もう偶然ではない。
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誰かがエドガーを追っている。
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そして。
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エドガー自身もまた。
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地下施設へ戻ろうとしている。
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問題は。
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**なぜなのか。**
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アシュレイは目を開いた。
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「レオン。」
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「はい。」
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「ヴェルナへ戻ります。」
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「ええ。」
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レオンも立ち上がる。
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「私も同行します。」
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「外交官が自ら?」
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「あなた一人に行かせると、何をするか分かりませんから。」
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「信用されていない?」
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「心配しているんです。」
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「同じようなものでは?」
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「違います。」
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レオンは静かに笑った。
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「少なくとも、私はそう思っています。」
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アシュレイも笑った。
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だが、その目は真剣だった。
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王国と帝国。
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両国を隔てる国境線。
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その向こうにある地下施設。
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そして、姿を消した一人の鉱山技師。
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まだ何も分かっていない。
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それでも。
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アシュレイには一つだけ分かっていた。
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ここから先は。
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誰かが引いた線を越えなければならない。
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ただし。
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その線を越える理由を、自分自身が見失ってはいけない。
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国を守るためなのか。
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誰かを守るためなのか。
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それとも。
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真実を知りたいだけなのか。
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アシュレイは、窓の外を見る。
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夕暮れの向こう。
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ヴェルナへ続く街道が伸びている。
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その先に。
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エドガーがいる。
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そして。
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まだ誰にも知られていない「何か」が待っている。
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