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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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第十二話 国境へ



 夜明け前の王都は、まだ静かだった。


 東の空が白み始める頃、王城の正門には一台の馬車が用意されている。


 豪華な外交使節団ではない。


 護衛も最低限。


 王国はあえて、大仰な動きを見せなかった。


---


「本当に少人数ですね。」


---


 ミレイが馬車を見渡して言う。


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「威圧と誠意は別物です。」


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 アシュレイは荷を確認しながら答えた。


---


「兵を並べれば、相手も兵を並べます。」


---


「今回、私たちが向かうのは戦場ではありません。」


---


「交渉の席です。」


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 ミレイは静かに頷いた。


---


 そこへ、セドリックが姿を見せる。


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「準備は整ったようですね。」


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「はい。」


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 短いやり取りだった。


 二人とも、今さら励ましの言葉は必要ないと分かっている。


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 セドリックは一通の封書を差し出した。


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「これは?」


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「帝国外務府宛ての親書です。」


---


「陛下のお言葉も添えられています。」


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 アシュレイは丁寧に受け取る。


---


「絶対に開封するな。」


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「もちろんです。」


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 少しだけ、セドリックの口元が緩む。


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「……昔、一人だけ開けた外交官がいてな。」


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 アシュレイは目を丸くする。


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「その人は?」


---


「当然、更迭された。」


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 二人の間に小さな笑いが生まれる。


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 重苦しい空気を、ほんの少しだけ和らげる笑いだった。


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 やがて城門が開く。


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 馬車がゆっくりと進み始める。


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 王都の街並み。


 市場。


 石畳。


 見慣れた景色が、少しずつ遠ざかっていく。


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 アシュレイは窓の外を見つめる。


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(父上。)


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(私は、あなたと同じ道を歩いています。)


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(ですが。)


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(同じ答えを選ぶつもりはありません。)


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 馬車は北へ進む。


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 国境までは数日。


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 その先には帝国がある。


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 そして場面は変わる。


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 帝国。


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 重厚な石造りの庁舎。


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 一人の男が書簡を受け取る。


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「王国から正式な使節団か。」


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 封蝋を確認し、静かに頷く。


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「予定どおりですね。」


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 部下が尋ねる。


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「お受けになりますか。」


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 男は窓の外を見る。


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 遠く、王国の方角へ。


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「断る理由がありません。」


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「今回来るのは。」


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 一瞬だけ、口元に笑みが浮かぶ。


---


「アシュレイ・ファン・ヴァイスでしょう。」


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「前回は互いに腹を探るだけでした。」


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「今度は、そうはいきません。」


---


 男は机の上の書類を閉じる。


---


 その表紙には名前だけが記されていた。


---


**レオン・アルディス**


---


 帝国外務府首席交渉官。


---


 再会は、もうすぐだった。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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