第五話 正しい犠牲
王都西部。
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貴族街から少し離れた場所にある、小さな屋敷。
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華美ではない。
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しかし。
手入れは行き届いていた。
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「フェルナード家ですか」
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アシュレイは門の前で立ち止まる。
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「意外でしたか?」
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隣にいたミレイが尋ねる。
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「少し」
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フェルナード家。
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王国では中堅の貴族家。
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大きな権力を持つわけではない。
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しかし。
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地方領を持ち、長く民と関わってきた家だった。
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扉が開く。
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「お待ちしていました」
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現れたのは一人の女性。
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栗色の髪。
落ち着いた表情。
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「リディア・フェルナードです」
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「アシュレイ・ファン・ヴァイスです」
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「存じています」
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リディアは微笑む。
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「最近、王都で一番話題の外交官ですから」
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「良い意味で、ですか?」
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「半分は」
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予想外の答えに、アシュレイは少し困った。
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「もう半分は?」
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「危険な人だ、と」
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リディアは素直に言った。
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ミレイが少し警戒する。
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しかし。
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リディアは続ける。
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「ですが、私は少し違う見方をしています」
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「どのような?」
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「あなたは、自分が正しいと思ったことをする人です」
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「それは褒め言葉ではありませんね」
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「ええ」
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リディアは頷く。
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「政治の世界では、とても危険な特徴です」
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その言葉に。
アシュレイは苦笑した。
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「今日は私を批判するために?」
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「違います」
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リディアは首を振る。
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「お願いがあって呼びました」
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彼女が見せたのは、地方から届いた報告書だった。
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ヴェルナ周辺地域。
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鉱山停止による影響。
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商業の停滞。
雇用の減少。
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「安全のために必要な措置です」
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アシュレイは言う。
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「分かっています」
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リディアは即答する。
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「だから困っているのです」
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「必要な判断だった」
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「でも、その判断で苦しむ人もいる」
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アシュレイは黙る。
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「あなたはヴェルナの人々を守るために情報を隠した」
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「……」
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「それ自体を責めるつもりはありません」
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リディアは報告書を見る。
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「ただ」
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「守られる側にも、知る権利があります」
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その言葉は。
ミレイとは違う角度から響いた。
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「セドリック様なら」
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リディアは続ける。
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「国を守るためなら仕方ない、と言うでしょう」
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「彼は間違っていません」
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「多くの場合、正しい判断です」
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しかし。
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「正しい判断だけで作られた国が」
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「本当に人のための国なのか」
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アシュレイは答えられなかった。
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その日の帰り。
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アシュレイは王城へ向かう道を歩いていた。
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「変わった人でしたね」
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ミレイが言う。
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「そうですね」
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「セドリック様とは違う意味で、あなたに似ています」
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「私に?」
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「はい」
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「二人とも、人を切り捨てることを嫌っている」
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「でも」
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ミレイは続ける。
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「リディア様は、切り捨てないための方法を探している」
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その夜。
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アシュレイの元に新しい命令が届く。
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『ヴェルナ問題特別外交責任者に任命する』
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内容を読んだ瞬間。
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彼は気づいた。
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これは信頼ではない。
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試されている。
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成功すれば功績。
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失敗すれば責任。
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王国は。
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自分に選択を迫っている。
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「守るための嘘」
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「守るための犠牲」
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「そして」
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「守るべき人々」
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三つの答えが。
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少しずつ離れ始めていた。
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