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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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第九話 王の問い



 国王は窓の外へ視線を向ける。


 夕暮れに染まる王都。

 市場には人々が行き交い、子どもたちの笑い声が遠く聞こえてくる。


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「あの景色を見て、何を思う?」


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 突然の問いに、アシュレイは少し考えた。


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「守りたいと思います。」


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 国王は静かに頷く。


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「私もだ。」


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「だからこそ難しい。」


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「王という立場になると、人を守るために、人を泣かせる決断をせねばならん。」


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 その声には、長い年月の重みがあった。


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「セドリックは冷たい男に見えるか?」


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 アシュレイは少しだけ考える。


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「冷静な方だと思います。」


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「ですが……。」


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「冷たい方だとは思っていません。」


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 国王は穏やかに笑った。


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「良かった。」


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「もしそう見えているなら、私はあいつを育て損ねたことになる。」


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 アシュレイは少し驚く。


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「育てた……?」


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「ああ。」


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「私が宰相補佐だった頃、まだ若かったセドリックを政務に引き入れた。」


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「当時のあいつは、今のお前によく似ていたよ。」


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「誰一人切り捨てたくない。」


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「そんな理想ばかり口にしていた。」


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 アシュレイは思わず目を見開く。


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「想像できません。」


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「私も今では少し難しい。」


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 国王は苦笑する。


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「だが、現実というものは、人を少しずつ変える。」


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「飢饉もあった。」


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「国境紛争もあった。」


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「外交で救えなかった命もあった。」


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「そのたびに、あいつは自分の理想を削っていった。」


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 しばらく沈黙が続く。


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「だから私は、お前には同じ道を歩んでほしくない。」


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「……。」


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「だが。」


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「現実から目を背ける者にもなってほしくない。」


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「理想だけでは国は守れん。」


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「しかし、理想を捨てた国は、守る価値を失う。」


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 国王はゆっくりとアシュレイを見る。


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「セドリックは、国を守る方法を見つけた。」


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「私は、それが間違いだとは思わん。」


---


「だが、お前には。」


---


「違う答えを見つけてほしい。」


---


 その言葉は、セドリックを否定するものではなかった。


---


 彼が積み重ねてきた歳月を認めた上で、


 さらにその先へ進むことを願う、一人の王の本音だった。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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