影の実力者
「……一緒になっちゃったね輝羅……」
フィールドに影二が立って、輝羅と向き合うと何時ものように小声で話す。
「勉強とかやってたせいか、久しぶりに思えるねー」
高校受験で秋から冬は勉強を続け、表舞台からは遠ざかっていた。
初めてサッカーで高校生と向き合うが、その事に不安や迷いなど少しも無い。
「(いくらイングランドを倒したからって、長い受験勉強で体が鈍ってるだろ)」
「(中学と高校じゃ全然違うし、いくら神明寺の息子だからって簡単に活躍出来ないよな)」
周囲の心の声は輝羅や影二が活躍出来ず、すぐに交代だろうと言っている。
「ねぇ、ヤミー」
「え……?」
輝羅は満面の笑みを影二に向けた。
「此処で3軍を全員ブッ倒そっか♪」
「!?」
突然何を言い出すのかと、影二は輝羅の笑顔な大胆発言に驚かされてしまう。
今、フィールドの外に並ぶ3軍達を輝羅は倒す気なのかと。
「そんな事──」
「出来たら一気に2軍昇格、もしくは1軍に行けちゃうかもね」
影二の口から無理だと言う前に、輝羅から言葉が出る方が早かった。
相手は公式戦の出場を狙う立見の3軍で、自分達は高校へ入学したばかりの1年。
全体的に体格も相手の方が勝り、目の前の1人に勝つ事も厳しい。
「ヤミーなら行けると思うよ。あれだけ道場に通ってたんだからさ♪」
不思議と輝羅に言われれば、先程まで不安だった気持ちは消えていく。
「……分かった……やる……!」
此処まで来たら逃げ場は無いと、影二は立ち向かう決意を固めた。
「折角出てきた所悪いけど、纏めて交代してもらうぜ1年達」
前の組でDFを抜き去ってGKから得点し、勢いに乗る坂口。
再びゴールを決めてやろうと企む心が、輝羅から大きく聞こえている。
影二と坂口が向き合い、1分間のデュエルがスタート。
「(速い……!)」
フィールドの外から先輩達の動きを影二は見てきた。
実際に間近で見ると、より速く見えてしまう。
「落ち着けば行ける行ける! 大丈夫だよー!」
輝羅のエールが影二の耳に届き、改めて正面の坂口に注目する。
「(左へ切り返してから……!)」
慌てて取りには行かず、足元の動きを見てタイミングを待つ。
そこに獲物が来た瞬間──。
ガッ
「わっ!?」
フェイントをかけて右から抜き去ろうとした坂口に、影二はボールへ向かって左足を伸ばす。
足元の球に当たると弾かれて転がっていき、タッチラインを割っていった。
「攻撃側交代!」
影二の勝利となり、コーチは交代を告げる。
「いいぞー、ヤミー♪」
見事に止めた影二を輝羅が称賛すると、休む間もなく2人の前に次の攻撃選手が現れ、再び1分間の戦いは開始。
「そこ左来るよー!」
後ろからコーチングをする輝羅の後押しを受け、影二は相手のボールをスライディングで蹴り出す。
これで2人目の攻撃も阻止だ。
「闇坂って奴、あんな一対一に強いのか?」
「意外とやるんだな……」
「つか、神明寺が後ろから滅茶苦茶コーチングしてるし」
フィールドで1分間の勝負に勝ち続ける影二の姿に、出番を待つ3軍の部員達がざわつき始める。
「少し見ない間に影二、随分と上手くなってる?」
「あいつは神明寺家の道場へ密かに通ってたり、神明寺兄弟を間近で見てきたからな。それで動きを見て学んだんだろうよ」
「そういえばスタミナ強化の練習とか、最後まで脱落せずにやってたっけか……」
影二のプレーを改めて観察すれば、星夜からすれば相当なレベルアップをしていると思えた。
竜斗の方は彼が桜見に居た時、神明寺兄弟にくっついて彼らと共に練習を重ねた事を知っている。
道程の厳しい家にも通い続けたので、努力の積み重ねが影二の力となっているのだろう。
「野郎……」
フィールドで攻撃の選手達を止め続け、その度に輝羅と影二が喜び合う姿を理勝は険しい顔つきで見ていた。
「はぁっ……また……止めれた……!」
「はーい9連勝ー♪」
9人目の選手も抜ける事が出来ず敗退。
輝羅から影二に近づいてハイタッチを交わし、波に乗っていた。
「流石にもう無双タイム終わりにしようって〜!」
10人目に出てきたのは影丸。
影二の連勝記録を止めようと張り切り、既に眠気は覚めている。
柳石や代表で影丸のテクニックは見てきて、優れているのは2人とも把握済み。
