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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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第五話 正しい犠牲



 王都西部。


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 貴族街から少し離れた場所にある、小さな屋敷。


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 華美ではない。


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 しかし。


 手入れは行き届いていた。


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「フェルナード家ですか」


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 アシュレイは門の前で立ち止まる。


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「意外でしたか?」


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 隣にいたミレイが尋ねる。


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「少し」


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 フェルナード家。


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 王国では中堅の貴族家。


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 大きな権力を持つわけではない。


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 しかし。


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 地方領を持ち、長く民と関わってきた家だった。


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 扉が開く。


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「お待ちしていました」


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 現れたのは一人の女性。


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 栗色の髪。


 落ち着いた表情。


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「リディア・フェルナードです」


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「アシュレイ・ファン・ヴァイスです」


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「存じています」


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 リディアは微笑む。


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「最近、王都で一番話題の外交官ですから」


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「良い意味で、ですか?」


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「半分は」


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 予想外の答えに、アシュレイは少し困った。


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「もう半分は?」


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「危険な人だ、と」


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 リディアは素直に言った。


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 ミレイが少し警戒する。


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 しかし。


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 リディアは続ける。


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「ですが、私は少し違う見方をしています」


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「どのような?」


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「あなたは、自分が正しいと思ったことをする人です」


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「それは褒め言葉ではありませんね」


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「ええ」


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 リディアは頷く。


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「政治の世界では、とても危険な特徴です」


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 その言葉に。


 アシュレイは苦笑した。


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「今日は私を批判するために?」


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「違います」


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 リディアは首を振る。


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「お願いがあって呼びました」


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 彼女が見せたのは、地方から届いた報告書だった。


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 ヴェルナ周辺地域。


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 鉱山停止による影響。


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 商業の停滞。


 雇用の減少。


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「安全のために必要な措置です」


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 アシュレイは言う。


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「分かっています」


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 リディアは即答する。


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「だから困っているのです」


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「必要な判断だった」


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「でも、その判断で苦しむ人もいる」


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 アシュレイは黙る。


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「あなたはヴェルナの人々を守るために情報を隠した」


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「……」


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「それ自体を責めるつもりはありません」


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 リディアは報告書を見る。


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「ただ」


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「守られる側にも、知る権利があります」


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 その言葉は。


 ミレイとは違う角度から響いた。


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「セドリック様なら」


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 リディアは続ける。


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「国を守るためなら仕方ない、と言うでしょう」


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「彼は間違っていません」


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「多くの場合、正しい判断です」


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 しかし。


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「正しい判断だけで作られた国が」


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「本当に人のための国なのか」


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 アシュレイは答えられなかった。


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 その日の帰り。


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 アシュレイは王城へ向かう道を歩いていた。


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「変わった人でしたね」


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 ミレイが言う。


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「そうですね」


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「セドリック様とは違う意味で、あなたに似ています」


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「私に?」


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「はい」


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「二人とも、人を切り捨てることを嫌っている」


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「でも」


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 ミレイは続ける。


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「リディア様は、切り捨てないための方法を探している」


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 その夜。


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 アシュレイの元に新しい命令が届く。


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『ヴェルナ問題特別外交責任者に任命する』


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 内容を読んだ瞬間。


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 彼は気づいた。


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 これは信頼ではない。


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 試されている。


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 成功すれば功績。


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 失敗すれば責任。


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 王国は。


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 自分に選択を迫っている。


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「守るための嘘」


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「守るための犠牲」


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「そして」


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「守るべき人々」


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 三つの答えが。


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 少しずつ離れ始めていた。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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