恋をしたサイキッカーの前に障害あり
「兄さん、恋してるよね」
「!? 神奈、いきなりどうしたの?」
神明寺家で朝を迎えると、道場で日課の朝稽古を終えた後に家の方で朝食をとる。
何時も通りの日常を送っている所へ、神奈の言葉に輝羅は驚かされていた。
「何処か何時もと雰囲気が違う気がしたから。勉強に悩んでる感じには見えないし、サッカーで悩んでたら隠さずに言うはず。だからそれなのかなって」
超能力を持っている訳でもないのに、妹に鋭い所を突かれてしまう。
輝羅自身、それが恋なのかは分かっていないが。
「こいー?」
「こいー?」
まだ恋についてはよく分かっていないのか、双子の妹の姫奈と姫香は揃って首を傾げる。
「輝羅兄ちゃんが恋って、高校でそういう人が出来たの?」
優人の方は関心があるのか、身を乗り出す勢いで話していた。
「ああ〜、いや……どうなんだろうね〜」
弟の問いに輝羅は濁すような言葉で返すしかない。
彼にとっても初めての経験で、そうだと言い切れないせいか。
「へぇ、輝羅もそういう年頃になったんだなぁ……」
赤子から長男を見てきた輝咲からすれば、しみじみと思う物があった。
「もう〜、ご馳走様〜! 朝練行ってきま〜す!」
兄妹による質問の嵐から逃れるように、輝羅は味噌汁を飲み干してから鞄を持って家を出る。
「はぁ〜、神奈ってば勘が良いんだから〜」
朝の桜見駅のホームで、輝羅はスマホを見ながら朝の出来事を振り返って呟く。
昨日、フィールドで美しく舞う千里の姿が忘れられず、頭の中で鮮明に残ったままだ。
神奈や影二から指摘されて、恋なのかと思っていた時──。
「おはよっ!」
「!?」
突然、輝羅の右肩に人の手が置かれたのが伝わる。
昨日聞いたばかりの声を忘れるはずがなく、まさに思い浮かべていた人が振り返れば立っていた。
後ろから声を掛けた千里の姿に輝羅は目を見開く。
「そんなに驚いた? あたしも見かけた時はビックリしたけどね。同じ桜見から通ってるなんて」
「えっと〜、色々驚かされました〜」
此処で会う事になるとは思わず、驚きながらも輝羅の顔に陽気な笑顔が浮かぶ。
やがて立見行きの電車が来て、2人は乗り込んだ。
「女子サッカー部の朝練も男子と同じ時間なんですねー」
「そうそう、それで大体あたしもこの電車へ今の時間帯ぐらいに乗ってるから」
走行する車内で輝羅と千里は長椅子に座り、隣同士で会話をする。
「立見の朝練にはもう慣れた?」
「そこは大丈夫ですねー。早く1軍に上がろうと日々、頑張ってます」
「確か新入生は6軍スタートだけど、そこに辿り着くのは結構時間かかるから──」
男子サッカー部の6軍スタートは千里も聞いていて、1軍の道程は簡単じゃないと思う所へ、輝羅は微笑んで今の位置を伝えた。
「今3軍で、公式戦に出るまで後一歩です♪」
「え、早くない!?」
入部してから1ヶ月も経過してない内に、3軍へ上がった事を聞くと今度は千里が驚いた顔を浮かべる。
「立見の副キャプテンがジャンプアップさせてくれたおかげですねー」
「ああー、守口先輩か……」
輝羅から3軍へ上げた人物を聞けば、千里は納得している様子。
200人以上の男子サッカー部員を把握してるらしく、一夜の事も知っている。
「あの人って陽気で男子サッカー部のムードメーカーだけど、結構見てるからね。曲者みたいな所があるから」
「裏が滅茶苦茶ありそうな先輩だなぁ〜」
一夜が曲者である事は、初めて会った時から分かった。
他の者と比べて心を読むのが難しく、輝羅からすれば単なるムードメーカーには見えない。
「あ、そうだ! 同じ桜見って事で連絡先交換しない?」
「え……」
電車が立見へ近づいていくタイミングで、千里はスマホを取り出すと連絡先の交換を申し出る。
まさかの展開に、輝羅からは動揺が見えていた。
「これから桜見でもまた会うと思うし、神明寺君とサッカーの話を聞きたいから──駄目?」
「勿論、今すぐ交換しましょうー♪」
彼女の方は1人で通学するよりも、輝羅とサッカーの話を中心に話せば楽しい上、為になる事が聞けると考えている。
輝羅に千里の申し出を断る理由など何もなく、輝羅のスマホに高校の先輩が新たに登録。
この時、千里と2人で話す輝羅の胸は高鳴るばかりだった。
☆
「恋、しちゃったかも〜」
「!?」
「え、お前マジで!?」
朝練が終わって部室で着替え、授業に向かう準備をしていた所へ、まさかの言葉が輝羅の口から呟かれる。
これには竜斗や星夜が近づき、影丸の眠気も覚めて興味津々な様子。