影二と影丸は仲が良く、代表で一緒に居たりしていたので、すんなり10連勝とは行かないだろう。
「……!」
「まだまだー!」
キレの増したドリブルが影二を翻弄していき、影丸も実力が上がってる事を教えられる。
それでも足元で巧みにボールを動かす影丸相手に、落ち着いてタイミングを伺う。
「結構ついてくるじゃん!? やるねぇ!」
「抜かれたら終わりだから……!」
両者譲らないまま、時間が経過していく。
「!」
此処で勝負に出たか、左右に影丸が素早く動き始め、どちらから行くのか読ませない。
狙いはどちらでもなく、影丸は前を向いたまま右足でボールを転がし、影二の股下を通過させていた。
ビシッ
「あっ!」
影丸が左から通ってボールに向かおうとした時、影二は左足で下を通る球をブロック。
弾かれたボールをタッチラインへ蹴り出し、残り時間1秒で決着となる。
「やったー、10連勝ー♪」
「本当に……行けちゃうかも……!?」
難敵であろう、影丸も止めて益々勢いに乗る影二に、輝羅は後ろから抱きついていた。
「え〜! 行けると思ったのに今の〜!」
「……それ、桜見で与一がやったの見てたから……」
「あ、なんだぁ。もうネタバレ見た後なら違うのやれば良かった〜!」
影丸の中で自信のあるフェイントだったが、影二は留学前の与一が部活でやっていたのを見て、それが阻止に繋がる。
「10人続けて……! 今まであったか……!?」
「いや、知らん……!」
1人が立て続けに勝ち続ける光景を目の当たりにして、部員達の間に驚きが広がる。
「次、早く!」
「あ、はい!」
コーチの声に急かされ、影丸と入れ替わりでフィールドに向かう。
「はぁっ……はぁっ……!」
連勝を重ね続ける影二だが、休憩なしで続くデュエルの連続に息が上がってくる。
「次、牙崎!」
再び理勝がフィールドに現れると、今度は攻撃側として影二、そして輝羅の前に立つ。
「てめぇの無双はもう見飽きた。さっさと引き篭もらせてやるよ」
鋭く睨む目は影二だけではなく、輝羅も捉えていた。
「(遅かったなぁ。待ちくたびれたよ牙崎先輩)」
ついに相手として向かい合う時。
理勝の姿を見た輝羅は、グローブを着けた右掌に左拳を軽く当てる。
デュエルが開始されると共に、理勝はドリブルで影二へ突進。
獲物を狙って襲いかかる、獰猛な獣を思わせた。
「(力ずくで強引に来るなら……!)」
影二は合気道を神明寺家で教わり続けている。
向かって来る突進力を利用しようと、身構えて待つ。
「!」
激突する前に理勝は右足で軽くボールを蹴り上げ、影二の頭上をふわりと越させれば、自身も左から抜けて向かう。
力ずくかと思えば技での突破と、意表を突かれていた。
理勝の前にはゴールマウスで身構える綺羅のみ。
「おらぁぁぁ!!」
その姿を見た理勝は影二が追ってくる前に、落ちてきたボールを右足で合わせて振り抜く。
インステップで蹴られたシュートが唸りを上げ、剛球と化してゴール右上に飛ぶ。
バシィィンッ
「!?」
3軍のメンバー達だけでなく、蹴った本人も驚愕。
完璧に捉えたはずのシュートが、輝羅の両手に収まっている。
シュートコースを読んで跳躍からのキャッチ。
輝羅の身体能力と技術によって、強烈な球へのセーブを可能とさせていた。
「ヤミーお疲れ様、後は任せて休んでなよ♪」
此処まで奮闘し続けた影二を労った後、輝羅は掴んだボールを理勝に投げ渡す。
「守備側を抜けたから続けられるんですよねー? もっとやり合いましょうよ牙崎センパイ♪」
「……!」
遊びへと誘う子供のように、もっと来いと輝羅が笑顔で告げたのを見て、驚いていた理勝の顔つきが変わる。
この生意気な後輩から意地でもゴールを叩き割ってやろうと、再び闘志に火がつく。
やる気が灯されたのは彼の心を読んで分かり、輝羅はゴール前で身構えた。
輝羅「久々のサッカーは楽しいねぇ〜♪強烈なシュートをバシン! と止める感触はたまらないなぁ♪」
影二「連戦のデュエル……キツかった……!」
竜斗「つかヤミー、未だに神明寺家に朝稽古で通ってたか……」
輝羅「おかげで神明寺家の朝御飯は、ヤミーの分も自然と用意されてるよー。下の兄妹達も懐いてるし♪」
影二「……小さな子供達に癒される……次回は輝羅と牙崎先輩がエンドレスで争う……!?」
輝羅「僕はもうウェルカムで♪」




