第四話 王国の都合
灰色塔。
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リーヴェルト王国に存在する情報機関。
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表向きは記録管理を担う組織。
しかし実際には。
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国内外の情報収集。
外交分析。
危険人物の監視。
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王国が目を閉じないための目だった。
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その灰色塔で。
異変が起きていた。
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「漏洩した情報は三件」
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灰色塔の会議室。
責任者が報告する。
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「一件目は帝国関連の外交記録」
「二件目はヴェルナ自治区の調査記録」
「そして三件目が……」
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男は一瞬言葉を止める。
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「地下施設に関する断片情報です」
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アシュレイの表情が変わる。
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「どこまで?」
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「詳細は不明です」
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灰色塔の責任者は答える。
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「しかし、誰かが存在を知っていた可能性があります」
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静寂。
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アシュレイは考える。
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自分が隠したもの。
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それを。
誰かが外へ流そうとしている。
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「犯人は?」
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「現在調査中です」
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その時。
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「急ぐ必要はありません」
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声がした。
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セドリックだった。
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「情報漏洩は重大ですが、焦って動けば相手の思う通りになります」
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灰色塔の責任者が頷く。
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「同意します」
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しかし。
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アシュレイは違和感を覚えた。
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「情報を隠すのですか?」
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セドリックを見る。
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「今は必要ありません」
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「国民にも?」
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「当然です」
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即答だった。
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アシュレイは黙る。
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「地下施設の存在を公表すれば混乱が起きる」
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セドリックは続ける。
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「帝国も動く」
「国内の強硬派も利用する」
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「知らない方が幸せな情報もあります」
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その言葉に。
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アシュレイは少しだけ目を細める。
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「……それは」
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「私と同じ考えでは?」
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セドリックは否定しなかった。
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「そうです」
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意外な答えだった。
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「だからこそ聞きたい」
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「君はなぜ、私を批判するような顔をしているのですか」
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アシュレイは言葉に詰まる。
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確かに。
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自分も隠した。
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必要だと思ったから。
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なら。
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セドリックの判断を否定できるのか。
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「違いがあります」
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アシュレイは言う。
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「何が?」
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「……分かりません」
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正直な答えだった。
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セドリックは少し驚いたように見る。
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「分からない?」
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「はい」
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アシュレイは続ける。
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「だから考えています」
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「自分の嘘と、あなたの判断が」
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「本当に同じものなのか」
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しばらく沈黙。
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その後。
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セドリックは小さく息を吐いた。
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「君は面倒な人ですね」
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「よく言われます」
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「褒めてはいません」
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「それもよく言われます」
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一瞬だけ。
二人の間に空気の緩みが生まれる。
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しかし。
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その日の夜。
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新たな問題が起きた。
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王都の一部地域で。
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「帝国が秘密兵器を作っている」
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という噂が広まり始めた。
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根拠はない。
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しかし。
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人々は信じ始めていた。
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不安がある場所では。
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真実より先に。
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噂が広がる。
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アシュレイは報告書を見る。
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そこには書かれていた。
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『情報漏洩元、灰色塔内部の可能性あり』
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誰かが情報を流した。
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しかし。
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本当に恐ろしいのは。
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流された情報そのものではない。
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人々が。
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知らないものを恐れ始めていることだった。
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「国を守るために隠した情報が」
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アシュレイは呟く。
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「別の形で人々を不安にしている」
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彼はまだ知らない。
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この事件の裏にいる人物が。
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自分とは全く違う理由で。
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真実を求めていることを。
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