転校生は幼馴染みが良かった…
俺は教科書に書き記されていたクラス番号名前を頼りに下駄箱に靴を入れて、逡巡した。
校舎に入った際に感知魔法を発動させていた陽磨は建物の構造は理解したが、流石にどこになんの教室があるかは分からなかったようで……全ての教室の室名札を確認そして記憶しつつ、最後の最後にやっとのこと目的である二年一組の室名札を見つけた。
俺は、ボソッとおはようございま〜すと言った後に音を立てずに扉を開き教室を見渡した。
まだクラスメイトは鐘もなっていないためか、小さなグループを形成しつつ談笑中だった。ちなみに俺の席は苗字が鐵でどうなるかとも思ったが、しっかりと主人公席である窓側一番後ろだった。ちなみにクラスは俺含め、全部で40人のようだ。そして、席の並び順は横が6列の縦7列で最後尾だけ廊下側から2つ分席が無い形となっていた。
そこで、ある一つの問題が解決した。今が何月何日なのかという問題だ。そもそもここが日本だと断定することも出来ないが、黒板には稚拙な字だったが7月6日と書かれていた。西暦が分からないにしろ、学校生活を送る上ではありがたい情報だった。
すると、懐かしい鐘の音が教室内に響き渡った。
騒々しかった教室がたちまち静寂へと移り変わった。
とりあえず、俺は静観の構えを取った。しかし、俺のそんな構えは次の出来事によって全てが打ち砕かれてしまった―
教室の扉が開いて入ってきたのは、このクラスの担任と思われる女性教師が入室してきた。その教師は比較的細い眼鏡を掛けていて、その内側から窺える眼光からはしっかり者といった印象を受ける。
「今日からこのクラスに新しい仲間が加わる。 入ってくれ。」
珍しい展開でもある転校生イベントが偶然起きたとも思えないし、十中八九俺の力のせいだろうな。
(つまり、これはテンプレ展開!ならば転校生はどう考えても女子であるのは間違いない!その上でどんなタイプの女子が来るのかに全てが掛かっている!!さぁ、どんと来い!)
俺の心中は興奮で大荒れだったが、レイナは影の中からでも外の世界を見ることができるため、表情はポーカーフェイス寄りの澄まし顔で今か今かと顔を拝む姿勢を作った。
「おい…これは……」
「あぁ……分かるぜ」
「来たか…俺の時代」
転校生の顔を見たクラス中の男子がざわつき始めた。
(………………)
俺の心中は雨後の静けさで包まれていた。なぜかだって?何故もなにも転校生として現れたのは、今朝に俺の食パンを食い逃げしていったあの女子だからだよ。
俺の心が呼吸を思い出したところで、胸中が1.5倍速でざわめき出した。
そもそも、見間違いかも……いや、今朝の彼女が凄い速さで走っていたとはいえ、俺の高まった五感のおかげで顔はしっかり確認した。
(はぁ現実逃避すらさせて貰えないとは…)
それにしてもだよ、クラスの男子が騒いでる通り、可愛いには可愛いんだよね。それも少し難点なんだよな〜。前にも言った通り、短髪の美女で肌はいい具合に焦げ茶に焼けている。髪は若干、茶色掛かっているがそれでも黒が基調となっている様だ。
「私は柏木 凛だ。特技は走ること。好きな事も走ること。小学生のときから未だ、百メートル走で負けたことは無い。ずっと優勝を勝ち取っている。私は私よりも足の速い男が好きだ!これからよろしく!」
よく通る声で彼女は自己紹介を終わらせた。
今朝も含めて、俺の偏見もあるかも知れないけど、第一印象として感じたのは天真爛漫で元気の塊のようにも見えた。だけど、見てるこっちがハラハラしそうな危うい一面があるようにも感じた。
だが、そんな評価は置いておいてこういうやつには関わらないのが正解だと俺は知っている。こういうタイプは会話が通じなさそうだ。大抵が脳筋思考なんだよ。だから、俺は今朝のことなんて知らぬ存ぜぬを突き通させて貰う。憶測だが、席の並び的に隣席になることはまず無いだろう。
俺は安心して一息吐いた。そして、その後の学校生活をどうしようかと思考を切り替えた。
しかし、その展開はこじつけが過ぎると言わざるを得ないほどの展開に発展してしまった。
担任の先生がどこの席に座って貰おうかと唸った。
俺は何故そこで悩む!?と言ってやりたいが、大人しくしていたその時だった。隣の席の男子が手を挙げた。
今の今まで存在を疑う程に陰の薄い生徒だったが俺をちらりと見た後に、
「先生、俺の席はどうでしょうか。ここなら、角席で友達作りが難しくなる事は無いと思います。代わりに俺は3つ右に席をずらすので、この席はお譲りします。」
と、聞き取れなくはなかったものの早口で発言した隣の男子はそそくさと席を変える準備を始めた。
先生はそんな彼を見て、あっさりと柏木にあそこに座るようにと促した……
(あ、終わった……あの野郎何してくれてんだ、何か様子がおかしかったがよくもやってくれたな……)と、内心で呟きながら窓の外を眺めた。
(あぁ、俺と違っていい天気だ)
男子の目線を浴びながら隣まで歩いてきた柏木は机に荷物を下ろして、ふと隣人である俺を見て硬直したのが背中に伝わってきた。
(やっぱり、俺のこと見ちゃってたかぁ……詰んだな)
そんな風にぼやいてると、柏木は声には出さなかったものの、分かりやすく俺と正面の黒板を交互に見つつあたふたしていた。
ラブコメに進むのは嬉しいには嬉しいが歓迎ではない。はっきり言って、タイプじゃねえ。
静かに独り言ちていた俺だったが、今日何度目になるだろうか。不意を突かれすぎてそんな時だったという気力も無いが…その時…だった……
教室の中心が光ったかのように見えた直後、床に巨大な魔法陣が描かれていた。妖しい煌めきを伴い始めた魔法陣は浮かび上がり……そこで俺の意識が途絶えた――




