英国に残ったサイキッカーの挑戦
FCジェントの相手は同じ名門のサッカークラブである、ドルマFC。
こちらも優秀な選手を多く抱える強豪チームと言われるが、それを全て無にするかのように、ノアは先制ゴールを決めてみせる。
見に来ていたサポーター達は、皆が彼のスーパーゴールに夢中となって、早くも神の子が会場を自分の色に染め上げていた。
「上の世代に行っても変わらず無双してくるなぁ、ノアは」
「何時もながら彼のレベルは次元の違いを感じさせるよ。15歳とは思えない」
FCジェントのベンチに座って出番を待つ与一は、隣に座る同じ控えのセランと話しながら試合を見ている。
「それについては対峙してて、嫌って程に感じたね。何回1on1で負けたのか、もう覚えきれないよ〜」
ノアに付き合って彼とは練習を多く重ね続け、数え切れないぐらい壁に跳ね返されてきた。
それでも、彼を超えられなければ父親を超えられないと、必死に何度も食らいつく日々。
日本では輝羅が立見高校で活躍をし始めたと聞き、与一の中で自分も負けられない想いが増していく。
「流石に相手も1流だから、そこまで何度もやらせはしないねー」
「2人ぐらいマークをつけたみたいだ……」
先制ゴールを決めたノアに対して、ドルマFCの方は彼へのマークを強めている。
1人ではなく複数で止める組織の守備により、上手く止める辺りは名門クラブの名に恥じない。
それは攻撃にも現れ、左サイドから抉るようにドリブルで突破してきた。
「あ……!」
同点のピンチが迫っているとなって、思わず見守るセランの口から声が発せられる。
左からクロスを上げると見せかけ、キックフェイントで相手を躱した後、FCジェントのボックス内へ侵入。
右足のシュートが近距離で飛ばされるも、ゴールを守るアーサーが体で止めて、コーナーへ逃れていた。
「今のはジュリアン上手いねー。素早く寄せてシュートコースを絞らせていたからー」
与一はジュリアンの寄せを見逃さない。
彼がシュートを狙う選手に体を寄せてきたおかげで、アーサーの方も的を絞りやすく、シュートを止める事が出来た。
「キックフェイントで躱した直後に来たから、相手も多分焦ってたかもしれない」
「あ〜、それはもうあたふたしてたと思うねー♪」
セランと違って与一には相手の心が見える。
ドリブルを仕掛けた選手は単独突破が上手くいき、抜けたかと思えばジュリアンが寄せてきて、シュートコースを限定されてしまう。
甘いコースに飛んだシュートをアーサーが止めたりと、今の彼の心は同点に追いつくにはどうするか、その、考えで頭を埋め尽くしている状態だ。
「(3人ともちゃんと活躍してるなぁ〜……)」
与一は3人の輝く姿を見て、自分の出番が早く巡って来ないかと願っていた。
自分の同年代が皆活躍してるのに比べ、自分だけ何も出来てない不安が生まれてくる。
監督の様子を見たりするが、今の所は自分どころか他の者の交代も考えていない。
このまま何事もなく試合が進むかと思った時──。
「がぁっ!」
ピィ────
FCジェントのゴール前でファールが起こると、主審が笛を吹いて相手側の反則をとる。
空中で激しく交錯したCBの選手は起き上がれず、担架で運ばれるてからチームのスタッフ達が駆けつけてきた。
「駄目か……!?」
これ以上の出場は無理だと分かり、ベンチは交代選手の準備に追われてしまう。
「ヨイチ」
「!」
監督の目がベンチに座る小柄なDFへ向けられた。
この時、彼には相手の心が見えていたせいか、早くも笑みが浮かんでいる。
「出番だ。アクシデントで急だが」
「はいはい、行ってきま〜す♪」
ようやくチャンスが巡って来たと、与一はジャージを脱ぎ捨ててユニフォーム姿になれば、出場準備は整う。
