2軍入り
「今日の練習これまで! 皆お疲れ様ー!」
放課後の立見女子サッカー部の練習が終了すると、キャプテンの言葉で解散となる。
「ねぇ千里、カラオケでも行かないー?」
「ん? あ〜、予定あるから止めとく。お疲れ様ー」
チームメイトにカラオケへ誘われるが、千里は断って部室へ真っ直ぐ引き上げて帰り支度を済ませていた。
「予定? ……ひょっとすると、春が来たりして?」
「そういえば、紅白戦で小さなGKの子を見てばっかりだったよねぇ」
「え、まさか相手はあの子!? 凸凹カップルになりそうだなぁ〜」
彼女達はランニングの途中で、3軍の紅白戦を見ていた時を思い出す。
その時の千里はフィールド全体ではなく、GKの方を見ていたと。
「お待たせー、輝羅君!」
「お疲れ様です♪全然待ってないですよー」
部室を出て正門に着くと、千里の前には同じく帰り支度を済ませている輝羅の姿。
2人はスマホで今日、一緒に帰る約束をして先に練習を終えた輝羅が彼女を待っていた。
「あれ、今日は闇坂君いないの?」
「彼なら先に帰っちゃいましたー」
千里から見れば、いつも輝羅と行動してるイメージが強いらしい。
彼なりに気を使ったのか、影二は密かに誰も気付かないまま1人で帰宅する。
どうやら輝羅の恋を積極的にアシストしたいようだ。
「え、もう2軍へ上がるの?」
「新しく入った監督が練習見てて、それで昇格させてもらったんです♪」
立見高校からの帰り道、大通りを歩いている時に輝羅から2軍へ上がったと聞いて、千里は驚いた顔で彼を見る。
「確かにGKとして良いプレーを見せてたから……そっか。おめでとう♪」
「ありがとうごさいます♪」
昇格した小さな後輩に千里は笑顔で祝福をすると、それを見た輝羅は同じように笑って返す。
「2軍に上がれば、公式戦に出場のチャンスが大きく広がるからね。これ逃しちゃ駄目だよ?」
「勿論、逃さずレギュラー掴みますからー」
歩きながら話せば立見駅が見えて、2人は桜見へ帰る為に乗車した後、車内で話を続ける。
「2軍は高良川正人っていう3年の先輩が仕切ってて、その人を中心に3トップのシステムを中心とした攻撃サッカーが得意なんだよね」
「結構攻め攻めなサッカーのスタイルなんですね〜」
「1軍が1トップや2トップだから、2軍は独自のスタイルで行こうとなったみたいだよ。点は多く取ってるけど、結構失点も多いね」
2軍はリスク覚悟のフットボールが信条らしく、同じ立見でもチームによってはスタイルが異なる。
これから輝羅が行く場所は、そういうチームのようだ。
「また忙しくなりそうで大変だ〜」
輝羅は車内の天井を見上げる。
「そう言って、楽しそうにしか見えないよ?」
「あ、バレちゃいました〜?」
言葉ではそう聞こえても、千里から見れば本当に辛いとは思えず、2軍に行ってみたい好奇心旺盛な子供に見えていた。
「GKとしての出番は簡単じゃないと思うけど、頑張ってね」
「六峰先輩も公式戦、頑張ってください♪」
同じ立見サッカー部の男女、エールを送り合う。
「(何か良いなぁ、こういうのって)」
高校に入って苦手な勉強はあれど、サッカーへ存分に打ち込める。
それに加えて、色々と物知りな女子の先輩から教えてもらいながら、一緒に学校へ向かったり帰宅する。
輝羅にとって、楽しい高校生活を送り始めていた。
☆
「おはよー、今日から2軍だねー♪」
2軍が決まってから初の朝練を迎え、輝羅はロッカーで着替える影二と星夜の姿を見れば、明るく挨拶をする。
「あれ、竜斗と影丸はいないのー?」
「彼らは早く来て3軍に合流していったよ」
この場に2人がいないなと、輝羅が見回している所へ星夜が理由を教えた。
