インターハイ東京予選準決勝 立見VS西園5
『これは……!? 立見、壁を作りません!』
『完全にガラ空きですよ!? いや、そういえば輝羅君は中学時代にも壁を作らずFKを止めて、カウンターで1点をもぎ取ってましたね……』
『なるほど、まさかその再現を狙っているのでしょうか!?』
立見が壁を作らない奇妙な光景に、観客や両校の応援団からもどよめきが起こっている。
「あいつ、また此処でやるのか……相当な自信を持ってるんだな」
「全国大会でやって止めてたよね〜。実績無かったら問答無用で壁は立ってそうだよ〜」
竜斗も影丸も、彼のこういった事を見るのは初めてではない。
見守る彼らは輝羅が止めてくれるのを願うだけだ。
「(そういえば……中学の全国大会で準決勝の名西寺戦にあれを演ったんだったか)」
去年の輝羅については調べ、以前にも今のように壁を置かなかった事を岩坂は知っている。
そこで彼は見事にストップさせていた。
「(高校でも同じように止める気なら、甘くないからな……!)」
自身が立つゴール前から、岩坂は壁をどける輝羅の姿を睨むように見ていた。
「あのチビガキ、こっちのキックなら空けても入らないって舐めてんのか……!?」
壁を作らないでゴールが空いている光景に、和泉は立見の小さな守護神が侮辱してると思って睨みつける。
その表情は怒りに染まっていた。
「和泉さん、冷静になりましょう。此処で乱したら向こうの思う壺ですよ」
異様な光景を前にしても海斗は冷静さを保ち、頭にきてそうな様子の和泉を落ち着かせる。
今の状況は誰が見ても、西園がFKを獲得して得点チャンスとなり、立見は自分からゴールの可能性を広げた。
そのはずだが、キッカーの位置に立つと自分が有利とは海斗には思えない。
「(有利なはずなのに、この空気は何なんだ……?)」
ゴールを守る輝羅を中心に渦巻く、青白いオーラ。
ガラ空きなはずのゴールマウスを前にして、海斗の頭は得点を思い描く事が出来ずにいた。
「(いや、飲まれるな! 落ち着け……大丈夫だ)」
段々と迷いが生じてくれば首を横に振り、己に言い聞かせる。
迷ったら輝羅に取られてしまうと。
その場で深呼吸をしてから、海斗は改めてゴールに立つ小さな守護神と向き合う。
「(必死に落ち着こうとしてるけど──心の中が全部見えてるよ)」
全てが心を読む輝羅の前では筒抜け。
冷静になろうと自分自身に言い聞かせたり、何処のコースを狙えば反応し難いのか、目の前にいる海斗はセットされたボールの前で考えている。
考えている事が全て聞かれ、バレている事など夢にも思っていないはず。
「(やっぱり、セットプレーの時は皆あれこれ考えるよね。僕としては止めやすくて助かる)」
試合が止まらず進んでいる時は、流石に一人一人の心を呑気に読む暇は無いが、こういうセットプレーなら話は別だ。
どうやってゴールを奪おうか、または守ろうか、大半が考える事は共通している。
相手の心理状態を全て掌握し、相手の攻撃を確実に止めるのが輝羅だけでなく与一、そして弥一達サイキッカーのやり方。
「(流石に前半、もうそこまで時間は無いしアディショナルタイムも短い。カウンターは無理か)」
残り時間の計算を終えてから、輝羅はFKを止める事に集中力を高めた。
『壁を作らない立見に対して、西園のキッカーは1年の社海斗が務める!』
『これは逆にどう蹴るか悩みますね……壁を超える必要が無いなら、曲げたり落とす必要もありませんから。互いに心理戦が展開されてそうですよ』
未だにざわつくスタンドをよそに、海斗は助走の為にボールから離れると、そこからダッシュを開始。
勢いをつけてから右足を振り抜き、弾丸のような速さで低空飛行のまま、ゴール左下隅に向かう。
曲げたり落としたりはせず、直線でスピード重視のキックで、GKの苦手とするコースへ飛んでいた。
バシィンッ
「!?」
FKを蹴った海斗の目が見開かれる。
感触は悪くなくて、コースもほぼ完璧なはずだった。
