英国の地でインパクトを与える
「凄い……!!」
FCジェントのベンチで試合を見守るセランだけでなく、皆が驚いて彼の姿に釘付けとなる。
2点目を決めた時のスーパーゴールから、与一を皆が強く警戒するようになったのか、オーバーラップして来ないか注意が向く。
ただ、それがノアを自由にさせてしまい、マークで捕まえきれず彼がボールに触れる機会は多くなる。
明らかに与一のゴールから、流れが一気に傾いていた。
「ノアと日々1on1をやっていて凄いのは知っていたけど、此処までやるのか」
「あんなチビで……あり得ない」
見守る控え選手達は揃って驚き、与一の凄さを改めて知る。
「(体は小さいけど、動きが鋭く速い……何回か相手のパスをカットして、相手のチャンスになるような攻撃を潰してる……)」
セランから見れば与一のプレースピードが速いのは勿論、それに加えて先を読むように、相手のパスをインターセプトする姿が目立つ。
更に相手とのデュエルをよく見れば、体格の良い選手との激突を避けて、上手くボールを奪い取る体捌き。
あんな動きは普段の練習で身に付かない。
「(俺との1on1の日々、負けてばかりだけど自分の強さにしてるじゃないか)」
ノアは与一が自分と張り合えるぐらいの力を持つ為、彼を相手に練習を積み重ねてきた。
一対一の勝負ではノアに敵わない事が多いものの、日に日に突破しづらくなって、ついに彼からボールを一度奪い取られてしまう。
「(ひょっとして、俺は日本にとんでもない塩を送ったのかもな)」
与一の成長には神の子も驚く程で、このまま行くと未来が凄い事になるのかもしれない。
そんな予感が伝わりながらも、ノアは試合へと戻る。
「8番囲んでー! そこ危ないよー!」
与一からの指示が飛ぶと、中央からドリブルで迫る相手を早めに取り囲む。
ボールを奪い取り、相手に攻撃をさせず守備へと追い込んでいく。
「(ヨイチが入って、こうも守備が安定してくるのか……)」
「(さっきまでシュートを多く許していたのが嘘みたいだ……)」
共にFCジェントのゴールを守るジュリアン、アーサーは自軍の守備が落ち着き、劇的にシュートが減った事に揃って驚いた。
1人の小さなDFが入って、彼がコーチングを始めるだけで、こうも変わるものなのかと。
「(左はデコイ! 本命は右!)」
与一は相手の心を読み続け、敵の戦法を見抜けば密かに動いたり指示を送ったりと、相手がゴール前まで攻め込んでくるのを許さない。
ドルマFCは何故読まれ続けているんだと、内心困惑してしまう。
「っ……!」
サイドに振ってDFへ揺さぶりをかけようとするも、FCジェントの守備陣は惑わされる事なく対応。
逆にライン際で囲まれて攻撃を阻止される。
「なんだよもう!」
相手の方は防がれ続け、苛立ち始めていた。
「はい、こっちー!」
注意する目を掻い潜ると、与一は走りながら右サイドをドリブルで進む選手にパスを要求。
追加点によって信頼を勝ち取ったせいか、右SHからボールが送られる。
そこに相手選手が迫りくる前に与一は右足で蹴って、前を走るノアにボールを飛ばした。
「(良いボールだ!)」
ノートラップで送ったボールは、パスとは思えない速度で前線へ低い弾道で向かうと、ノアが与一の送ったパスのルートを読んで右足で受け取る。
神の子がドリブルに入った時、ドルマFCの選手2人が目の前に立ち塞がるも、彼のドリブルとスピードを前に止められない。
シュートコースが空いた刹那、ノアの右足が振り抜かれてゴール左上隅にボールは突き刺さっていた。
「ハットトリックー! さっすが神の子ー♪」
これで5ー0となって、ノアは1人で3点を叩き出す活躍。
神の子による無双に与一は称える声を送った。
