英国で暮らす彼は出番を待ち続ける
「ぷはぁ〜……おわったぁぁ……」
別々のチームで公式戦を2日連続で行ってきた輝羅も、学校の授業に音を上げそうになったのか、昼休みの時間を迎えると机に突っ伏していた。
「輝羅……魂抜けかけてない……?」
勉強の連続で魂が無くなりそうな彼の姿に、影二は心配して声を掛ける。
「早くエネルギー補給したいから、購買部に行こう〜」
まだ午後の授業が残っている為、輝羅は食を求めて購買部という名のオアシスに急ぎ、影二も続く。
「その様子だと苦手な科目に苦しめられたみたいだね」
「分かったぁ? 数学のテストがあったから、もう大変過ぎて〜」
途中で星夜と会って合流すると、輝羅は苦手なテストに苦しめられた事を愚痴っぽく言う。
そう言ってる間に購買部に到着した輝羅は、先程までフラフラだったにも関わらず、水を得た魚の如く活き活きと昼を選ぶ。
「飛翔龍の特製炒飯おにぎりが売られてて良かった〜♪ 美味し過ぎ〜♡」
「こういう事やってるなんて、聞いてなかったなぁ」
初めて食べて以来、すっかりファンとなった飛翔龍の炒飯。おにぎりとした商品で出され、輝羅は虜となった味に癒されていく。
店の常連である星夜も初めて知り、あんぱんを食している。
「そういえば……与一がFCジェントに入ったって……」
「え? イギリス屈指の名門クラブじゃないか。よく入れたなぁ」
輝羅の双子の相方で今、この日本にはいない与一が英国の名門サッカークラブに入ったと、影二はハムサンドを食べた後に星夜へ伝える。
「あそこはノアもいるからね。与一と交流深めて、その縁で入れたんじゃないかなー。彼の家でお世話になってるし♪」
今も与一と連絡を取り続け、輝羅は近況を知っている。
彼が英国の名門クラブに入った事は勿論聞いており、上手くノアの懐に入り込んで入団に結びつく光景が目に浮かぶ。
「イギリスの公爵の家で世話になるって、普通じゃないよね……?」
「……何がどうなって、そうなった……」
影二と星夜からすれば、与一が公爵に面倒を見てもらっている事実を聞いた時は驚かされる。
「ん……?」
デザートのメロンパンを食べる輝羅は、自分のスマホにメッセージが来ている事に気付く。
確認すると、与一からの物で内容を見てみる。
FCジェントの試合でベンチに入れる事になったー♪ 一歩前進!
輝羅が日本の高校サッカーで頑張っている時、与一も英国のプレミアリーグを目指して奮闘中。
どうやら彼にもチャンスの時が巡って来たらしい。
☆
「ふぅ〜……そろそろかなぁ」
夜の神明寺家にて、輝羅は入浴を済ませた後にスマホをチェックする。
日本とイギリスは8時間の時差があり、日本の時刻は現在夜の8時で、英国では昼の12時を迎えている頃だ。
その時間に与一の入っているクラブ、FCジェントU-18の試合が行われ、ライブ配信もされる。
今の時代、ユースチームの試合が配信サイトで届けられるのは珍しい事ではない。
「与一兄ちゃん出るの?」
「ん〜、それはまだ分からないねー」
輝羅と一緒に風呂へ入っていた優人も、与一の試合が気になってスマホで観戦する。
「FCジェントはノアの他にも優秀な選手が数多くいて、DFも良い選手がいると聞くから。層は間違いなく厚いと思う」
タブレットを持った神奈も登場すると、神明寺家のリビングは試合観戦の場となりつつあった。
「ううん、流石に出られないまま終わるのは勘弁かなぁ〜」
この試合で与一の出番があるのかどうか、輝羅は日本から家族と共に相棒の試合を見守る。
☆
イギリス、ロンドンの地にあるFCジェントのサッカースタジアム。
そこでU-18のユースチームによる試合が行われる。
「3人ともスタメンで良いなぁ〜……」
アップをしながらも、ぼやいているチーム唯一の日本人。
