息抜きのデートにサイキッカーは心を奪われる!?
「まさか、インターハイ予選で2軍だけじゃなくプレミアリーグで1軍としても試合に出るなんて……体は大丈夫なの?」
「全然大丈夫ですよー♪」
今日の部活が終わって桜見へ帰る電車内にて、ドアの近くに輝羅と千里が立って会話をしている。
最近の輝羅は、千里と行きも帰りも彼女と共に居る事が当たり前になって、勿論その中で自分が1軍と2軍のゴールを守っている事は既に伝えた。
「GKだから走り回る事はそこまでないですし、声は使いますけどねー」
「確かに、最後の砦が無言で立ってるのは駄目かな」
後ろから全体を見渡せる利点を活かすなら、声を出して指示を送る事は避けられない。
本職の輝羅は勿論、千里もコーチングが重要な事は分かっている。
「だから蜂蜜の飴は欠かせないんですよー」
そう言って輝羅が鞄から取り出して見せたのは蜂蜜の喉飴。
声を出す事を生業としている者達にとっては欠かせない、重要なアイテムと言えるだろう。
「ちゃんとケアしているのは偉いね」
「そこはお父さんがやってるの見てましたからー♪」
輝羅が幼い頃から父、弥一の試合で活躍する所は見てきた。
声を出し続ける姿だけではなく、家で喉飴を常備している事も知っている。
それが自然と息子にも受け継がれているという訳だ。
「でも、平日が授業や部活で土日が試合だったりと、息抜きする暇が無いぐらいにハードじゃない?」
「夏だと連日試合って聞きますから、それに備えた練習にもなりますよー」
予選を勝ち抜き、出場権を獲得した訳ではないにも関わらず、輝羅は先の全国大会を見据えている。
千里から見て、そこまで自分達が行けると信じて疑ってないように思えた。
「──ねぇ、少し付き合えない?」
「え?」
少し考えてから千里は彼の目を見ると、自分に付き合えないか問いかける。
その言葉に一瞬、胸が急激に高鳴った輝羅には断る理由が何も無い。
「あ〜、逃したぁ〜」
桜見駅で降りた2人は真っ直ぐ家には帰らず、駅前にあるゲームセンターへ立ち寄る。
そこで千里がクレーンゲームに挑戦して、目当てのぬいぐるみが掴んだアームから落ちてしまう。
「あれ、欲しいんですかー?」
「あたしの推しキャラだからね。もう一回……!」
彼女が取ろうとしているのは、つぶらな瞳で可愛い茶色のウサギをモチーフとしたキャラ。
欲しいと知った輝羅が、先に小銭を入れてクレーンゲームへ挑む。
「タイミングとしては此処で──こうっと」
慣れた手つきでボタンを押していくと、アームが動いて千里の取り損ねたぬいぐるみを掴むと、そのまま離さずに穴まで運ぶ。
アームから離れれば穴へ落ちて、景品口から目当てのぬいぐるみは出て来た。
「え、凄い!? よく取れたね輝羅君!」
「妹や弟が居ますから、取ってあけだりしてたんですよー。それで鍛えられたかな?」
千里が感心していると輝羅はウサギのぬいぐるみを手に取り、彼女へ差し出す。
「これ六峰先輩にプレゼントします♪」
「え、良いの!? ありがとう〜♪」
プレゼントされると千里は心底嬉しそうな顔で、大事そうにぬいぐるみを腕に抱く。
ドキッ
「(ヤバい……めっちゃ綺麗で可愛い……)」
年上の先輩の姿を見た輝羅は胸が再び高鳴り、落ち着かなくなってくる。
「ね、輝羅君! あっちでプリクラ取ろうよ!」
「!? あ、は〜い」
一瞬惚けていたが、千里に呼ばれた輝羅は我に返ると、一緒にプリクラ機の所まで向かう。
そこで2人は様々なポーズをとって撮影していた。
「ほら、離れ過ぎだからもっと近くで」
「あわっ……!?」
距離が離れていたので、輝羅の腕を掴んだ千里はグイッと自分へ引き寄せ、より近い距離で撮影を続行。
その中で、輝羅の心拍数が上がりっぱなしだったのは言うまでもない……。
☆
「兄ちゃん、聞いてる?」
「!? あ、え〜……何の話だっけ?」
神明寺家にてリビングで皆が集まり、鶏の唐揚げを中心としたメニューが食卓に並び、家族で美味しく味わうのが彼らの日常。
輝羅は母の手作り唐揚げを食べながら、惚けてる様子で弟の優人が話している内容を把握していなかった。
