拘る者達
インターハイの東京予選も準々決勝まで進む。
東京のベスト8が集い、勝って準決勝へ進めば、東京代表の座が手の届く所まで行ける。
立見の相手は音村学院となり、GKを除く10人が積極的に動き回る、フリーランニングのサッカーが持ち味。
「音村学院は東京で1、2を争う攻撃力を持つと言われて、今回の予選でもチームトップのゴールを決めています」
立見選手達が集まるロッカールームにて、ミーティングが行われると彼らの前で理彩は情報を伝えていた。
「うちと同じ5試合を戦って35点と、毎回派手に勝ってる。オランダのトータルフットボールを参考に、攻撃サッカーを貫く事から、この試合も攻めまくってくるだろうな」
理彩の隣で付け足すように、間宮が当時の記憶と照らし合わせながら話す。
間宮の高校時代に戦った事があって、当時から音村の攻撃的な姿勢は変わっていないようだ。
「特に音村のエース、姫島時生が荒稼ぎしていて大会得点ランキング2位にいます」
理彩から相手のエースについて聞かされ、今日のマークする選手を皆が把握。
「うちも攻撃的なサッカーをやってるから、これは撃ち合いになるかもしれないな」
音村のような派手な勝ち方は初戦を除けば立見もしていて、攻撃サッカーで多くの得点を重ねている。
高良川は攻撃的なスタイル同士が激突すれば、そうなる可能性が高いと考えた。
「そうだな。どっちが今回は多くの得点を重ねられるか──」
同じように柿田も音村とは、点の取り合いになると言いかけた時。
「撃ち合いになんかなりませんよ」
そこへ口を挟んで来たのは、チームの数少ない1年である輝羅。
「こっちが多くゴールを重ねて、向こうは1点も取れない……というか取らせませんから」
音村学院のゴール数など関係無いとばかりに、今回の試合も完封で終わらせると言い切っていた。
そこからは狂気の片鱗が見え隠れする程に。
「皆だって失点があるのと無いのじゃ、無い方が良いでしょー?」
「そりゃまぁ……うん」
輝羅の勢いに押される形で、3バックの一角を務める木村は後輩の言葉に対して、首を縦に振る。
失点にメリットなど存在しないと。
「とにかく僕達、守備陣が0に抑えれば負けなんかあり得ないですから。さ、今日も頑張って行きましょ♪」
さっきまでの纏っていた狂気が嘘のように引いて、輝羅は何時もの笑みを見せた。
「(あいつ……親父以上に拘ってねぇか?)」
狂気を抱く程に完封へ拘っているように見える。
それは間宮のよく知る後輩を凌ぐかもしれないと。
ピィ────
準々決勝の試合が始まると、音村学院の選手達は縦横無尽にフィールドを駆け回っていく。
音村学院の持ち味は、オランダのトータルフットボールを参考に皆が動き回り、全員攻撃と全員守備を行う。
その分、スタミナは求められるが。
「(うじゃうじゃと動き回りやがるな!?)」
理勝の目に映るのは、音村の選手達がフィールド全体を走る光景。
左サイドから音村ゴール前まで玉石が迫るも、ライン際で取り囲まれてしまい、あえなくボールを奪われる。
そこから一転して攻撃に出ると、先程まで守備に回っていた相手は、皆が立見ゴールを目指して前進を開始。
「もっと寄せていけ!」
高良川が叫ぶと共に立見選手がプレスをかけていく。
音村はショートパスで押し寄せるプレスを躱し、ゴール前まで迫ると理勝が詰め寄る前にシュートを撃たれる。
バシッ
厳しいコースではなかった為、輝羅は正面でキャッチした。
「(今のはDFか。本当に全員攻撃だね!)」
シュートしてきた相手がDFと分かり、改めて攻撃的なチームだと理解した所で、輝羅のパントキックが蹴られる。
高く上がった球が長身の柿田へ向かうと、相手選手との空中戦で競り合い、零れ球が芝生の上を転がっていく。
