俺にも春が来た〜
―ゆっくりと目を開けた先に見える景色は元居た世界である現代日本の光景だった。
「こ、れは……日本?ここは郊外の住宅街かな…?」
懐かしい気持ちで胸がいっぱいになるな…
「それで…?いきなり渡ったら、住宅街のど真ん中の緩い傾斜の坂道の上で、俺は何をしろと……?」
((ハルマ様))
いきなりなんだと思ったが、これは脳に直接語り掛けている的な事だろうか……?
((先程、この世界に来てからこの世界の情報を天啓として授かりました。その情報を聞くに、ここにはエルフ種が存在しないようです。なので、私はハルマ様の影に入っていようかと思います。))
「ん???????」
((あっと、とりあえず様付けは直しておくようにな))と、一言だけ顔を引きつらせながら言った。
「ん〜?」
陽磨は頭がいっぱいでひとまず腕を組んで黙考した。
(えっと、びっくり情報がたくさんあって情報過多状態なんだが……気になる点一つ目としては、前々から少し気になってはいたんだけれど、天啓を受けたりステータスやミッションの存在を知っていたり、最初から俺に仕えている事を含めて……レイナって何者?ってのが一つ目で二つ目はエルフ種って話だよね。あれを聞く限り思い当たる事としてはレイナがその当人であるエルフ種って事だよな。あの銀髪がかった白の長髪で覆われていて耳なんてちゃんと見たこと無いけど、まさかエルフだったとは……)
(まぁなんにせよ、この事はレイナに聞かずに多少警戒だけしとくか〜)
陽磨は軽く伸びをしつつ、あっけらかんとした態度で重要な情報を投げたのであった。
それでずっと気になってたけど、新たなミッション来てるんだよな……
一応、目は通したけど……俺自身よく分からん。視界に入ってはいるんだけど、住宅街には珍しく、少し異質なパン屋がひっそりと佇んでいるんだが……そこでパンを買ってきて坂の一番上から分速160メートルを保って駆け下りろだとよ。なんならタイムリミット付きなんだよな〜結局これによって何が起きるかも分からない。ひとまず、やってみるしかないか……
カランカラン
「パンを一つくださ〜い」
やけに静かだ……
そこに出迎えてくれる相手はいなかった…
ただ一つ異質なオーラを放つシステムに近しい物体が浮かんでいた。
―世渡り様へ、こちらが今回のミッションに使用する食パンとなります―
と、一文だけ置き手紙かのように俺(?)を待っていた。
その時、眩い光に包まれて目を開くと食パンを手に坂道の一番上に佇んでいた。
考えることはまだ沢山あるが、タイマーと思しきものが頭上に浮かび上がり、残り1分を切っていた。
この世界に魔法やらスキルやらは無いだろうが、やむを得ない―
「アビリティエンチャント、思考演算、思考加速、ライトフットワーク、形式演算、アジリティアップ、エアーカットフィールド」
少し足りないかも知れないが…スキルを発動した俺はタイマーが切り替わると同時に、坂を下り始めた。
坂を下り始めて、100メートルに差し掛かった辺りで坂の終わりが見えてきて、あと一歩で謎のミッションが終わると思ったその時だった。アビリティエンチャントの副次効果で高まった五感で認識できたが、坂の左側から何かがものすごい速さで突っ込んでくるのが分かった。
(まずい…今の俺は肉体への強化は然程、掛けていない……必然的にこのままだとぶつかる流れだ。普通に骨折ぐらいしそうだ。ミッションは大事だが、命あってこそ!)
俺はスキルを解除して浮いてる足をなんとか引き戻して急ブレーキを掛けた。曲がり角から加えたパンだけが出ている状態ではあるがぴったり止まった、が……
「あっパンだ〜遅刻しそうだったから良かっふぁ〜」
今から思考加速を付けてももう手遅れだろう……俺はしばし思考が止まった。
しばらくして、気を取り戻して現実に戻ってきた。要するに、足の速い短髪美女に口に咥えたパンを口で咥えて持っていかれた…?いや、分かるか!と、この事実を殴りたくなったが、踏みとどまった。
(今のは、もしかしてテンプレ?え?古くね?曲がり角で女の子とぶつかるやつ?パン咥えるの普通女子側だよね?てか、今の俺って勿体ないことをしたんじゃ…折角女の子と何やら発展したかもしれないのに……くっ!しくった)
これは悔やんでも仕方ない、そう割り切って、さっきはミッションを失敗したけど新たなミッションが来てるからそれに陽磨は目を通した。
えっと…内容として、さっきのミッションをクリア出来なかったけれど、温情で特別にクリア報酬を渡しますって書いてあるんだけど……釈然としねぇ
―報酬:スキンチェンジの魔導書―
「あ〜そういう感じね」
この魔法で登録してある服装に即座に変われるってことで、もう使って欲しい服が登録されていると……なるほど、便利だ。
「んじゃ、早速〜スキンチェンジ!」
(え、これはもしかしてもしかすると!?)
陽磨は空に向かってガッツポーズアンドサムズアップ。
陽磨の身を包んでいたのは懐かしき男子高校生の制服であった。
それで、ミッションにマップが書いてあるから恐らくここに高校でもあるんだろうな〜
と、うきうきしていた陽磨だったがミッションのラストに不穏なタイムリミットが……門が閉まるまで残り5分弱を示していた。
(やべぇ急がなきゃ、ここから高校までだとおおよそ5キロもある。とてもじゃないが、徒歩じゃ間に合わない。う〜ん、これを試すか。まだ練習していないけど……)
「思考演算、空間認識、バードアイ、座標転移、特殊魔法陣、特殊結界、亜空間魔法」
(なんだかレシピも無しにスイーツ作りをしている気分だ)
座標軸を特定した俺は見事に転移に成功した。多少ズレが生じて学校の屋上が見えるくらいの距離で少し奥まった路地だけど、ちょうどいい。
学校が見える範囲だから、ここからは普通に登校しよう。
一応、いつの間にか持っていた学生鞄の中には教科書類がいくつか入っていたが、見た感じだと高2の理系物理選択だろうな……
そんなふうに考えつつも、この時の陽磨はまだ幸せの渦中だった―――




