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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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第二十一話 追う者、追われる者



「エドガー・ヴァイスという名前を口にしていたそうです。」


---


 その報告を聞いても、アシュレイはすぐには反応しなかった。


---


 地下施設。


 工房。


 そして、今度は帝国の国境監視所。


---


 エドガーの名前が、別々の場所で繋がり始めている。


---


「本人を見たわけでは?」


---


 アシュレイが尋ねる。


---


「ありません。」


---


 文官は首を横に振った。


---


「監視兵は、襲撃者の一人がそう口にしたのを聞いただけです。」


---


「顔は?」


---


「覆面をしていたため、確認できていません。」


---


 アシュレイは頷く。


---


「なら、まだエドガー本人が関わっているとは断定できません。」


---


 レオンがこちらを見る。


---


「そうですね。」


---


 だが、その声には先ほどまでとは違う緊張があった。


---


「問題は、誰がその名前を知っていたのかです。」


---


 アシュレイは黙った。


---


 それが一番の問題だった。


---


 エドガーは、ただの鉱山技師ではない。


---


 少なくとも、アシュレイはそう感じている。


---


 地下施設の奥で出会った時。


 エドガーは何かを知っていた。


---


 そして工房で再会した時も。


 父親の手帳や、地下施設について語る彼の様子には、単なる技師では説明できない何かがあった。


---


 それでも。


---


 アシュレイは彼を敵とは考えていなかった。


---


「監視兵から、他に証言は?」


---


「一つだけ。」


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「聞かせてください。」


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 文官は手元の記録を見る。


---


「襲撃者たちは、監視記録を奪ったあと、こう言ったそうです。」


---


「『これで道は分かった』と。」


---


 アシュレイの眉が動く。


---


「道?」


---


「はい。」


---


 レオンも考え込む。


---


「国境を越える経路を知りたかったのでしょうか。」


---


「それなら、監視記録を奪った理由は説明できます。」


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 アシュレイは地図へ目を向けた。


---


 国境線。


 監視所。


 街道。


 そしてヴェルナ。


---


 だが。


---


「一つ、おかしい。」


---


 アシュレイが言った。


---


「何でしょう?」


---


「監視記録だけなら、帝国軍の配置は分かります。」


---


「ですが、鉱山技師の移動まで調べるには、それだけでは足りない。」


---


 レオンが地図へ近づく。


---


「……鉱山側の記録も必要になる。」


---


「そうです。」


---


 アシュレイは頷いた。


---


「ならば、襲撃者は帝国側の情報だけを集めているわけではない。」


---


「ヴェルナ側の情報も必要としている。」


---


 その言葉に、ミレイが反応した。


---


「では、地下施設を?」


---


 アシュレイはすぐに答えなかった。


---


 地下施設。


---


 その言葉を口にするだけで、ここまで積み上げてきた情報が一気に繋がってしまう。


---


 だからこそ。


---


「まだ分かりません。」


---


 そう答えた。


---


 ミレイは黙って頷く。


---


 レオンも追及しない。


---


 しかし。


---


 アシュレイ自身は、もう一つの可能性を考えていた。


---


(地下施設を探しているのではない。)


---


(エドガーを探しているのかもしれない。)


---


 そう考えると、すべてが少しだけ違って見える。


---


 国境を越えた人物の記録。


 鉱山技師の名前。


 監視所の襲撃。


---


 そして、エドガーの名前を口にした襲撃者。


---


 誰かがエドガーの行方を追っている。


---


 問題は。


---


 **なぜなのか。**


---


「レオン。」


---


「はい。」


---


「帝国は、エドガーを探していますか?」


---


 レオンはすぐには答えなかった。


---


「正確には。」


---


「帝国政府として、彼を捜索する命令は出ていません。」


---


「では、軍は?」


---


「分かりません。」


---


 アシュレイはレオンを見る。


---


「分からない?」


---


「帝国軍は、すべての情報を外務府に共有しているわけではありません。」


---


 その答えに、アシュレイは納得した。


---


 ローゼンベルク辺境伯が言っていた。


---


 必要以上の情報を中央へ送らない。


---


 つまり帝国の中でも。


---


 **すべての人間が同じ情報を持っているわけではない。**


---


 ならば。


---


 エドガーを追っているのは帝国そのものではない可能性もある。


---


「一度、整理しましょう。」


---


 アシュレイは机の上に紙を置いた。


---


「エドガーは、以前ヴェルナの鉱山にいた。」


---


「その後、王都南外れの工房にいた。」


---


「そして現在の所在は不明。」


---


「帝国側の記録には、三週間前にヴェルナへ入ったとある。」


---


 レオンが頷く。


---


「さらに。」


---


「帝国の国境監視所を襲った者が、エドガーの名前を口にした。」


---


 アシュレイはそこで筆を止めた。


---


「この五つです。」


---


「共通しているのは、エドガーだけ。」


---


 しばらく沈黙が続いた。


---


 レオンが言う。


---


「ならば、本人を見つけるのが一番早い。」


---


「ええ。」


---


「ですが。」


---


 アシュレイは顔を上げた。


---


「帝国に先に見つけられるわけにはいきません。」


---


 レオンの表情が変わった。


---


「王国として保護するつもりですか?」


---


「まだ決めていません。」


---


「では?」


---


「話を聞きたいだけです。」


---


 アシュレイは静かに答えた。


---


「彼自身から。」


---


 エドガーが何を知っているのか。


 誰に追われているのか。


 そして。


---


 **なぜ地下施設にいたのか。**


---


 それを本人の口から聞かなければならない。


---


「捜索を始めます。」


---


 アシュレイが立ち上がった。


---


「帝国側の正式な捜索ではなく、私たち自身で。」


---


 レオンが尋ねる。


---


「見つけたら?」


---


 アシュレイは少しだけ考えた。


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「まず、話します。」


---


「それから決めます。」


---


 会談室を出る。


---


 廊下の窓から、夕暮れの街が見えた。


---


 帝国の領都。


 国境に近い街。


---


 そのどこかに。


---


 エドガーがいるのかもしれない。


---


 あるいは。


---


 すでに、この街を離れているのかもしれない。


---


 アシュレイは窓の外を見つめた。


---


 そして、ふと思う。


---


 もしエドガーが追われているのなら。


---


 彼は今。


---


 **誰から逃げているのだろう。**


---


 その答えを探すため。


---


 アシュレイは初めて、自分から一歩踏み出した。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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