神明寺与一はベンチとして入り、同じ年の選手達がスタメンで出場するのを羨ましく思っていた。
「あのなヨイチ……入って半年にも満たないのに、名門FCジェントのベンチ入りするだけでも凄い事なんだぞ?」
与一のアップの相手をするジュリアン・グレイルは、自覚が無さそうな彼に名誉な事だと伝える。
英国の人間じゃなければ欧州の者でもない、東洋の島国から来た少年は、チームに入ってから数ヶ月程度。
普通ならベンチ入りも出来ないが、今日の試合で控えの一員として登録されている。
「その名門U-18で、早くもスタメンに選ばれたジュリアンは凄い! ていう遠回しの自慢かなー?」
「自慢してるつもりは無いって。出場しても活躍出来ないと、すぐ外されるから毎回必死だよ」
与一と共にアップをするジュリアンは、今日のFCジェントのスタメンとして入っている。
かつてU-15で戦ったライバルで実力を知っている為、彼が選ばれたのは納得だ。
GKにはジュリアンと同じく、イングランド代表に選ばれたアーサー・レントの姿もあって、彼も正GKとして立つ。
「ま、今日は勉強のつもりで高みの見物をするって事で良いだろ」
ジュリアン、アーサーと共に今日のスタメンに選ばれた最後の1人が、与一に近づいて話しかける。
神の子と言われるノア・ローレンスも、当然の如く選ばれて彼は早くもチームの中心的人物となりつつあった。
「え〜。誰か交代してほしいなぁ〜」
「自分から手放す奴なんかいるかよ。ジュリアンの言う通り、ベンチ入りするだけでも凄い事だぞ?」
小さな子供へ言い聞かせるように、ノアは自分より小柄な与一の頭をポンポンと撫でる。
「スタメンに選ばれる俺には及ばないけどな。まだまだ精進が足りないぜ」
「腹立つ〜。急にお腹痛くなって僕と交代なっちゃえ〜」
「不吉なフラグ立てんなコラ!」
言葉と共に心も自信に満ち溢れているのは、与一からすれば伝わっていた。
何事においても強気で、自信が揺らぐ事が無い神の子に対して、軽口を叩く。
英国で暮らすようになってから、与一はノアを超える事とプレミアリーグのデビューを目標に、今も走り続けている。
「(なんだろうな……自由奔放な奴が増えた気がする……)」
ただでさえノアに振り回されているのに、そういった奴が増えないでほしいと、ジュリアンは密かに願っていた。
「あーあ……」
試合開始のホイッスルをベンチで聞く事となり、与一は退屈そうに椅子へ背を預けた。
「大分、不満そうにしてるね?」
右隣に座る控え選手が、与一の様子を見て話しかける。
「日本の兄弟が早くもスタメンで活躍し始めたからさ〜。僕も負けられないと思ったんだよ〜」
「ああ、それは分かるなぁ。僕も兄が居て先に活躍してるから、自分もって思っちゃうね」
「でしょー?」
青髪の少年、セランも与一と同じく兄弟が活躍していて、気持ちが分かると通じ合う。
「だから、早く第一歩を踏み込んで走らないと」
与一のフィールドを見つめる先は目の前の試合ではなく、もっと先を見ているように思えた。
遙か先の大きな目標を見据えていると──
「あ……!」
すると、セランが声を上げると与一もフィールドに注目。
背番号10を背負うノアが、ジュリアンからのロングパスを受けて、鮮やかな右足のダイレクトボレーで先制ゴールを決める姿。
早くも神の子が躍動していた。
輝羅「与一が出てる回とか久しぶりに思えるなぁ〜」
影二「……少し前までは一緒に出てるのが当たり前だったけど……」
星夜「今は日本とイギリスだから、一緒に出るのは結構厳しくなってるよね」
輝羅「とりあえず遠征で戦った人達は元気そうだねー」
影二「次回……与一は試合に出られるのかな……?」
輝羅「まさかの出ないパターンもあるの〜?」




