インターハイ東京予選準決勝 立見VS西園6
『両チームの選手達が出て来ました。前半は西園が攻めていましたが、後半も攻めてくるか? それとも立見が反撃か!?』
『立見はシュートを多く許してますからね。後半で流れを変えたい所でしょう』
後半のフィールドに立見、西園の両選手が出揃い、試合再開の準備は整う。
「ヤミー、海斗に張り付いといて。取ったらデュエルに持ち込まず、すぐにパスね」
「分かった……」
後半開始前、輝羅は影二に海斗のマークを伝える。
「1点だ! それだけ取って後は守り切る! 奴は無敵じゃないから攻めまくれ!」
円陣で岩坂はメンバーの皆に攻撃をするようにと、声を荒げていた。
「(岩坂先輩、何か何時もより熱くなってないか……?)」
守護神の声を聞くと、海斗は冷静さを失ってないかと心配になる。
「大丈夫ですか? もう少し冷静になった方が──」
「俺は充分落ち着いている! それより、あのチビGKから得点する事を考えとけ!」
自分は冷静だと伝えた後、岩坂はゴールの方へ向かう。
「(大丈夫か本当に……!?)」
落ち着いているようには見えない。
不安が残る岩坂の様子に、海斗は気になりながらもポジションについた。
ピィ────
『後半開始のキックオフ! この40分で東京代表チームは決まるのか!?』
後半も西園が攻めに出ようと、立見陣内へ選手達が次々と踏み込む。
小池、松石のダブルボランチが繋ぎ、海斗にパスを出そうと目が向く。
「(よし、いない!)」
今ならだのマークも付いていないと、小池はフリーの海斗にボールを送る。
「! 駄目だ!」
自分へパスしようとする味方の姿が見えて、海斗が叫ぶも既に遅かった。
左から来る影二を海斗の視界は捉え、小池の方は存在に気付かないままボールを蹴り、影二がコースに飛び込んでパスをカット。
『社へのパスを通さない闇坂!』
『良い読みとカットですよ。小池君の方は若干、不用意に出してしまいましたかね』
「おい! マーク遅れてるぞ右!!」
立見の左サイド、玉石がフリーになっている姿に気付くと、岩坂は怒号に近い声で叫ぶ。
青松から左サイドへパスを送り、ボールが通ると玉石はドリブルで左のライン際を駆け上がる。
『立見、左サイドから深く切り込んでゴール前! クロスを上げた!』
低いクロスがシュートの勢いで向かうと、速いボールを前に西園DFはカットが出来ない。
奥の星夜が左足で合わせてシュートを狙い、角度が厳しいながらもゴール右上隅に向かっていた。
「くおおっ!」
ビシィッ
枠を捉えたボールがネットを揺らす事はなく、飛びついた岩坂の左掌が弾き飛ばして、CKへと逃れる。
決まると思っていたのか、立見スタンドからは溜息が漏れ、西園スタンドは岩坂の好セーブに盛り上がっていた。
『止めたぁ!! 西園GK岩坂、玉石からのクロスを合わせた古神のシュートを左手一本で弾き飛ばす! これはスーパーセーブだ!』
『かなりの速さでクロスボールを上げましたが、これをダイレクトボレーで合わせるとは……岩坂君のセーブだけでなく古神君の技術の高さにも驚かされますね』
「押してる押してるー! 前半の勢いが無いよ西園ー!」
立見の時間だとばかりに、輝羅は自分達の勢いを加速させようと声を出す。
後半に入って立見の選手を捉えきれなくなり、守備に乱れが出てくる。
流れが前半と比べて変わったのは確かだろう。
更に言うなら、西園の攻撃で相手に迷いが生じてきたのもある。
「(壁を作らないGK相手に、根気良くミドルやロングやって意味あるのか……?)」
「(ボールを相手にあげてるだけの気がしてきた……)」
輝羅が遠めからのシュートを取り続けた事に加え、壁無しのFKを止められたのが、彼らには強烈なインパクトだった。
そのせいで自分達の攻めが通用するのかと、攻撃に迷いが出て精彩を欠くようになってしまい、絶対的な壁を前に心が折れかける。
「(何人か、堕ちたね)」
折られていく心が輝羅には見えて、西園の崩壊が始まった事を確信。
自分の前に理勝達が止めてシュートをさせず、前半と比べてミドルやロングは飛んで来なくなってきた。
『中盤で立見がボールを奪う! 中央から青松が上がって来た!』
海斗を徹底マークする影二によって、司令塔にはパスを通さない。
西園は何人か交代で下がり、新たな選手を入れてボールを回すが、下がった星夜の守備で奪う事に成功。
混戦を抜け出した青松がドリブルで迫る。
「でっ!?」