「ヨイチ、大丈夫? 急な出番になっちゃったけど……」
「なーんも問題無いよー。僕には待ちに待った機会だからね〜♪」
セランは急に出番の回ってきた小柄な選手を見て、大丈夫なのかと心配があった。
そんな彼の心を見抜いていた与一は、安心させるように明るく笑う。
「絶対に掴み取って勝つよ」
「!?」
先程まで幼い笑顔を見せていたはずが、フィールドを見据えた時に獲物を狙うような鋭い眼差しを向ける。
与一の目が見えた時、セランの背筋に寒気が走ってしまう。
本当に同一人物かと思う間もなく、両チームで最も小さな選手は英国のフィールドへ足を踏み入れた。
「遅いぞ。やっと出て来たか」
「そう言われても僕の意思で自由に出られないからね〜」
戦いの場へ現れた与一にノアが真っ先に話しかけてくる。
「それより、最初の1点から結構苦戦してるよねー」
「向こうが徹底して俺をマークで封じてきてる。そのせいで流れが傾いちまったみたいだ」
今の流れはFCジェントにとって良くない物で、ドルマFCがゲームを支配しつつある。
ジュリアンやアーサーによる奮闘のおかげで、1ー0の状態を保ち続けていた。
「じゃ──いっちょ行きますか」
そう言うと与一は負傷したCDFの居た位置へ向かい、ポジションにつく。
「(交代したばかりで試合に慣れていない)」
「(小さいし、DFの穴だなこいつ)」
相手のドルマFCは与一の位置に守備の隙があると、皆が揃って同じ事を考えている。
「(都合が良いねー……僕を舐めてくれるのは)」
彼らの心は声として聞こえ、自分の所から突破を狙ってくる事を把握。
相手は知らない。
それが墓穴を掘っていて間違いである事には。
「中央から行け!」
ドルマFCの監督が前に出れば、彼も交代したばかりの与一が穴だと考え、徹底して狙えと指示を出す。
声へ応えるように右サイドへ振った後、中央の選手にパスを送る。
目の前に与一が立ち塞がるも、迷う事なくボールを持ったFWは、中央突破を狙ってドリブルで突っ込んでいく。
「遅い」
「!?」
デュエルに持ち込んだかと思えば、与一は瞬く間に相手からボールを奪い取り、右サイドに送ってから前へ走り出す。
守った直後のカウンターだ。
「ノアをマーク!!」
ドルマFCのGKは、最も厄介なノアから離れるなとコーチング。
「こっち出してー!」
「!」
FCジェントの右SHが目を向けると、中央から与一の上がる姿が見えた。
右足によるパスが出され、与一は自分へ向かうボールに対してトラップせず、そのまま右足を振り抜く。
「(シュート!?)」
目の前のドルマFC選手が驚く間、ボールが右側を通過すれば、矢のような勢いある速さでゴールに向かう。
「わぁぁ!?」
予期せぬ与一のミドルレンジからによる、右足のダイレクトボレーシュートがゴール左下隅へ向かい、GKのダイブも届かない。
ゴールネットが揺れ動いた後に与一は跳び上がって喜び、追加点を決めた小さな選手にチームメイトが集う。
「開始から暴れ過ぎだろー!」
「だってノア達が活躍してたしさー! 相手が皆ノアに注意行ってたから、そりゃ狙うでしょー♪」
髪が乱れるぐらいにノアから頭を撫でられながらも、与一は陽気な笑顔を見せる。
開始から僅か数分で、小柄なDFは会場に強烈なインパクトを与え、皆に神明寺与一の名を心に刻ませていた。
輝羅「少しの間、出番無かったから張り切ってるよね絶対」
与一「当たり前でしょー。立見の高校生活ずっと輝羅ばっかで僕の出番無かったんだもん〜」
輝羅「もうやってやるっていうのが、僕からすれば心を見るまでもなく丸分かりだったよー」
与一「そんな分かりやすかった〜?」
輝羅「それはもう……この形は久々だなぁ。次回、まだまだ与一が暴れまーす」
与一「これくらいじゃ終わらないよー!」