「ヤベェだろノアの奴……」
「こっちに来たばかりで、もう中心かよ……神の子は伊達じゃねぇや」
ベンチのFCジェントメンバーが密かに話し、皆がノアの強さに注目。
一方、セランだけは違う人物に目を向ける。
「(確かにノアは凄かったけど、そうさせたのは彼の働き……)」
途中から入った与一がチームを変えて、良い流れへ導いたのだと、見守る彼には見えていた。
「(畜生!!)」
ドルマFCのFWは一矢報いようと、未だ得点が奪えてないゴールに向かって走る。
このままでは引き下がれない、自分の力を証明する為に1点を狙う。
彼の意思へ応えるかのようにパスが送られた。
「(読みやすいねー!)」
最後の望みを断ち切るインターセプト。
ゴール前に出たパスを与一は相手へ渡る前に、左足で受け止める。
相手の意地のゴールも決めさせず、完封勝利を目指して左足でボールを蹴り上げた。
ロンドンの空を与一のクリアで球が高く舞った瞬間、主審は試合終了の笛を鳴らす。
「やるじゃないかヨイチ!」
「良いプレーだ!」
「あはは〜、見直してくれたかな〜?」
チームメイトは与一に駆け寄り、皆が良い流れを作ってくれたのは、小さな日本人選手だと理解していた。
「何時もより相当、守備が楽に思えた。ドルマFCを相手に圧倒とはな」
「そこはほら、神の子による働きがあったからさー」
ジュリアンも与一の投入によって安定の守備が出来たと、彼の働きを労う。
本人がノアの活躍だと言った時、彼は近づいてくる。
「目の肥えたサポーターはそう思って無さそうだぞ」
スタンドを見ろとノアが目で促すと、与一はサポーターの方へ目を向ける。
「ヨイチー! 小さい体で凄いじゃないかー!」
「その調子で次も頼むぞー!」
「早く親父と同じプロになれー!」
サッカーの母国で高レベルの試合を沢山見てきた人々も、今日の試合で与一を受け入れていた。
人種は関係なく、活躍した者が光り輝く。
それがサッカーだ。
「チアーズ! (ありがとう)」
与一はスタンドの声援に笑顔で手を振って応え、イギリスで大きな一歩を踏み出す。
FCジェント5ー0ドルマFC
ノア3
神明寺1
ジュリアン1
マン・オブ・ザ・マッチ
ノア・ローレンス
☆
「ふ〜」
試合を見終わった神明寺家では、輝羅がスマホの画面から目を離し、一息ついていた。
「与一兄ちゃん活躍してたよー!」
兄の試合を見た優人は活躍が嬉しかったのか、高揚した気分が今も落ち着かない。
「してたね。攻め込まれて、ピンチだったチームを立ち直らせてたし。今日の王様と言っても良いかも」
興奮する弟の言葉に同意して、輝羅は頭の中で試合を振り返る。
相手同じ名門クラブにも関わらず、与一は以前よりもキレの増した動きで、相手に何もさせなかった。
FCジェントが与一の登場から、押されていたのが嘘のように相手を押し込むようになる。
あれを見て多分、彼が相手の心を読んで見抜きまくったんだろうと、双子にして同じサイキッカーの輝羅は読む。
「僕も負けられなくなってきたじゃん──」
もたついていたら追い抜かれるかもしれない。
双子の相棒から良い刺激をもらえば、この先の公式線は益々負けられないと、想いが強くなる。
プレミアリーグの優勝、インターハイの優勝を目指そうと。
与一「久しぶりに暴れたなぁ〜」
輝羅「すんごい晴れ晴れした顔だよー」
与一「ま、とりあえず僕はイギリスで元気にやってるっていうのを見せたかったからさー」
輝羅「充分に元気なのは伝わったよ。お腹いっぱいなぐらいに」
与一「その言い方だと僕の出番もう無くない!?」
輝羅「考え過ぎだってー。次回もお楽しみに♪」
与一「ちゃんと僕の出番ありますよーに!」




