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国を守る嘘  作者: アゴウオカダ
第一部 若き外交官編 第二章 境界線
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12/16

第二話 書かれなかった報告



 王城会議室。


---


 長い机の向こうには、王国の主要人物が並んでいた。


---


 国王。


 宰相。


 軍務を担当する将官。


 灰色塔の代表。


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 そして。


---


 アシュレイ・ファン・ヴァイス。


---


 彼の前には、一冊の報告書が置かれている。


---


 ヴェルナで起きた事件。


 帝国外交官との接触。


 失踪事件。


---


 全てを記録したもの。


---


 ……のはずだった。


---


「では、報告を」


---


 宰相の言葉。


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 アシュレイは立ち上がる。


---


「はい」


---


 一瞬。


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 地下施設の光景が頭をよぎる。


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 古い装置。


 残された記録。


 そして。


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 父の名を知るエドガー。


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 あれを話せば。


 どうなるか。


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 帝国は動く。


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 王国軍も動く。


---


 ヴェルナ自治区は、ただの調査対象ではなくなる。


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 人々が暮らす場所ではなく。


---


 奪い合う場所になる。


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「……」


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 アシュレイは報告書を開く。


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「ヴェルナ自治区で発生した失踪事件について、帝国側の関与が確認されました」


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 会議室に緊張が走る。


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「具体的には?」


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 軍務官が尋ねる。


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「帝国所属と思われる人物が、現地で独自調査を行っていました」


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 嘘ではない。


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「目的は不明です」


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 これも嘘ではない。


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 しかし。


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 本当に重要な部分には触れない。


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「地下施設については?」


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 灰色塔の代表が聞く。


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 その瞬間。


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 空気が変わった。


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 アシュレイは相手を見る。


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 この人物は。


 何か知っている。


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 灰色塔は、全てを把握しているわけではない。


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 だが。


 何かを疑っている。


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「確認できませんでした」


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 言葉が出た。


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 静かに。


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 自分でも驚くほど自然に。


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 嘘だった。


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 会議は続く。


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 帝国への警戒。


 外交方針。


 軍の対応。


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 議論は進んでいく。


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 しかし。


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 アシュレイには、その内容が遠く聞こえていた。


---


 自分が書いた報告書。


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 その中には。


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 書かなかった真実がある。


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 会議終了後。


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 廊下。


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「随分と綺麗な報告でしたね」


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 声。


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 ミレイだった。


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 アシュレイは足を止める。


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「何がですか」


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「必要な情報だけが、綺麗に並んでいました」


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「……」


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「でも」


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 ミレイは続ける。


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「本当に重要なことほど、書かれていませんでした」


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 アシュレイは答えない。


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「地下施設」


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 その言葉に。


 彼の表情がわずかに変わる。


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「知っていたんですね」


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「確信はありませんでした」


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 ミレイは言う。


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「でも、あなたが何かを隠していることは分かりました」


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「必要だった」


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 アシュレイは言った。


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「今公開すれば、ヴェルナの人々が危険になる」


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「分かります」


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 ミレイは否定しない。


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「あなたが何を守ろうとしているのかも」


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「なら」


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「なぜそんな顔をしているんですか」


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 アシュレイは黙る。


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 なぜ。


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 自分でも分かっていた。


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 正しいと思った。


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 必要だと思った。


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 だから隠した。


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 なのに。


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 胸に残る違和感。


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「……」


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「私は」


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 アシュレイは言葉を選ぶ。


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「昔から、嘘を嫌っていました」


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「人を利用するための嘘を」


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「都合の悪いことを隠すための嘘を」


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 ミレイは静かに聞いている。


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「でも」


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「今回、私は同じことをした」


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「違います」


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 ミレイが言う。


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「同じではありません」


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「あなたは、自分のためについた嘘ではない」


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 アシュレイは顔を上げる。


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「でも」


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 ミレイは続ける。


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「だから正しいとも限りません」


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 その言葉が。


 一番重かった。


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 夜。


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 アシュレイは一人で報告書を見る。


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 最後のページ。


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 本来なら書くべきだった情報。


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 そこは白紙だった。


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 何も書かれていない。


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 しかし。


---


 その白紙こそが。


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 この日のアシュレイがついた。


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 最初の嘘だった。



毎日20時20分投稿予定です。


もしよければ、ブックマークと評価よろしくお願いします。

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