第七話 真実を求めた者
灰色塔。
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石造りの廊下を、アシュレイは足早に進んでいた。
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情報漏洩事件。
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数日前から続いていた調査に、一つの結論が出た。
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「こちらです」
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案内された部屋の中には、
セドリック。
灰色塔長官。
そしてミレイの姿があった。
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机の上には数枚の書類。
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その中央に、一人の青年が座っている。
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二十代半ば。
灰色の制服を着た、灰色塔の情報官だった。
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「ルーカス・ハイン」
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灰色塔長官が名を告げる。
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「情報漏洩を認めた」
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青年は静かに頷いた。
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「……はい」
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アシュレイは青年を見る。
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怯えてはいない。
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諦めてもいない。
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ただ、自分の行動を受け入れている目だった。
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「なぜ情報を流した」
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長官が問う。
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「国民が知るべきだと思ったからです」
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迷いのない答え。
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「地下施設のことも?」
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「全部ではありません」
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「ですが、何かが隠されていることだけは伝えました」
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部屋の空気が張り詰める。
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セドリックが口を開く。
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「君は、自分のしたことが分かっているのか」
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「分かっています」
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「王国の混乱を招く行為だ」
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「それでも」
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ルーカスは顔を上げた。
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「知らされないまま従えと言われる国は、正しい国なんでしょうか」
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アシュレイの胸がわずかに揺れる。
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それは、リディアが口にした言葉にも通じていた。
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「もし地下施設が本当に危険なら」
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「なおさら国民には知る権利があります」
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「判断する権利があります」
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セドリックは首を横に振る。
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「違う」
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短く、しかし強い口調だった。
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「責任を負う者と、情報を知る者は同じではない」
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「責任を負う覚悟もないまま真実だけを広めれば、人は恐怖で動く」
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「それがどれほど危険か分からないのか」
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ルーカスは食い下がる。
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「なら、一生知らされないままでいいんですか!」
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「必要な時が来れば知らせる」
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「その『必要』を決めるのは誰です!」
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沈黙。
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誰も答えない。
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その静けさが、何より雄弁だった。
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ルーカスは笑う。
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「やっぱりそうだ」
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「結局、権力を持つ人間が決める」
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アシュレイは口を開いた。
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「一つ聞いてもいいですか」
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ルーカスは頷く。
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「あなたは情報を流した結果、帝国が地下施設の存在を知る可能性は考えましたか」
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一瞬だけ、ルーカスの表情が止まる。
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「……考えました」
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「それでも?」
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「はい」
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「知らないまま利用されるよりは、知った上で選ぶ方がいい」
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その言葉に、アシュレイは目を閉じた。
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正しい。
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間違っている。
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どちらとも言えない。
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目の前の青年もまた、
国を守ろうとしていた。
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ただ、方法が違うだけだった。
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「処分は私が決めます」
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セドリックが立ち上がる。
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「情報官ルーカス・ハインを、灰色塔より除名」
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「あわせて、国家機密漏洩罪として拘束する」
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衛兵が青年を連れていく。
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去り際、ルーカスはアシュレイを見た。
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「あなたなら分かってくれると思っていました」
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その言葉に、アシュレイは何も返せなかった。
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部屋を出たあと、ミレイが静かに言う。
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「どちらも国を守ろうとしていましたね」
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「ああ」
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アシュレイは窓の外を見る。
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王都の街では、人々が今日も穏やかに暮らしている。
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その平穏は、多くの秘密の上に成り立っている。
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それでも。
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秘密は、いつか誰かを傷つける。
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守るための嘘。
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暴くための真実。
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そのどちらにも、正義はあった。
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だからこそ。
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一番難しい。
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