それを素早く拾ったのは音村で、再び立見ゴールへ向けての攻めを開始。
「左行くよー!」
左からの突破を相手が狙ってくると輝羅からのコーチング。
玉石が迫った時、ワンツーで躱されてサイドからの突破を許してしまう。
此処まで無失点で来ている立見の守備が乱れていく。
「(これ抜けるだろ!)」
その時、音村のエース姫島は裏へ抜けられると直感が伝わり、スルーパスが出されると共に走る。
3バックの裏へ抜け出せば、味方から出たボールが飛んできて、線審の旗は上がらない。
これに追いつけばチャンスだと、姫島が考えていた時──。
「(抜けないよー!)」
「!?」
何時の間にかゴールから飛び出して、スルーパスに迫っていた輝羅がボールに追いつき、左足でクリアする。
通ればGKと一対一のボールを恐れる事なく、前に出て立見のピンチを凌ぐ。
「(あっという間に此処までまで来るのかよ……小さい分、身軽そうだからスピードはあるんだろうな)」
スルーパスを防がれて得点を逃した姫島は、相手が積極的な飛び出しが得意なんだと理解。
「(けど、あんなチビでリーチは短いはず。外からコースを狙って蹴れば届かないだろ)」
弱点は150cm程度の低い身長。
試合に出ている誰よりも小さいと、攻略法の出来た姫島は次の攻撃に備える。
「(人の考えは色々異なるって言うけど、僕に対して考える事は大抵同じだな……)」
GKとしては低い身長で、向かないと言う者も居た。
これでゴールを奪えるだろうと、自分から得点を奪おうとする連中を全て捻じ伏せてきた。
当たり前の常識に抗い、覆すように。
「(リーチ短ければ守れないって、誰が決めた?)」
GKは大柄でなければ守れない。
数々の名手がサッカーの歴史上に居て、いずれも自分より大きい選手ばかり。
歴史が物語ってようが輝羅は抗い、あらゆる相手に得点を許さない。
格上や格下を問わず、全てを完封で終わらせる事が最強への証明だと信じて。
「(それでゴールを奪えるって言うなら蹴って来いよ。何十本でも全部止めてやるからさ)」
得点を狙おうと企む姫島を真っ直ぐ見据え、輝羅は不敵に笑っていた。
「右、フォロー入ってー!」
音村が先程とは反対のサイドから攻め込み、輝羅の指示を聞いた青松が風野と共に、相手選手を追い詰めに行く。
サイドからの攻めが厳しいと判断したか、中央へ折り返すとボールを受けたのはエース姫島。
わざわざ中盤の位置まで下がり、輝羅の守る立見ゴールを見据える。
「(もらったぜチビ!)」
姫島はノーマークの状態。
人が迫る前に得意の右足を振り抜き、勢いあるシュートがゴール左上隅に飛ぶ。
蹴った時の感触が良く、ゴールを奪う時の感覚だと姫島は自分の得点を確信していた。
バシィィッ
「!?」
GKにとって厳しいコースのはずなのに、輝羅は地を蹴って迫るシュートへ飛びつき、両手でボールを掴み取る。
あんな完璧にセーブされるとは思わなかったのか、姫島は驚愕してしまう。
「音村の攻撃にビビる必要無いよー! 全然完封行ける相手だからさー!」
シュートを防いだ輝羅は押されている立見選手達に声を掛け、勢いよくボールを右手で放り投げる。
攻撃力の高いチームに、小柄な守護神はゴールへ鍵をかけていた。
間宮「相変わらずあいつら、トータルフットボールに拘ってんだなぁ」
輝羅「昔からそうなんですかー?」
間宮「ああ、流石に当時より磨かれてるみたいだけどな」
影二「……オランダ、大好きなんですね……」
間宮「それは聞いてねぇけど、嫌いって事は無いだろうよ」
影二「……次回、怒涛の攻撃を凌ぎ続ける……!」
輝羅「つまり僕の出番が多いねー♪」




