第九話 王の問い
国王は窓の外へ視線を向ける。
夕暮れに染まる王都。
市場には人々が行き交い、子どもたちの笑い声が遠く聞こえてくる。
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「あの景色を見て、何を思う?」
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突然の問いに、アシュレイは少し考えた。
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「守りたいと思います。」
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国王は静かに頷く。
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「私もだ。」
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「だからこそ難しい。」
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「王という立場になると、人を守るために、人を泣かせる決断をせねばならん。」
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その声には、長い年月の重みがあった。
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「セドリックは冷たい男に見えるか?」
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アシュレイは少しだけ考える。
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「冷静な方だと思います。」
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「ですが……。」
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「冷たい方だとは思っていません。」
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国王は穏やかに笑った。
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「良かった。」
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「もしそう見えているなら、私はあいつを育て損ねたことになる。」
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アシュレイは少し驚く。
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「育てた……?」
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「ああ。」
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「私が宰相補佐だった頃、まだ若かったセドリックを政務に引き入れた。」
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「当時のあいつは、今のお前によく似ていたよ。」
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「誰一人切り捨てたくない。」
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「そんな理想ばかり口にしていた。」
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アシュレイは思わず目を見開く。
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「想像できません。」
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「私も今では少し難しい。」
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国王は苦笑する。
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「だが、現実というものは、人を少しずつ変える。」
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「飢饉もあった。」
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「国境紛争もあった。」
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「外交で救えなかった命もあった。」
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「そのたびに、あいつは自分の理想を削っていった。」
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しばらく沈黙が続く。
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「だから私は、お前には同じ道を歩んでほしくない。」
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「……。」
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「だが。」
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「現実から目を背ける者にもなってほしくない。」
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「理想だけでは国は守れん。」
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「しかし、理想を捨てた国は、守る価値を失う。」
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国王はゆっくりとアシュレイを見る。
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「セドリックは、国を守る方法を見つけた。」
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「私は、それが間違いだとは思わん。」
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「だが、お前には。」
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「違う答えを見つけてほしい。」
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その言葉は、セドリックを否定するものではなかった。
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彼が積み重ねてきた歳月を認めた上で、
さらにその先へ進むことを願う、一人の王の本音だった。
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