インターハイ東京予選準決勝 立見VS西園7
「ったく、なんて試合してんだ輝羅の奴」
スタンドからは輝羅のスーパーゴールを称える声が鳴り止まず、未だに無回転キックの興奮が収まっていない。
ゴールを決めたのは良い事だが、GKで目立ち過ぎだなと間宮は皆と喜び合う輝羅を眺める。
「GKとして頼もしいのは、これまでの実績や実際に活躍を目にして分かります。ただ、少しスタンドプレーの過ぎる所は問題です。失敗すれば即失点に繋がるというのに」
理彩は輝羅の実力を高く評価する一方、必要以上に前へ出過ぎだと問題視して、クイッと眼鏡を上げる仕草をした。
「余程の自信があったみたいだな。本当に決めちまって今じゃ持ち味にしたりと──才能ってのは恐ろしいもんだ」
背負うリスクに対して少しも恐れる事なく、自ら進んでFKを行えば結果を出す。
試合を重ねるごとに、研ぎ澄まされてると間宮からは見えていた。
「くそぉ!! 何なんだ今のキックは!?」
今大会初失点のゴールをよりによって輝羅に許し、岩坂は倒れたまま何度も芝生に拳を打ち付け、悔しさが収まらない。
ライバル視していた輝羅にやられるのは、先程の挑発も上乗せされて大きな屈辱だった。
「落ち着いてください岩坂さん! 試合まだ終わってないですから!」
暴れ狂いそうな守護神の様子に、海斗は岩坂を抑えて落ち着かせようとする。
「ぐうう……!」
「いいですか!? まだ点差は1点てすから、1点入れれば振り出しに戻ります! 此処で動揺して更に失点を重ねるのが一番良くないですからね!?」
「(何か、今の海斗の方がキャプテン向いてそうだな。失点で怒り狂っちまった岩坂よりも)」
止められなくて見守っていた和泉は、今だけキャプテンを交代した方がいいと、一瞬頭を過ぎる。
嘆いても失点が戻る事は決して無く、取られた1点を取り返しに皆がポジションに素早く散っていた
『西園のキックオフで試合再開! 残り時間が少ないので西園は早く立見からゴールを奪い、同点に追いつきたい!』
『流れは立見にありますから、再び流れを引き戻さないといけませんね』
キックオフで試合が再開すると、海斗を中心にパス回しが西園の間で行われる。
此処に来て息を吹き返したかのようで、早くも立見のゴール前へ迫って来た。
「10番囲んでー!」
輝羅はエースの和泉が来ると読み、ゴール前で彼の動きに注意するよう指示を出す。
『パスを出せない西園! プレスをかけていく立見! 弾いて闇坂が取った!』
読みが的中して、影二のキープから立見はカウンターに出る。
「(空いてる……右……!)」
点が欲しい西園は攻撃的になっていた為、奪った直後に影二の目が右サイドのスペースへ向く。
走る風野も見えて影二の左足でパスを送り、立見が右から抜け出す。
『右の風野に通り、西園ゴールへ迫る!』
手薄になっているゴール前へラストパスが蹴り出され、受け取ったのは星夜。
背負う大野を上手くターンで抜けると、目の前には身構える岩坂とゴールマウスが見えた。
その瞬間、星夜は右足を振り抜いてシュートを放つ。
「うお!?」
地を這うボールが、大股に構えていた岩坂の股下を通過していき、再びゴールネットが揺れ動く。
『カウンター決まった!! 古神、立見を東京代表へ導く大きな追加点を決めてみせた!』
『今のは股下ですよね。大野君を抜けた瞬間に狙っていたのかもしれません』
「追加点でかした! 咄嗟にあんな事出来るなんて、たいしたもんだ!」
「良いぞ神童ー!」
「い、痛いです先輩達……!」
ゴールを決めた星夜に立見の先輩達が駆け寄り、手荒い祝福を受ける。
それだけ2点目が重要で、決めたのが大きい事を意味するのだろう。
「(終わったね。もう彼も折れたみたい)」
輝羅から見れば、追加点を後半残り少ない時間帯に決められてしまい、ガックリと両膝をつく岩坂の心が折れたと分かる。