小池が寄せて競り合いとなり、青松が転倒すると主審の笛が直後に鳴らされた。
『これは西園のファール! 今度は立見がFKのチャンスを取った!』
『位置としては似たような場所で、距離はありますね』
立見のFKは30m程と、西園の時よりも距離は長い。
「(FK……!)」
普段なら壁を作って指示を出している所だが、岩坂は先程の事を思い出す。
「壁をどかす度胸も無さそうだからさ♪」
あの言葉が怒りを蘇らせる。
小さい体で輝羅が壁のいないFKを止めてみせたなら、自分だってやれるはすだ。
「(誰が壁をどかす度胸が無いだと……!?)」
言われた言葉に抗うかの如く、岩坂は自分の前に立つ西園選手達へ向かって叫ぶ。
「どけ! 壁なんか必要無い!」
「え!?」
「お、おい! お前まで何を言い出すんだよ!?」
まさかの輝羅を真似して、岩坂も壁をどかせと指示を出した事に、皆が驚く中で大野が駆け寄る。
「あの距離なら入り難いだろ! 壁でボールが見え難くなる方がやりづらい!」
「いや、けど……!」
「良いから壁は立つな! 他のマークをしとけ!」
反対する大野を押し切り、岩坂の指示で西園は誰も壁に立たない。
『これは……西園も壁を作らない!? 立見が行った壁無しのFKで止める気か!?』
異様な光景が再現されて、ざわめきがスタンドから起こり初めていた。
それを加速させるかのように、立見ゴールに立っていた輝羅が西園ゴールに向かって走る。
『輝羅君も上がって来ましたよ!? まさか、此処で直接狙うつもりですか!?』
『なんと!? GKの神明寺も上がって、どうなっているんだ今日の準決勝は!?』
「大丈夫なのか輝羅。相手は関東随一のキーパーだぞ」
「流石に今回は簡単に行かないだろ。下がった方が良い」
高良川と柿田は、輝羅が公式戦でFKを決めたを知っているが、今日の岩坂が相手では取られるかもしれない。
「行けますよ。それか2人、あれ蹴ります?」
輝羅には2人の心理状態が分かる。
一度も経験していない壁が不在のFKを前に、どう蹴れば良いのか迷っていた。
そんな状態で30mの遠い距離から狙っても、岩坂に取られて終わるだろうと。
「ま、とにかく任せてくださいって♪」
「そこまで言うなら、任せるよ」
輝羅の明るい笑顔に自信があるように見えて、高良川は後輩へ託してボールから離れていく。
『蹴るのはGKの神明寺輝羅! 片方は壁無しと、守護神によるノーガードの殴り合いか!?』
「(目立ちたがりのガキが……! プレミアリーグで直接決めて味を占めたんだろ? こんな距離でお前に決めさせる訳ねぇ!!)」
岩坂はボールの前に立つ輝羅を睨みつけ、絶対に止めてやろうと怒りのオーラを漂わせる。
その輝羅は西園ゴールを見据え、彼の顔に笑みは消えていた。
味方や敵の声も、スタンドからの声援も、完全な集中に入って目を閉じる輝羅の耳には届かず、極限まで高めていく。
「っせぇ!!」
目を開いた瞬間、輝羅は助走から右足のインステップキックでゴールへ飛ばす。
ボールの芯を捉えて、矢のような勢いで西園ゴール左上隅に向かう。
「うおお!?」
岩坂が反応すると勢い良くボールに向かって飛びつき、右腕を懸命に伸ばした。
その時、手元まで来た球が揺れ動いたかと思えば、ストンと右下に落ちる。
全く回転していない球が無回転で飛び、完全に読む事が不可能な動きを見せた後、中央のゴールネットにドスンとボールが突き刺さった。
『き……決まったぁぁぁ!? GK神明寺輝羅、30mはあろうFKを直接ゴールだ!!』
『無回転でしたよね今の!? 魔球のような動きをしてましたよ!?』
高校サッカーの予選で、驚異のゴールが決まるとスタンドからは敵味方問わずに大歓声が発生して、鳴り止む事が無い。
「上手く行ったー!!」
GKの岩坂が呆然となって倒れ込む一方で、輝羅は得点をチームメイトと共に喜び合い、立見のスタンドに駆け寄っていく。
守護神同士の直接対決で、ついに均衡が崩れた。
星夜「向こうのGK、かなり荒れてるように見えたけど……何かあったよね」
影二「輝羅……隣に居なかった……?」
輝羅「知らないな〜。とりあえず、守護神が取り乱したらチームは終わりっていうのが分かりやすく表れたねー」
星夜「(多分何か言ったよ)」
影二「(……他に考えられないよね……)」
輝羅「(バレてるよ君達?)ほらほら、ヤミー」
影二「あ……次回、海斗が意地の反撃に出る……」
輝羅「鍛えちゃったから精神的にもタフだね〜」