「……僕達に追いつこうと張り切ってるみたい……」
2軍へ昇格した3人に対して2人は留まり、彼らを見ていた影二は練習を益々頑張りそうと思いながら、着替えを終える。
「昇格した俺達も頑張らずに気を抜けば、あっという間に叩き落とされちまうぞ」
「あ、牙崎先輩おはようございますー♪」
そこへ理勝が部屋に入れば、後輩の輝羅達は挨拶。
「そういえば牙崎先輩ってDFだけど、めっちゃ攻撃的ですよね?」
「あ? なんだ急に」
着替えを始める理勝に、輝羅は千里から聞いた話を振り返りながら話す。
「聞いたんですよ。2軍は1軍と違って攻撃的なフォーメーションを組んで、積極的にゴールを狙うサッカーを得意としてるって。だから牙崎先輩のスタイル合ってそうじゃないですか?」
「合ってるかどうかは、実際にやってみねぇと何も分からないだろうが。てめぇの物差しで決めんな」
「僕まだ嫌われてますー? 同じ昇格組なのに〜」
素っ気ない理勝の態度に、もうちょっと構ってほしいと輝羅は不満そうに頬を膨らませる。
「(……怖い先輩に対して、よくグイグイと行けるなぁ……)」
影二から見れば、輝羅と理勝が喧嘩になるんじゃないかとハラハラしてしまう。
「それに、まだ昇格したばかりで俺やお前らも2軍の試合に出られるか、何も確定してねぇからな」
2軍に上がったからと言って、試合に出られるとは限らない。
スタメン入りどころか、ベンチ入りも自分達は出来ていない状態だ。
「3軍の時に続いて、また厳しい争奪戦の始まりですね」
「そういうこった優等生」
発言した星夜に対して、そんなイメージが理勝の中であるらしく、着替えを終えて一足先に練習へ向かう。
それに輝羅達1年も続き、2軍と顔を合わせる。
「ようこそ2軍へ。僕が此処のキャプテンを務める高良川正人だ」
水色の短髪の男子が、2軍メンバーの前に現れた4人へ自己紹介をした。
星夜と同じぐらいの身長と体格で、穏やかそうな雰囲気が漂う。
「じゃあ順番に、軽く自己紹介と希望するポジションを教えてほしい」
高良川から言われると、理勝が前へ進み出る。
「2年の牙崎理勝、ポジションはCDFっす」
自分の名を伝えた後に希望も伝えた後、後ろへ下がって代わりに星夜が彼らの前に立つ。
「1年の古神星夜です。ポジションはFWを希望します」
攻撃的な位置に優秀な選手の多い2軍でも、臆せず自ら争奪戦へ飛び込む。
「……1年の闇坂影二……ポジション……ボランチ希望で……」
大勢の前での自己紹介に緊張して、声が小さいながらも影二は自分の希望を伝えた。
「1年の神明寺輝羅です。ポジションはGK希望で♪」
始めて対面する2軍の前でも、何時もの陽気な笑顔を崩さないまま、輝羅は自分の出番を終える。
「君達の3軍での活躍は聞いてるよ。いずれも優秀で、是非この2軍でその力を振るってほしい」
高良川は4人を歓迎すると、練習の開始を告げた。
「……何か、和やかで落ち着いてる感じがするね……?」
2軍の雰囲気を感じ取ったらしい、影二は輝羅へ密かに彼らへの感想を伝えていた。
「そうだね〜」
言葉に同意しながらも、サイキッカーである輝羅は感じ取る。
彼ら2軍が勝利や優勝を貪欲に狙い、1軍を食う勢いの活躍をしてやろうと。
「(流石は名門の立見と言うべきか、やる気のある部員が多いなぁ)」
上を目指す者達が多く、ポジションの奪いがいがあると輝羅は不敵に笑う。
理勝「此処でお前ら溜まり場でやってんのかよ」
輝羅「牙崎先輩が言うと違う意味に聞こえちゃいますね〜」
影二「輝羅……! しっ……!」
星夜「まさかの先輩まで此処に来るとは、予想外だよ……!」
影二「……次回、2軍のサッカーを見る……」
輝羅「へぇ〜、こんな感じでやってるんだねー」