それを輝羅は低い横っ跳びでシュートコースに飛び込むと、腕を伸ばす事なく正面でボールを掴み取る。
『止めたぁぁ!! 社の弾丸FKを立見GK神明寺がダイビングキャッチ! なんという守護神だ!?』
『相当な勢いがあったはずですが、ファンブルせず完璧にキャッチ出来てますね。これはスーパーセーブ間違いありません!』
スタンドから驚きの声が飛び交う中、前半終了の笛が鳴らされる。
「……!」
FKを止められて驚く海斗以上に、岩坂も輝羅のセーブが見えると驚愕してしまう。
今のキックは自分でも止めるのが難しいと感じ、何故そんな事が出来るんだと。
彼の心は信じられない気持ちで埋め尽くされていた。
『神明寺が止めた所で前半終了! 立見と西園の準決勝は0ー0と、シュート数では西園が上回った前半でした』
『良い流れの内に得点出来なかったのが後半、響かなければ良いのですが』
「どうなってんだ? 神明寺弥一の息子ってだけで、あそこまでやるもんなのかよ」
西園のロッカールームで、和泉は椅子に腰掛けて休みながらも、輝羅のセーブが頭に焼き付いて離れない。
彼が小さな巨人の息子で、天賦の才がある事は確実だろうが、それでも強過ぎる。
「遠めからのシュート、効果無いんじゃないか……?」
「DFの裏に抜けて一対一に持ち込むか、PKぐらい?」
「PKもあいつ11人全部止めてるだろ。何なんだあいつは……!」
西園イレブン達で輝羅のプレーに驚く者が大半。
どうやったら彼を中心とする立見の牙城を崩せるのか、皆が頭を悩ませていた。
「落ち着け!」
そこへ西園の監督から一喝される。
「作戦は変えるな。確かに凄いが、彼とて人間だ。何度も諦めずにシュートを続ければ何処かでボールを零す。折れたら負けだぞ!」
ミドルやロングシュートは変わらず実行させて、作戦の変更は無い。
サッカーは何が起こるか分からないので、彼がボールを取れずに弾く可能性はあるだろうと。
「(こっちが押していたはずなのに、こうも皆をFKのセーブ1つで動揺させるか)」
監督からの一喝があるまで、チーム内を動揺させていた輝羅のプレー。
同じGKの岩坂は腕を組んで目を閉じる。
「(もしかしたら、PK戦まで行くかもしれないな。そうなったら俺と奴の戦いか……)」
立見に1点もやるつもりはなく、彼の方も許さないだろう。
そうなればスコアレスのまま、PK戦へ突入となる。
「望むところだ……!」
PKストッパーとしても規格外なのは分かっていて、岩坂は目を開くと一番にロッカールームを出ていく。
「あ」
「!」
通路を岩坂が歩いていると、輝羅もロッカールームから出て来て、顔を合わせる。
岩坂は一瞬視線を向けたが、すぐに前を向いて歩き出す。
「PK戦になる前、決着つけに来た方が良いよ」
「……何?」
先程、まさに思っていた岩坂は輝羅の言葉を受けて、隣を歩く彼に目が向いた。
「あんたPK苦手そうで壁をどかす度胸も無さそうだからさ♪」
「!」
目が合った輝羅は笑顔で挑発のような言葉を言った後、岩坂の足が止まる。
この時、岩坂の体は小さく震えると同時に額辺りから血管が浮き立つ。
「(小僧……!!)」
明らかに表情が怒りへと変わり、今にも殴りかかりそうな雰囲気を纏わせ、先を行く輝羅を睨みつける。
「(ちょろい人だねぇ)」
背中に感じる視線と怒りに、輝羅はニヤリと笑みを浮かべた。
自分へのライバル心を利用して強く刺激させ、心を揺さぶりにかかる心理戦。
後半開始前の通路で行われた事は、誰も気付かない……。
輝羅「GKは目立つものじゃない。出番無く試合を終わらせるのが一番……とは程遠いねー」
理勝「思いっきりセンターでスポットライト浴びてんじゃねぇか。目立ちたがりの小僧が」
星夜「どう見ても皆からそう見えてしまうよ」
輝羅「まぁ、それだけ相手が攻め込んできて強いんだよー」
影二「……確かに西園は強い……次回は後半戦……!」
輝羅「崩すなら守護神からってね?」