追いつくどころか2点差に開き、無失点の立見相手に無理だと。
「終わってないからー! 皆しっかりー!」
そこへ西園ベンチから聞き覚えある女子の声がすると、輝羅が目を向けた先には八乙女美怜の姿があった。
諦めては駄目だと大声で西園選手達に叫ぶ。
「ボール! 早く!」
彼女の声に応えるかのように、海斗はボールを持ってセンターサークルへ向かう。
「(逞しくなったのは体だけじゃなく、心もそうみたいだね)」
輝羅が海斗の心を覗けば、彼は立見から2点を取るつもりでいる。
相手が無失点で小さな天才GKが守ってようと、彼の心は折れない。
「まだ終わってないよー! 0で終わるからねー!」
向かって来る海斗に備え、輝羅は手を叩いて守備陣を引き締めさせた。
『西園、社がボールを持って単独のドリブル突破だ!』
海斗が中央からドリブルを仕掛けると玉石、青松の間を抜けていく。
パスを出そうという考えは無く、それでも彼の個人技が輝いて、立見のゴール前へ迫っている。
「(抜かせるか1年が!)」
此処で理勝が立ち塞がり、厄介なDFを前に海斗の足は止まった。
そこから右足を振り上げるモーション。
「(キックフェイントか……!?)」
フェイントだと思って身構えると、理勝の頭上をふわりとボールが浮かんで通過。
右足のチップキックで相手の上を越えると共に、海斗自らも理勝の右側から抜け出して、浮かせた球へ迫る。
「(蹴り出さないと……!)」
海斗の前に今度は影二が音も無く忍び寄り、ボールをクリアしに向かう。
後ろには輝羅しかおらず、此処で抜かれたら一対一になってしまう。
「……!?」
影二が左足で蹴り出すより先に、海斗の右足が届いて再び相手の頭上をボールが越していく。
「おおおっ!?」
連続チップキックを目の当たりしたスタンドからは、驚きの歓声が上がっていた。
驚異の4人抜きとなり、影二も躱した海斗は宙を舞う球へ迫る。
「此処までだよ」
「!?」
何時もの陽気な声ではない、冷たい声が海斗の耳に入ると共に、輝羅が彼よりも先に左足でボールを蹴り出していた。
『クリア! 社の驚愕な個人技からチャンスかと思えば、GKの神明寺がゴール前を大胆に飛び出していた!』
『社君の2連続チップキックには驚かされましたね! これでゴールを奪っていたら今年の高校サッカーでベストゴールとなったかもしれません!』
「何時の間に飛び出してたんだ……」
「パスなんか考えてないと思ったからねー。1人で立見のDF4人抜きはエグいって」
先程の冷酷な声を発した面影を感じさせず、輝羅は明るい笑顔を見せている。
「(エグいはそっちだろ。数多くのシュートを止めたり、先制点を決めたりと、スーパーGKにも程があるっての……!)」
彼が化物なのは知っていたが、改めて向き合えば分かった。
常識など通じない、セオリーを無視した規格外だと。
「(悪いけど、楽しい夏を過ごす為に余計負けられないんだよねー)」
元々の天賦の才やサイキッカーとしての力だけではない。
今の輝羅には想い人が出来て、彼女と過ごす為に高校のライバル全員を叩き潰す。
そのタイミングで当たってしまった西園は、高いモチベーションを持った輝羅の壁を最後まで破れず、タイムアップの時を迎えた。
立見高校のインターハイ全国出場が決まり、選手達は歓喜の輪を作る。
立見2ー0西園
神明寺
古神
マン・オブ・ザ・マッチ
神明寺輝羅
輝羅「インターハイ全国出場〜♪」
星夜「最後の海斗の個人技には驚かされたけどね」
影二「……去年より速いし上手い……後は競り合いが強い……」
輝羅「結構振り回されてたよねー。まぁ、ゴール許さなかったから良し♪」
影二「……次回は、祝勝会……!」
輝羅「めでたい席なら、食べ物期待して良いよねー♪」




