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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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第四話 王国の都合



 灰色塔。


---


 リーヴェルト王国に存在する情報機関。


---


 表向きは記録管理を担う組織。


 しかし実際には。


---


 国内外の情報収集。


 外交分析。


 危険人物の監視。


---


 王国が目を閉じないための目だった。


---


 その灰色塔で。


 異変が起きていた。


---


「漏洩した情報は三件」


---


 灰色塔の会議室。


 責任者が報告する。


---


「一件目は帝国関連の外交記録」


「二件目はヴェルナ自治区の調査記録」


「そして三件目が……」


---


 男は一瞬言葉を止める。


---


「地下施設に関する断片情報です」


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 アシュレイの表情が変わる。


---


「どこまで?」


---


「詳細は不明です」


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 灰色塔の責任者は答える。


---


「しかし、誰かが存在を知っていた可能性があります」


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 静寂。


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 アシュレイは考える。


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 自分が隠したもの。


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 それを。


 誰かが外へ流そうとしている。


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「犯人は?」


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「現在調査中です」


---


 その時。


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「急ぐ必要はありません」


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 声がした。


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 セドリックだった。


---


「情報漏洩は重大ですが、焦って動けば相手の思う通りになります」


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 灰色塔の責任者が頷く。


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「同意します」


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 しかし。


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 アシュレイは違和感を覚えた。


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「情報を隠すのですか?」


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 セドリックを見る。


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「今は必要ありません」


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「国民にも?」


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「当然です」


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 即答だった。


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 アシュレイは黙る。


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「地下施設の存在を公表すれば混乱が起きる」


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 セドリックは続ける。


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「帝国も動く」


「国内の強硬派も利用する」


---


「知らない方が幸せな情報もあります」


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 その言葉に。


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 アシュレイは少しだけ目を細める。


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「……それは」


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「私と同じ考えでは?」


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 セドリックは否定しなかった。


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「そうです」


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 意外な答えだった。


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「だからこそ聞きたい」


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「君はなぜ、私を批判するような顔をしているのですか」


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 アシュレイは言葉に詰まる。


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 確かに。


---


 自分も隠した。


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 必要だと思ったから。


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 なら。


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 セドリックの判断を否定できるのか。


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「違いがあります」


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 アシュレイは言う。


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「何が?」


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「……分かりません」


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 正直な答えだった。


---


 セドリックは少し驚いたように見る。


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「分からない?」


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「はい」


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 アシュレイは続ける。


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「だから考えています」


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「自分の嘘と、あなたの判断が」


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「本当に同じものなのか」


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 しばらく沈黙。


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 その後。


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 セドリックは小さく息を吐いた。


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「君は面倒な人ですね」


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「よく言われます」


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「褒めてはいません」


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「それもよく言われます」


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 一瞬だけ。


 二人の間に空気の緩みが生まれる。


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 しかし。


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 その日の夜。


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 新たな問題が起きた。


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 王都の一部地域で。


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「帝国が秘密兵器を作っている」


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 という噂が広まり始めた。


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 根拠はない。


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 しかし。


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 人々は信じ始めていた。


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 不安がある場所では。


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 真実より先に。


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 噂が広がる。


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 アシュレイは報告書を見る。


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 そこには書かれていた。


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『情報漏洩元、灰色塔内部の可能性あり』


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 誰かが情報を流した。


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 しかし。


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 本当に恐ろしいのは。


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 流された情報そのものではない。


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 人々が。


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 知らないものを恐れ始めていることだった。


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「国を守るために隠した情報が」


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 アシュレイは呟く。


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「別の形で人々を不安にしている」


---


 彼はまだ知らない。


---


 この事件の裏にいる人物が。


---


 自分とは全く違う理由で。


---


 真実を求めていることを。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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