何度でも戦う
「うおぉぉ!」
バチッ
「らぁっ!」
ビシィッ
「オラァ!!」
バシィィンッ
目の前に立ち塞がる守備の選手を抜き去り、蹴散らしながら理勝は様々な形でシュートまで持ち込む。
結果は全て輝羅の手によって弾き飛ばされ、キャッチされたりと一度のゴールも決まっていない。
「理勝の奴、今年は何時も以上に凄くねぇか!?」
「さっきの闇坂に刺激されたんじゃね? あいつと同じく2桁の連勝を狙ってんだよ多分」
部員達の間では、理勝が去年を凌ぐ実力を身に着けていると、此処までの彼を見て話していた。
「その理勝をあんな小さいGKが……流石、神明寺の息子だなぁ」
「あいつ11連続でPKをセーブしてんだろ。親があれなら息子も化け物かよ……」
それ以上に部員達を驚かせていたのは、次々とシュートストップを続ける小さな守護神。
部員達は皆、神明寺の名を持つ輝羅が弥一の息子である事を知っている。
「相手が高校生でも平然とセーブか。分かってたけど、とんでもねぇよ輝羅の奴」
同じ桜見で凄い所を山程見てきたが、竜斗は改めて驚かされていた。
高校のサッカー部員、それも東京トップクラスを誇る立見サッカー部の部員を相手に、今までと変わらずゴールを許さない。
「与一に闇坂達が居て、シュートし難いのもあったけど──後ろに輝羅も控えてたりと今更ながら桜見は守りが分厚かったね」
「分厚かったってもんじゃないよ。あれはもう難攻不落だったから! まさか高校でも、そういうのやっちゃうのかなぁ?」
柳石として戦っていた頃の事を思い出せば、星夜と影丸は与一も居た頃の桜見が、全国の何処よりも守備が堅いと振り返る。
「……今年は与一がイギリスに行って、いないから……その穴を埋めなきゃいけない……」
「まぁでも、立見なら腕の立つ選手はゴロゴロ居るだろうからな」
DFの要として、数々の要注意選手を封じた小さなエースキラーはいない。
彼の抜けた穴が大きいと疲労しながらも呟く影二へ、竜斗はマネージャーの持ってきたスポーツドリンクを手渡す。
彼らが話してる間も、輝羅と理勝の戦いは続いていた。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
あれから何度、デュエルを行って相手を蹴散らし続けてきたのか。
先程まで無双状態だった影二の記録へ、理勝が迫っているのは間違い無い。
「先輩もよくやるねー。DFとの一対一で勝って僕の所に来ては止められ、繰り返しを続けてるのに」
輝羅は折れずに自分へ挑み続ける理勝の姿を見て、より関心を持つようになってきた。
「(負けてたまるかよ……! こっちは死に物狂いで勉強して、立見に入ってサッカー部へ入部した……! 3軍まで上がって必死にやってる俺が、才能や環境に恵まれた奴なんかに!)」
相手が神明寺弥一の息子だからと言って、負けたくはない。
毎日サッカーへ打ち込み続け、昇格に手が届きそうな所へ追い抜かれたくなかった。
自分に対して対抗心を燃やす理勝の心が輝羅に伝わと、その顔から笑みが消える。
「──あんたさ」
低い声で輝羅は呟く。
「まさか、自分だけ死に物狂いで頑張ってる努力家を気取ってない?」
「はぁ!? 突然何言って──」
理勝が反論しようとした時、その前に輝羅の言葉は出ていた。
「才能や環境だけでサッカー出来る訳ないだろ」
「……!」
ゾクッ
輝羅の冷たく厳しい視線が、言葉と共に理勝へ突き刺さる。
高校受験を死に物狂いで勉強し、努力して立見へ入った。
サッカーに関しては幼い頃から与一と共に、レベルの高い選手達に囲まれて教えられ、ひたすら打ち込む。
努力してないように思われた事に、輝羅は静かに怒っていた。
