公式戦に向けてスタメン入りを目指す
「1軍は主に高円宮杯の戦いか」
サッカー部の部室棟にある監督の部屋。
そこで新たに就任した間宮は立見の予定をチェックしていた。
「インターハイの予選はシードとなっているので、主にプレミアリーグの方に集中しています」
2年のマネージャー、沢田理彩がスマホで組まれた予定表を見ながら、監督へ現状を伝える。
「昨年はプリンスリーグへの降格が危ぶまれながらも、かろうじて回避しました」
高校サッカーのリーグで最上位と名高い、高円宮杯のプレミアリーグ。
強豪校のサッカー部だけでなく、クラブユースも参加していて高校の年代が全国各地から集い、24チームが東西へ分かれて頂点を争う。
そこに立見も入ってはいるが、優勝は出来ておらず、東の底辺にかろうじて踏み止まり続ける。
「──俺の現役の頃は、リーグの頂点とか考えずにインターハイ、選手権に集中してたけど。後輩達がそこまで頑張ってくれたんだなぁ」
間宮が高校に在籍していた時、リーグでの立見は今より相当下の方へ位置し、今のプレミアリーグとは縁が無い状態だった。
端くれとはいえ、東の頂点を競う12チームに入ってる事は凄いと思えるが、その位置に甘んじるわけにはいかない。
「なので、今年の立見は1軍を主に高円宮杯の戦いへ集中させ、2軍を中心としたメンバーでインターハイを戦うのがベストだと考えます」
理彩は眼鏡をクイッと上げ、自分の意見を間宮に述べる。
「あの超過酷で知られるインターハイに、ずっと1軍だけで戦い続けるのは無理があるからな」
かつては自身も夏の大会へ何度か挑んでいるので、どれだけ過酷なのかは分かっている為、1軍に無理はさせられない。
「それで行こう。沢田は2軍の方へついててやってくれ」
「はい。必ず今年のインターハイを彼らと共に勝ち取ってきます」
知的な雰囲気を漂わせる彼女から、強気な言葉が出た後に理彩は頭を下げてから部屋を出ていく。
「(大人しそうな文学系かと思ってたけど、結構熱い女子だったな……今どきはああいう感じか?)」
外見とは違うギャップの理彩に驚かされなからも、間宮はメンバー表に目を通す。
☆
「──報告の通り、我が立見高校のインターハイ挑戦は2軍が中心となって頂点を目指す事となりました」
2軍の部員が集まるフィールドで、理彩は彼らに夏の公式戦を自分達で戦う事を告げる。
「そう言って、俺達は予選だけで本戦は1軍で戦うってオチじゃね?」
1軍が美味しい所を奪うと疑っているのは、2軍の左SHを任されている2年の玉石康太。
黒髪のパーマのセットが気になるせいか、右手で軽く整える。
「そういった事は無いです。登録メンバーにも1軍は入ってませんから、勝つも負けるも皆さん次第です」
登録メンバーの手続きは一度終えれば、負傷などの理由が無ければ変更は認められない。
今回のインターハイは正真正銘、このメンバーでやるようだ。
「1軍の皆は忙しいのかなー?」
「この時期はプレミアリーグが始まるから、そこに集中してるんだよ多分」
1軍が大会に参加しないと聞いた輝羅は、星夜と話す中で公式戦に出るチャンスだと思っている。
「っし……!」
理勝は話を聞いて2軍のレギュラーを狙おうと、密かに気合が入っていた。
「我らが間宮監督は私達にインターハイを託しました。その期待を裏切らない為にも、夏の過酷な大会に屈する事なく勝利を手にしましょう」
「勿論、そのつもりだよ」
理彩の熱弁を聞いて高良川は小さく頷いて答えると、部員達へ体を向ける。
「聞いての通りだ皆。僕達の力を全国に見せる時が来た。このチャンスは絶対逃さないようにしよう!」
2軍の心はインターハイ制覇に向けて団結し、練習が開始された。
「(沢田先輩、結構熱い人って思ったら……そういう理由ねー)」
この時、輝羅には理彩の秘めている想いが耳に届く。
「(間宮監督に託された! 間宮監督の為に立見を強くさせて喜んでもらいたい!)」
異常なまでの間宮に対する想いが、彼女の心をほぼ埋めつくす。
その雰囲気からは想像が出来ないぐらい、激しい気持ちがあって、かなり心の声のボリュームは大きい。
此処まで声の大きい心は珍しいなと思いながら、輝羅は練習へ入る。
主にチームの全体練習で連係力を高め、公式戦の初戦へ向けて部員達は奮闘。
レギュラー定着を目指し、インターハイで勝つ為に。
「初戦の相手は前川高校です」
「いきなり初戦から古豪が来たか」
練習を積み重ねる日々が続くと、その日の練習前に理彩の口からインターハイの東京予選、初戦を戦う相手が告げられた。
「古豪って、強いの前川高校?」
「昔は東京屈指の名門と言われて、立見とも接戦を繰り広げていたそうだよ。近年だとシード入りしてなくて、パッとしてなかったみたいだけどね」
星夜なら何か知ってるだろうと、輝羅は前川高校の事を教えてもらう。
「下から勝ち上がってきた奴らだ。弱ぇって事はねぇが、優勝を目指すならブッ倒す」
「おー、やる気満々ですね牙崎先輩♪」
公式戦に人一倍飢えている理勝に、輝羅が頼もしいと彼の顔を見上げていた。
「……その前に……スタメンに選ばれるかどうか……」
そこへ影二が小声でボソボソと言えば、公式戦を前に出られるかどうかの問題が、壁として阻んでくる。
「キャプテンや監督達が余程嫌ってるとかない限り選ばれるってー」
2軍の練習で3軍からの昇格組は、好プレーでアピールしてきた。
此処まで一対一や複数での対面も経て、輝羅はスタメンへ呼ばれる事に自信を持つ。
「ま、とりあえず今日も練習で良い所を見せてアピールサボらないようにしようー♪」
「何時からキャプテンになって仕切ってんだよ」
「あ、じゃあ代わりに先輩仕切ってくださいー」
「うっせぇな。こんな所でいらねぇだろ」
余程の怖いもの知らずか、不良の雰囲気を漂わせる理勝に、輝羅は遠慮無しで絡んでいく。
「なんだかんだで牙崎先輩、ちょっと変わってきたかな?」
「……相変わらず怖いけど……」
2人の様子を見た星夜と影二が話す中、この日も練習は開始される。
「ほらー! 左上がってるよー!」
「あ……!」
試合形式の練習でゴールマウスに立つと、先輩相手でも遠慮無しにタメ口で指示。
この日も輝羅はガンガン声を出し続けていた。
「やれやれ……ホント、血は争えないっていうか」
「似てるよね」
川田と翔馬のコーチ2人は輝羅の姿を見れば、懐かしい気分になってくる。
かつて同じように小柄な人物が、今の輝羅みたいに声を出していたなと。
「輝羅ナイスセーブー!」
「やらないから任せなさいってー♪」
話してる間に輝羅が相手のミドルシュートを掴むと、柿田から称賛の声を受けていた。
公式戦出場まで間近に迫り、小さなGKは公式戦のゴールマウスを守ろうと、この日も猛アピールをする。
輝羅「練習の日々が続きましたが、お待たせしました! 公式戦ですよー♪」
星夜「練習は大事だけど、流石に本当の試合もしないとね」
輝羅「何処かの誰かさんの為に、監督の期待にも応えないといけないし♪」
影二「何の話……? 次回はインターハイ東京予選……!」
輝羅「出られるかどうか、次をお楽しみにー!」