その中で影二だけは「やっぱり……」と思っていた。
「なぁ、どんな女子だよ……!?」
「輝羅が興味惹かれる女性は興味深いね……」
竜斗と星夜は揃って輝羅がどんな女子に惹かれたのか、気になって問い詰める。
「それは〜……恥ずかしいから言えない〜!」
名前を明かさず追撃を躱すと、輝羅は教室へ一足先に向かう。
「ええ〜、勿体ぶられたよ〜! 誰なの〜!?」
「あいつ……本当は恋してなくて、俺達をからかってるだけじゃねぇか?」
「今の態度はそうなのかな……」
輝羅の口からは相手が誰なのか明かされず、モヤモヤした気持ちになっていると、3人へ影二が近づいてくる。
「……女子サッカー部の2年、六峰千里先輩……多分その人が輝羅が恋する相手だと思う……」
「六峰──ああ、女子サッカー界で天才ストライカーと注目されてる人か」
影二から聞いた時、星夜は誰なのか分かって納得するように頷く。
「天才は天才に惹かれるもんなのかねぇ」
「さぁ〜、どっちにしても輝羅って六峰先輩みたいな人がタイプなんだね〜」
竜斗や影丸も彼が千里に恋をしているのは分かるようで、サッカーが上手いだけでなく彼女は美人だ。
輝羅の恋が上手くいくのか気になりながらも、それぞれ授業向かう。
「……」
それを同じ3軍の先輩、数人が聞いていた事を彼らは知らない。
「練習終了ー!」
コーチを務める翔馬が午後の練習終了を告げられ、それぞれの部員達は部室棟へ戻る。
別メニューでキーパー練習を終えた輝羅も向かおうとしていた。
「おい、神明寺」
「ん?」
そこへ男の声が聞こえると、輝羅の前には3人の部員が立つ。
いずれも小柄なGKより身長が高く、体格も良い。
同じ3軍の西、佐藤、坂口の3人で皆2年の先輩だ。
「行かないんですか先輩達?」
「どうせ大勢で混むだろ。空くまでの間、軽く言っておこうと思ってな」
3人の心を見てみれば、輝羅に対しての敵意が感じられる。
その理由は明確だった。
「お前、女帝を口説く気か?」
「噂で聞いたぞ。彼女に気があるそうじゃないか」
「入ったばかりの1年が、随分と高嶺の花に目が向いたもんだな」
千里は学校内で人気があって、ファンクラブがある程と聞いている。
その会員の可能性を匂わせる3人は、輝羅が千里に近づく事を良く思っていない様子だ。
「それ──近づかないようにしないと「痛い目に遭わずぞ」って脅してません?」
先が読めた輝羅は自分を脅しに来たのかと、先輩達の顔を見上げる。
いざとなれば喧嘩への対応は可能だ。
「待て待て待て、早とちりするな」
「そんな自爆を仕掛ける程、こっちは愚かじゃないから安心しろ」
彼らとて昇格を目指し、公式戦の出場を望んでいるので、自分からチャンスを消すような事はしなかった。
「(こいつは神明寺の息子。知名度を使って言う事を聞かそうとしているかもしれない……!)」
「(此処は俺達で女帝を守らないと……!)」
「(女帝親衛隊として、彼女の平和を守るのが俺達の仕事だ……!)」
心を覗けば彼らがファンクラブの連中と判明しただけでなく、とんでもない誤解をされている事に気づく。
自分が千里にそうやって近づくんじゃないかと、ありもしない妄想だ。
「どうすれば近づく事を許してくれるんですか? それとも1年は大人しく失せろと?」
そんな気は無いと思いながらも、輝羅は先輩達へ尋ねる。
「明日、3軍の紅白戦がある。そこでお前が出場して勝てば、女帝に近づく事は認めてやる」
「負けたら女帝を口説くのを諦める。サッカー部らしくサッカーで決着をつけようじゃないか」
紅白戦で輝羅のチームが勝って結果を示す。
それが条件のようで、有無を言わさず近づくなと言わない辺り、彼らもスポーツマンシップがあるようだ。
「(この前のエンドレスデュエルだけじゃ足りないか……黙らせるには本番に近い試合で力を見せろって訳ね)」
輝羅は理解すると、何時も通りの笑みを見せる。
「ちゃんと約束守ってくださいね先輩達。嫌って程に力を見せつけますんで♪」
千里が気になってる所へ、立ち塞がってくる目障りな障害物。
それを木っ端微塵に粉砕してやろうと、密かに決意していた……。
竜斗「絶対に輝羅は神奈さんへ兄妹を超えた想いを抱いて、本気で口説くかと思った!」
影二「確かに……与一と一緒に神奈さんの事すっごい大事に守ってたし……」
輝羅「すっかり僕の事をシスコンとか思ってるね皆〜」
影二「とにかく……君も恋をすると分かった所で、次回は3軍での紅白戦が始まる……」
輝羅「本当、誤解とか嫌だね〜。そんな権力あるって何処で噂広まってんだか」