「何百回でも何千回でも来いよ。全部勝ってやるからさ」
「てめぇ……!」
輝羅と理勝の間で睨み合いが起きると、緊迫した空気が流れる。
「お、おい。次俺なんだけど……」
睨み合いをしている理勝へ、次の相手となる選手が準備してくれと声を掛けた。
理勝は相手を一瞬睨めば、1分間のデュエルが開始。
「くそが……!」
理勝は芝生の上で大の字となって倒れ、夕焼けの空を見上げる格好となる。
結局あの後、体力が底をついたのかキレを失い、DFを躱せないまま1分が過ぎてしまった。
そのタイミングで今日の部活終了の時間を迎え、部員達が道具を片付けていく。
「3軍はハングリー精神凄いって聞きましたけど、本当でしたねー」
倒れている理勝へ輝羅が近づくと、2つの水筒を手に持つ。
片方を自分が飲み、もう片方を倒れている先輩へ差し出す。
「っ……」
悔しそうな顔で輝羅を見上げると、上半身だけを起こして水筒を奪い取った後、理勝は中身のドリンクを一気に飲み干していった。
「その体格通り、フィジカル良い上に意外と技術もあって器用ですよね」
「褒めてるのか貶してんのか、どっちだてめぇ……!」
「目一杯褒めてるつもりですけど?」
理勝から睨まれながらも、輝羅は笑って受け流す。
「というか上を目指してるなら、いがみ合うよりも一緒に1軍のレギュラー狙いませんー?」
「……!?」
この言葉を聞いて理勝は驚かされる。
自分を2軍どころか1軍レギュラーを一緒に狙おうと、手を差し伸べる輝羅の姿に。
「分かって言ってんのか? 1軍は3軍より上手い連中が集まったエリート集団だ。そこでレギュラーを掴むのは簡単じゃねぇぞ?」
輝羅より長く立見に居て、1軍のプレーをこの目で見てきた。
東京どころか全国でも上位に入るであろう選手達が集い、自分達が振り落とされて降格にならないよう、熾烈な争いが繰り広げられる光景は目に焼き付いている。
「でも、牙崎先輩はそれ分かって目指してますよね? そういうの嫌いじゃないですよ♪」
それを理解している理勝自身が頂点を目指し、戦い続けているのは輝羅から見てお見通しだった。
「僕だって3軍で終わりたくないですから、ハングリー精神を見せつけましょう〜!」
先程までシュートを次々と阻止して、あんな冷たい目を見せていたのが、今は幼い子供みたいに笑っている。
どれが本当の顔なのか知らないが、少なくとも最初に理勝が考えていたイメージとは違う。
同じように上へ行く事を目指し、歩みを止めない。
「……てめぇには何時か勝つからな」
「いつでもどうぞー。何だったら明日また再戦でも構わないですよ?」
今日の勝負で、輝羅と理勝の距離は少し縮まってきていた。
☆
「今日から正式に、貴方に立見サッカー部の監督を任せたいと思います」
立見の校長室の席に座る、女性校長の高見幸は目の前に立つ男へ、自校のサッカー部の監督就任を伝えていた。
「これも縁なのかもね……とにかく外部の人に任せるより、よく知る貴方になら安心して託せるから」
彼は自分のかつての教え子で、当時サッカー部で神明寺弥一と共に伝説を作ったメンバーの1人。
「任せてくださいラッキー先生、っと今は校長っすよね」
「もう、今の私にそういう事を言うのは君達の代ぐらいだからね?」
間宮啓二がこの瞬間、幸からの命を受けて立見サッカー部の監督へ就任したことは誰も知らない──。
竜斗「なぁ、輝羅を見てると……猛獣使いに思えるぞ」
星夜「手懐けてる感がなんとなくしてくるね」
影丸「最初、絡まれそうな雰囲気だったけど大丈夫そう〜?」
輝羅「もう大丈夫だよー♪」
影二「……次回は、立見の監督と出会う……」
輝羅「監督就任は聞いてませんけどー?」




