男女の快進撃
「(たっか!?)」
ゴール前でクリアしようと、跳躍した女子選手の目に驚愕の光景が映る。
自分よりも頭1つ分、高く舞う女神は何者にも止められる事なく、頭でボールを捉えるとゴール左に飛ばす。
GKが伸ばした手も届くことなく、ゴールネットを揺らしてみせた。
立見女子サッカー部のインターハイ予選。
2年エースである六峰千里のゴールによって、更に点差をつけていた。
「千里ー! 絶好調じゃん!」
「なんか春から凄く調子良いんだよねー」
チームメイト達が駆け寄って千里のゴールを祝福すると、決めた本人は明るい笑顔を浮かべる。
周りから見れば去年の1年生の時点で、彼女は天才ストライカーと呼ばれ、頭角を現していた。
それが今年に入れば千里の実力は更に増して、特に春から沢山声を出すようになり、コーチングを怠らなくなる。
「絶対にあのちっちゃい子が関係してるよね?」
「間違いないでしょ。いっつも部活終われば2人で一緒に帰って、デートみたいな感じにしか見えなかったから」
「それもう付き合ってるでしょ2人!?」
ベンチでは控えの立見女子選手達が、部活終わりの千里について皆で話せば、仲の良い男子と付き合ってる恋愛話で盛り上がっていた。
「神明寺輝羅君。普段可愛いけど、ゴールを守る時は格好良さを感じるんだよね」
「私は彼がお弁当食べる所を見て、凄く美味しそうに食べて可愛いって思っちゃったなぁ」
「そう思うと、輝羅君と一緒にいる千里が羨ましくなってきたかも……」
女子達から見れば輝羅の事は良いなと見ていて、隙あらば狙ってしまおうかと思う者も居る。
「はいはいはい! こっから気を抜かずにドンドン行くよー!」
差を広げてもチームが気を抜かないように、手を叩いて千里は味方選手に声を掛け続けていた。
女子の立見サッカー部は、このまま相手を寄せ付ける事なく7ー0で完勝。
☆
女子サッカー部に負けじと男子の立見サッカー部も、インターハイの2次トーナメントの2回戦を迎える。
相手は堅守で知られる北村高校。
此処まで僅か失点1で勝ち上がり、守備においては都内で屈指を誇る強豪チーム。
「左フリー!」
それでも関係なく、今日もスタメンで立見のゴールマウスを守る輝羅は、左から上がって来る相手見えて指示を出す。
「ストップ! ディレイ!」
簡潔に分かりやすく声で伝え、北村の攻撃陣は思うように立見ゴール前へ攻め込めない。
「オラッ!」
中央からドリブルを仕掛ける相手に、理勝は激しく体をぶつけ、強引にボールを奪い取った。
相手は倒されるが笛は無いまま、奪った球を右足で強く蹴り出す。
「カウンター!」
前線から様子を見ていた高良川の口から、速攻の合図が出た後に攻撃陣だけでなく、理勝も前へ上がって北村ゴール前に走る。
「マーク! 18番!」
相手GKから星夜を警戒するように、指示が出て1人が張り付いた。
此処までルーキーながら、彼が得点を多く重ねている事は相手も調べて把握済み。
立見の3トップを絶対フリーにさせるかと、堅守を誇る北村の守備陣はゴール前を固めていく。
「(滅茶苦茶ゴール前に人集まってんなぁ……!)」
左サイドでボールを持つ玉石は、北村ゴール前が大勢の選手で密集地帯となり、クロスを上げる事に躊躇してしまう。
「うおっ!?」
そこに相手からの足が出て、キープしていた球を弾かれると、北村選手の方が先に拾ってクリア。
立見の攻撃を凌いで粘り続ける。
「俺が高校生の頃から戦い方を変えてねぇな北村は」
「あそこって昔から堅守が持ち味で、それを伝統にしてますよね」
立見ベンチでは間宮と川田が昔を懐かしむように、北村のサッカーを見ていた。
2人が部員だった頃、今戦っている高校と試合をした事があって、その頃から守備重視のスタイルは変わっていない。
「立見は変わりましたけどね。昔はシステムと言えば4ー5ー1の4バックが当たり前だったのが、今は3バックが主流になってますから」
