表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
PR
20/21

第十話 境界に生きる者



 王都から半日の距離。


 ヴェルナ自治区の代表団は、小さな宿館で王国の使節を待っていた。


---


 部屋へ入ると、五人の男女が立ち上がる。


 豪華な衣装ではない。


 だが、その立ち振る舞いには土地を背負う者の誇りがあった。


---


「お会いできて光栄です。」


---


 先頭に立つ老人が静かに頭を下げる。


---


「ヴェルナ自治区代表、ハロルド・エインズです。」


---


 アシュレイも一礼する。


---


「アシュレイ・ファン・ヴァイスです。」


---


「本日は皆様のお話を伺いに参りました。」


---


 老人は少し目を細めた。


---


「"伺いに"……ですか。」


---


「命じに来たのではなく?」


---


 その一言に、部屋の空気がわずかに張る。


---


「命じるためなら、私である必要はありません。」


---


 アシュレイは静かに答えた。


---


「私は、状況を理解した上で判断したいのです。」


---


 老人は小さく笑った。


---


「その言葉だけでも、来ていただいた価値があります。」


---


 席に着くと、代表団の一人が地図を広げる。


---


「ご存じの通り、鉱山は閉鎖されたままです。」


---


「働き口を失った者は多く、若者の中には自治区を離れる者も出始めています。」


---


「商人も減りました。」


---


「税収も落ちています。」


---


 報告は淡々としていた。


 しかし、その一つ一つが人々の暮らしを物語っていた。


---


 アシュレイは静かに耳を傾ける。


---


「地下施設については……。」


---


 老人はそこで言葉を止めた。


---


「我々も噂程度しか知りません。」


---


「ですが。」


---


「鉱山が閉じられた理由が、それだけではないことくらいは分かります。」


---


 アシュレイは返事をしなかった。


---


 守秘義務ではない。


 今ここで話すべきではないと、自分で判断したからだ。


---


 沈黙を破ったのは、一人の若い女性だった。


---


「お聞きしてもいいですか。」


---


 代表団の中では最年少だろう。


 二十歳ほどの女性が、まっすぐアシュレイを見つめていた。


---


「あなたは。」


---


「私たちを守るために、何かを隠しているんですか。」


---


 部屋の空気が止まる。


---


 誰も声を出さない。


---


 アシュレイは女性の目を見る。


---


 責めている目ではない。


---


 知りたいだけなのだ。


---


 自分たちの未来を。


---


 静かに息を吸う。


---


「……はい。」


---


 その一言に、代表団は息をのんだ。


---


「ですが。」


---


「隠していることを、誇りたいとは思っていません。」


---


「私は今も、その判断が正しかったのか迷っています。」


---


 老人は静かに目を閉じた。


---


「そうですか。」


---


「それだけ聞ければ十分です。」


---


 アシュレイは少し驚く。


---


「怒らないのですか。」


---


 老人はゆっくり首を振る。


---


「怒るべきかどうかは、真実を知ってから決めます。」


---


「ですが。」


---


「迷いながら決断した人を、今ここで責める気にはなれません。」


---


 その言葉は、アシュレイの胸に深く残った。


---


 帰路につく馬車の中。


---


 ミレイがぽつりと呟く。


---


「信頼とは、不思議ですね。」


---


「真実を話したから得られるものでも。」


---


「嘘をついたから失うものでもない。」


---


 アシュレイは窓の外を見る。


---


 夕日に照らされたヴェルナの丘。


---


 そこには、人々の日常があった。


---


 帝国との交渉で守るべきものは。


---


 領土でも。


 鉱山でも。


---


 まず、この人々なのだ。


---


 その思いを胸に、アシュレイは王都へ戻る。


---


 帝国へ向かう日が、目前まで迫っていた。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