第十三話 国境の歓迎
王都を発って三日。
街道は次第に人通りが減り、周囲の景色は深い森へと変わっていった。
やがて視界の先に、大きな石橋が姿を現す。
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橋の中央には一本の白線。
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それが、リーヴェルト王国と帝国を隔てる国境だった。
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「ここから先は帝国です。」
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護衛の騎士が静かに告げる。
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アシュレイは橋の向こうを見つめた。
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そこには既に十数名の一団が待機している。
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槍を持つ兵士。
礼装に身を包んだ文官。
そして、その中央に立つ一人の男。
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見覚えがあった。
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第一章、ヴェルナ自治区。
互いの腹を探り合った、あの交渉の席。
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レオン・アルディス。
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帝国首席交渉官。
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レオンもまた、小さく目を細める。
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「……やはり、あなたでしたか。」
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穏やかな声だった。
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アシュレイは橋の中央まで歩み寄る。
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「お久しぶりです。」
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「レオン殿。」
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「前回以来ですね。」
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二人は橋の中央で足を止めた。
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どちらも国境線を踏み越えない。
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その距離が、外交だった。
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レオンが先に口を開く。
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「まずは。」
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「帝国を代表し、歓迎いたします。」
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「遠路お越しいただき、ありがとうございます。」
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その言葉に偽りは感じられない。
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アシュレイも一礼する。
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「温かいお迎えに感謝します。」
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「このたびは、両国の未来について建設的な話し合いができることを願っています。」
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レオンは微笑んだ。
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「前回も、そのようなお言葉を聞いた気がします。」
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「ええ。」
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「ですが、今回は前回より難しい話になりそうです。」
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「同感です。」
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短いやり取り。
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しかし、その一言一言に互いの探り合いが滲む。
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レオンが橋の先へ視線を向ける。
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「宿は既にご用意しております。」
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「本日の正式な会談は行いません。」
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「旅のお疲れもあるでしょう。」
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アシュレイは一瞬だけ考えた。
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「ありがとうございます。」
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「そのお気遣いをありがたく受けさせていただきます。」
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レオンは小さく頷いた。
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「安心しました。」
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「もし今日のうちに交渉を始めようとおっしゃるなら、私も止めるつもりでした。」
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「良い交渉は。」
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「急いで始めるものではありません。」
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アシュレイは自然と笑みを浮かべる。
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「その考えには賛成です。」
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「だからこそ。」
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「前回、あなたとは決着がつかなかったのでしょう。」
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一瞬だけ、レオンも笑った。
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「ええ。」
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「互いに急がなかったからこそ、あの日は戦にならずに済みました。」
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橋を渡り終えたところで、帝国の若い文官が近づいてくる。
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「レオン様。」
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「宴の準備が整いました。」
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アシュレイはその言葉に少し驚く。
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「宴、ですか。」
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レオンは当然のように答えた。
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「外交は、会議室だけで行うものではありません。」
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「食卓もまた、交渉の席です。」
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その言葉に、アシュレイは思わず苦笑した。
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「それは、王国も同じです。」
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二人は並んで歩き始める。
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周囲から見れば、旧友の再会にも見えただろう。
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しかし。
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二人とも理解していた。
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ここから始まる一言一言が。
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国の未来を左右することを。
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