同じく部員として共に戦った翔馬も、立見の昔を振り返る。
「そこは弥一が大きく影響してるだろ。立見の方で第2の凄腕リベロを作ろうと、それで取り入れてんだ」
「弥一は別次元だけどね……」
翔馬、川田の2人が思い出すのは小さな頼れるDF。
彼がいなければ、立見が此処までにはなっていなかった事だろう。
「昔話ばっかに花咲かせてんじゃねぇ。交代の指示を伝えて来い」
「あ、はい……!」
間宮からの注意を受けた後、川田は控え選手に交代の指示を伝える。
北村の堅守は厄介だが、何時までも止まっている訳にはいかない。
そろそろ点が欲しい所だ。
「(堅守が自慢のチームだから、要注意の選手を見逃さないなぁ〜)」
初戦で前川と試合をした時のように、点の中々入らない時間帯が続き、ゴール前から輝羅は相手守備陣を見ていた。
オーバーラップを仕掛ける理勝にもマークは欠かさず、彼へのパスを封じる。
「(じゃ、注意してない方に活躍してもらおうか)」
小さな守護神の目は1人の選手に向く。
「攻めろ右!」
北村は立見の攻撃を凌ぎ続けているが、時間内に点を取らなければと必死だった。
それは監督が前に出て、攻撃の指示を送っている姿を見れば明らかである。
「(神明寺輝羅は11人連続PKセーブをしてる化け物! あんなのとPK戦なんか出来ない!)」
普段ならスコアレスが長引いても焦りはしないが、今回に関しては別だ。
立見のGKである輝羅はPKストッパーとして、北村高校の間では知れ渡っている。
彼を相手にPK戦となれば、勝率は限りなく低い物となってしまう。
ボールを持った北村は、ゴールを奪おうとロングレンジからシュートを放ち、飛ばされた球が立見ゴールの枠内を捉えた。
「(焦ったね!)」
向かって来るシュートに、輝羅は正面でキャッチして受け止める。
早くゴールを奪わなければと焦った彼らの心は伝わり、結果として甘いボールになっていた。
「カウンター!!」
輝羅が叫ぶと共に右足のパントキックで蹴り出すと、ボールは低空飛行の弾丸パスと化して向かう。
「!」
立見以前から桜見でサッカーマシンの高速ボールに鍛えられ、速いパスに慣れてる影二は右足で受ける。
堅い守備を誇る北村の包囲網を掻い潜り、影の薄い影二は何時の間にか敵陣深く攻め込む。
「(何時から居たんだこいつは!?)」
彼の存在に今気付くと、北村の選手が止めに向かう。
この時、予期せぬ影二の攻撃参加に堅守は乱れていた。
「(中央……空いてる……!)」
左足で北村ゴール前にパスを送ると、スペースに走り込む高良川の姿が見えて、影二からのボールが通る。
そこから振り向きざまに右足のシュートでゴールを狙い、北村GKが伸ばす両手も届かず、ゴールネットは揺らされた。
「ヤミー、良いぞー♪」
ゴールを決めた高良川に駆け寄る中、真っ先に輝羅は影二に声をかける。
彼のおかげで北村の守備を崩せたと、それを他の選手も分かってるようで、影二の周りにも多くの選手達が集まって祝福。
そこから立見の流れへ一気に傾き、ゴールを狙うしかない北村の隙を突いて、速攻が決まるようになっていく。
追加点を重ね、勝利を確実な物とする。
立見の男女共にインターハイ予選で快進撃を続け、東京での注目度は高まっていた。
立見3ー0北村
高良川
古神
牙崎
マン・オブ・ザ・マッチ
闇坂影二
影二「……珍しく目立てた……」
星夜「先制ゴールに繋げてくれたからね。働きは大きかったんじゃないかな」
輝羅「というか女子サッカー部が得点を結構重ねるね〜」
星夜「確かに取ってるゴール数が多いよ。選手達が好調の上に戦術が上手く噛み合ってるのかもね」
影二「……このまま揃って勝ち上がりたい……次回は相手選手の偵察が入る……!」
輝羅「そりゃ強豪チームだから、調べに来るだろうねー」