「輝羅お兄ちゃんボーッとしてるー」
「ボーッとしてるー」
双子の姉妹、姫奈と姫香からも兄の様子が何時もと違う事が伝わる。
「部活だけでなく試合も頑張っているから、疲れが出て来たのなら無理は駄目だよ」
「あ、それは大丈夫……」
輝咲から体調が悪い事を心配されると、輝羅は白米と素麺の味噌汁を食べ進め、唐揚げも頬張る。
「(ああ……そういう事)」
輝羅と向かい合う形で座る弥一は、彼が惚けている理由について把握。
息子にもそういう時期が来たかと微笑ましくなる。
『(父さん、言っちゃ駄目だからね?)』
『(はいはい、分かってるよー)』
心を読まれた事が伝わったのか、輝麗がテレパシーで父に伝えると弥一は頷いた後、愛する妻が作ったアスリート向けの唐揚げを美味しく味わう。
輝羅としては、今思ってる事を皆の前で言われるのが恥ずかしいと思っていた。
「……」
その様子を横目で見ていた神奈の事には気付いていない。
「与一……僕ヤバいかもしれない〜」
『ヤバいってどうしたのさ輝羅ー?』
自室にて、輝羅はテレビ電話で双子の兄弟、与一と話していた。
イギリスへ渡った後、公爵家であるノアの家で世話になっている与一は英国でも変わらず過ごし、ノアと共に日々サッカーを繰り広げている。
「同じサッカーをする年上の先輩に恋しちゃった〜」
「ええ!?」
相方の突然の恋に、与一は電話の向こうで驚かされた。
「輝羅……男の人に恋しちゃったの?」
「んな訳ないでしょ。女子だよ女子! 立見の女子サッカー部で2年の人!」
からかわれたのか、本気で勘違いしたのか分からないが、輝羅は与一の勘違いを全力で正す。
スマホ越しでは、彼らが心を読み合う事が出来ない為だ。
「大丈夫? 僕みたいに失恋とかしないでよー」
「……そうなったら僕、あの時の与一以上にダメージ大きくなりそうで怖いよ」
「ま、とにかく色々頑張ってねー。僕もこっちのプレミアリーグ目指して頑張るからさ♪」
「ああ、うん」
日本のプレミアリーグを輝羅が戦ってると知って、自分も早く英国の方に挑戦しようと刺激を貰い、2人の会話は終了。
「はぁ〜」
輝羅はベッドに飛び込み、仰向けになると天井を見上げる。
生まれて始めての恋を知り、今日のゲームセンターでの出来事を思い出す。
「ああいうのがデートかなぁ……」
向こうがデートのつもりなのか分からないが、輝羅としてはそういう雰囲気に思えてしまう。
「デートしてたの兄さん?」
「!! か、神奈!? 何時からそこに!?」
妹の声に気付くと、ベッドの側に神奈が立っているのが見えれば、輝羅は慌てて飛び起きる。
「ドア、開けっ放し」
「あ」
神奈は珍しく兄の部屋のドアが開いたままで、気になって様子を見に来ていた。
そして今日デートしている事を聞かれた様子。
此処まで来たら神奈へ隠し事は無理だ。
「兄さんにも春が来たみたいで、私としては嬉しい」
「そうなの?」
「ずっと私だけでなく優人や姫奈に姫香へ構ったりしてるから、そういう機会が無いか心配だったから」
輝羅が弟や妹を優先し、大切にしている事は神奈も見てきている。
一体兄は何時、恋をするのかと。
「そんな心配されてたんだなぁ〜……」
神奈に心配されていた事を知り、輝羅は苦笑してしまう。
「ねぇ、どんな人なのか見たい。機会あったら家に呼べない?」
「それハードル高いから〜……!」
今の所は彼女が神明寺家へ遊びに来る事は、想像がつかない。
自分から誘って変な感じに思われたくないので、輝羅としては妹の願いに応えたい。
ただ、相手を無失点に抑えるよりも高難易度に思える……。
弥一「若いねぇ〜」
輝咲「うちの子もそんな歳になったんだなぁ……」
輝羅「父さん、母さん、揃って何しみじみしてんの〜」
弥一「そりゃそうでしょー。僕達は輝羅がこんなちっちゃい頃からずっと見てきたんだからー」
輝咲「それが恋するまでになったかと思うとね……」
弥一「お母さん泣きそうだから此処までー! 次回もお楽しみにー♪」
輝羅「何か恥ずかしい〜……」




