2軍の練習で猛アピール!
「闇雲に走るなよー! 先を読んで動くんだー!」
2軍のコーチを務める川田は、フィールドで動き回る部員へ向かって助言を送っていた。
4人の選手達が彼を囲むようにパスを繋ぎ続け、人間の籠の中でボールを取ろうと追う。
「此処で守備側1人追加!」
「はい!」
川田に言われると新たに選手が奪う側で加わり、相手が2人となれば取られないようにパスを回す難易度は急上昇。
ワンタッチで素早く、かつ上手く繋いでプレスに来る選手達から逃げ続ける。
「(こうやって攻守の連係を高めていくんだなー)」
GKが集まってキャッチの練習をしている合間、輝羅はパスを回す選手達をチラチラと見ていた。
2軍ともなれば公式戦の出場機会があるせいか、個人よりも複数が組んで連係を高める練習が多い。
3軍までは個人の力の底上げが主に行われ、2軍からはチーム力の向上を重視する。
「神明寺、よそ見するなー」
「はーい」
他の先輩GKから向こうの練習を見ている事を注意され、輝羅は正確なキャッチングを続けた。
「ふー……相当速いパス回しだったよあれ」
練習の合間に休憩が入り、マネージャー達から水筒が配られて星夜も受け取ると、水を飲んで練習の疲れを癒す。
先程の先輩とのパス回しを振り返り、かなり速く回していた印象が強く残る。
「パスがゆっくりだと、相手に取られる危険が高くなっちゃうからね。速かったら味方は受け難くなるだろうけど、それ以上に相手は取りづらいだろうしー」
「……だからカットは難しかった……」
同じく水を飲んで話す輝羅の隣で、影二は先輩達のパスが速くてカットし難いと呟く。
「これに対応出来なきゃ、まず試合は出られないぞ」
休憩する輝羅達の前に、坊主に近い黒髪の男子が現れる。
かなり背が高く180cm後半はありそうな彼が、2軍の副キャプテンを務める3年の柿田江二郎だ。
「ああ〜、ついていけないと3軍の降格もありそうですね〜」
「その候補には間違いなく入るだろうな。上がったけど、すぐに逆戻りって奴は結構見てきた」
輝羅の言葉に頷いた後、今まで何人か上がって落ちていった者達の顔が、柿田の中で思い出される。
公式戦に出場する事は簡単ではなく、うかうかしていたら下から追い抜かれ、転落していってしまう。
出場するのも現状維持も大変なのが立見サッカー部だ。
「東京都内だけじゃなく全国からエリートが集うようになって、そこからレギュラーの座を掴み取るのは大変だ。皆が何時も狙ってるから気が抜けやしない」
柿田の今いる、副キャプテンとしてのポジションも不動ではなく、叩き落とされるか分からないのは彼も例外ではなかった。
「……本当、代表並のサバイバルですね」
中学時代、日本代表の合宿を思い出す程に星夜は激しいポジションの奪い合いと感じる。
「ま、此処に立っている時点でお前達は仲間であって、ポジションを争うライバルだ。あっという間に3軍へ戻らないように気をつけろよ」
それだけ行って柿田は離れると、高良川の元へ向かう。
「ポジションを争うライバルか……1年とか、そういうのも関係なさそうだね」
「……実力が大事……」
柿田からの話を振り返る影二、星夜の2人は実力勝負の世界だと揃って思った。
「僕達はポジション被りの心配無いから、協力し合える仲間だよねー♪」
3人の希望するポジションはバラバラで、ほぼ争う事はない。
自分達なら協力しても問題ないだろうと、輝羅はマイペースに笑う。
「マシン持ってきてー!」
次の練習で川田はマネージャー達に用意を頼むと、数人が青いマシンを慎重に運んでくる。
「あー、あれ立見にもあるんだー」
「……久しぶりに見る……」
桜見で散々その練習をやっていた輝羅、影二には馴染みのサッカーマシン。
これが高性能で様々なトレーニングに活用出来る事は、2人とも分かっていた。
「まずは右コーナーのセットプレーから準備ー!」
ゴール前には攻撃選手と守備の選手達にやって、かなりの混戦状態。
そこへボールがセットされたマシンから、高速でのボールが撃ち出される。
「せぇっ!」
「おおっ!」
弾丸を思わせるスピードで飛んできた球に、選手達は空中戦で争う。
それが零れ球となって、混戦の中で拾った高良川が右足のシュート。
GKの手は届かずゴールネットを揺らされていた。
「相当練習してるみたいだねー。攻撃も守備も速い球にタイミング良く飛んでたよ」
互いに跳躍する時のタイミングが良いと、輝羅は競り合っていた2人を褒める。
「……久しぶりにやるから上手く行くかな……」
しばらくマシンを使っての練習はしておらず、感覚が鈍ってないかと影二は不安そうな顔を見せる。
「ま、行って来なさいってー♪」
心配する彼の背中を押して、輝羅は明るく送り出す。
再びマネージャーの手でセットされた球が、マシンから発射される。
先程の高い球ではなく今度は低い球で飛んできた。
「っ……!」
その球へ誰よりも先に、影二が頭から飛び込んで高速クロスをはね返す。
「闇坂ナイスクリア!」
「あ……はい……」
高良川から良いと褒められ、影二は声が小さいながらも返事をする。
左や右と、様々なパターンを想定したセットプレーが行われていく。
何時もこなしてる選手達は、高速で撃ち出されるボールを使って相手と競り合い続けていた。
「(此処!)」
何度かタイミングの合っていなかった星夜だが、持ち前のセンスで感覚を掴むとダイレクトボレーで完璧に合わせる。
GKのダイブも及ばず、ゴールネットを揺らして攻撃を成功へと導く。
「良いな今年の1年達。僅かな期間で昇格してきただけあるよ」
「高速のボールに早くも対応したりと、伊達に代表を経験してないな」
高良川と柿田は外から1年達の活躍を見ていた。
「お、噂の神明寺が来るみたいだ……」
そこへGKとして輝羅がゴールマウスに立つ姿が見えれば、2軍のキャプテンと副キャプテンが注目する。
再びセットされた球が発射された時──。
バシイッ
「!?」
高速で撃ち出されたクロスを輝羅は飛び出して跳躍から、両手でボールを掴み取っていた。
これには高良川と柿田の目が揃って見開かれる。
「はいはい次ー! どんどん放っちゃってよー!」
キャッチした球を投げ返すと、輝羅は次のボールを要求。
相手の合わせて来たヘディングやボレーを次々と防ぎ、小柄なGKの守るゴールネットは一度も揺れない。
2軍に入って早くも自分の実力を見せつけ、正GKは自分だとプレーでアピールしていた。
輝羅「あのマシンで桜見は天下を取りました♪」
影二「それだけ……という訳じゃないと思うけど……」
星夜「どうりで桜見のパスが速いと思ったら、高速のボールに充分慣れてたんだね」
影二「あれで沢山練習を重ねたから……次回……2軍の公式戦の対戦相手が決まる……!」
輝羅「やっと部員以外の人達と戦えそうかなー?」




