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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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第七話 真実を求めた者



 灰色塔。


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 石造りの廊下を、アシュレイは足早に進んでいた。


---


 情報漏洩事件。


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 数日前から続いていた調査に、一つの結論が出た。


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「こちらです」


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 案内された部屋の中には、


 セドリック。


 灰色塔長官。


 そしてミレイの姿があった。


---


 机の上には数枚の書類。


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 その中央に、一人の青年が座っている。


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 二十代半ば。


 灰色の制服を着た、灰色塔の情報官だった。


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「ルーカス・ハイン」


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 灰色塔長官が名を告げる。


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「情報漏洩を認めた」


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 青年は静かに頷いた。


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「……はい」


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 アシュレイは青年を見る。


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 怯えてはいない。


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 諦めてもいない。


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 ただ、自分の行動を受け入れている目だった。


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「なぜ情報を流した」


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 長官が問う。


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「国民が知るべきだと思ったからです」


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 迷いのない答え。


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「地下施設のことも?」


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「全部ではありません」


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「ですが、何かが隠されていることだけは伝えました」


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 部屋の空気が張り詰める。


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 セドリックが口を開く。


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「君は、自分のしたことが分かっているのか」


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「分かっています」


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「王国の混乱を招く行為だ」


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「それでも」


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 ルーカスは顔を上げた。


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「知らされないまま従えと言われる国は、正しい国なんでしょうか」


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 アシュレイの胸がわずかに揺れる。


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 それは、リディアが口にした言葉にも通じていた。


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「もし地下施設が本当に危険なら」


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「なおさら国民には知る権利があります」


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「判断する権利があります」


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 セドリックは首を横に振る。


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「違う」


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 短く、しかし強い口調だった。


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「責任を負う者と、情報を知る者は同じではない」


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「責任を負う覚悟もないまま真実だけを広めれば、人は恐怖で動く」


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「それがどれほど危険か分からないのか」


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 ルーカスは食い下がる。


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「なら、一生知らされないままでいいんですか!」


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「必要な時が来れば知らせる」


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「その『必要』を決めるのは誰です!」


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 沈黙。


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 誰も答えない。


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 その静けさが、何より雄弁だった。


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 ルーカスは笑う。


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「やっぱりそうだ」


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「結局、権力を持つ人間が決める」


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 アシュレイは口を開いた。


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「一つ聞いてもいいですか」


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 ルーカスは頷く。


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「あなたは情報を流した結果、帝国が地下施設の存在を知る可能性は考えましたか」


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 一瞬だけ、ルーカスの表情が止まる。


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「……考えました」


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「それでも?」


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「はい」


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「知らないまま利用されるよりは、知った上で選ぶ方がいい」


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 その言葉に、アシュレイは目を閉じた。


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 正しい。


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 間違っている。


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 どちらとも言えない。


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 目の前の青年もまた、


 国を守ろうとしていた。


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 ただ、方法が違うだけだった。


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「処分は私が決めます」


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 セドリックが立ち上がる。


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「情報官ルーカス・ハインを、灰色塔より除名」


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「あわせて、国家機密漏洩罪として拘束する」


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 衛兵が青年を連れていく。


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 去り際、ルーカスはアシュレイを見た。


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「あなたなら分かってくれると思っていました」


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 その言葉に、アシュレイは何も返せなかった。


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 部屋を出たあと、ミレイが静かに言う。


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「どちらも国を守ろうとしていましたね」


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「ああ」


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 アシュレイは窓の外を見る。


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 王都の街では、人々が今日も穏やかに暮らしている。


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 その平穏は、多くの秘密の上に成り立っている。


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 それでも。


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 秘密は、いつか誰かを傷つける。


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 守るための嘘。


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 暴くための真実。


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 そのどちらにも、正義はあった。


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 だからこそ。


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 一番難しい。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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