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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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第三話 隠された真実



 数日後。


 王都には一つの発表が出された。


---


 ヴェルナ自治区で発生した失踪事件。


 その原因について。


---


「帝国側の不審な活動が確認された」


---


 それが王国の公式見解となった。


---


 街では様々な声が上がった。


---


「やはり帝国は信用できない」


「いつか攻めてくると思っていた」


「王国はもっと備えるべきだ」


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 人々の不安は広がった。


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 しかし。


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 戦争の気配は一時的に遠のいた。


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 理由は単純だった。


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 王国が「確認できた脅威」として帝国を警戒し始めたからだ。


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 誰も地下施設を知らない。


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 誰も、その奥に眠るものを知らない。


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 少なくとも。


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 今は。


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「結果だけ見れば」


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 セドリックは資料を眺めながら言った。


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「君の判断は成功しています」


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 王城の執務室。


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 アシュレイは向かいに座っていた。


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「成功、ですか」


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「帝国への警戒は高まった」


「しかし、軍事衝突には至っていない」


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 セドリックは淡々と言う。


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「最悪の未来は避けられています」


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「ならば」


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 アシュレイは尋ねる。


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「問題はないと?」


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 セドリックは少し考えた。


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「問題がないとは言っていません」


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「ただ」


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「国家運営では、全てを綺麗に解決することはできない」


---


 その言葉は。


 第一章で聞いたものとは違う重さを持っていた。


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 セドリックはアシュレイを見た。


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「君は選びました」


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「国全体の混乱を避けるために、情報を制限した」


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「それは政治判断です」


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 アシュレイは黙る。


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 認めたくないわけではない。


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 ただ。


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 自分の中で整理できていなかった。


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 その日の午後。


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 アシュレイは王都の外れを訪れていた。


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 理由は一つ。


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 ヴェルナから来た避難者たちの確認。


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 失踪事件の影響で、一部の住民が移動していた。


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 そこで。


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 一人の老人と話すことになる。


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「鉱山が止まるらしいな」


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 老人は言った。


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「安全のためです」


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 アシュレイは答える。


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 老人は苦笑した。


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「安全か」


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「確かに命は大事だ」


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「でもな」


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 老人は遠くを見る。


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「鉱山が止まれば、仕事がなくなる人間もいる」


---


「家族を食わせられなくなる奴もいる」


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 アシュレイは言葉を失う。


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「国は俺たちを守ろうとしている」


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「それは分かる」


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「でも」


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 老人は続ける。


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「俺たちは、何も知らされないまま守られている」


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 その夜。


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 アシュレイは資料を読み返していた。


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 地下施設を隠したことで。


 戦争は避けられた。


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 しかし。


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 別の場所で。


 人々の生活に影響が出ている。


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 情報を隠したことで。


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 誰かを守った。


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 同時に。


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 誰かから判断する権利を奪った。


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「……」


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 机の上には、二つの資料。


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 一つは。


 王国への報告書。


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 もう一つは。


 ヴェルナの住民記録。


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 どちらも本物。


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 どちらにも嘘はない。


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 しかし。


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 片方には書かれていないことがある。


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 アシュレイは初めて理解する。


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 嘘とは。


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 必ずしも偽りの言葉だけではない。


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 伝えなかった真実もまた。


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 誰かにとっては嘘になる。


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 翌朝。


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 灰色塔から連絡が届いた。


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 内容は短かった。


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『内部情報の漏洩を確認』


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『調査を開始する』


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 アシュレイはその紙を見つめる。


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 自分の嘘とは別の場所で。


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 誰かがまた。


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 真実を隠している。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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