エンドレスデュエル
「桜見で神奈が上手くやってるみたいで良かった〜♪」
早朝6時台から輝羅は電車に乗り込み、竜斗や影二と笑顔で妹が元気に過ごしている事を話す。
「確か若葉から連絡来てて、優秀な1年が沢山入ったのは聞いてんな。後輩から舐められないようにビシッとしてるらしいぜ」
桜見を卒業してから、竜斗はサッカー部の事を後輩達に全て任せている。
どうやら今は若葉が相当頑張ってるようだ。
「神奈も2年になったから1年の後輩達を迎えて、しっかりマネージャーをしてるみたいだよー」
「……元からしっかりしてる……」
「そうそう、去年の今頃ぐらいにマネージャーを経験してから1年。今すぐ立見は神奈を引き抜くべきと思う程、優秀になったよ〜♪」
元桜見の3人が母校の話に花を咲かせていると、車内アナウンスで立見への到着が告げられ、今の状況に戻る。
「主にスタミナ強化の特訓が続いたけど、そろそろ試合形式とかやってみてぇな……」
「確かに試合とかやってないよねー」
輝羅と竜斗は立見サッカー部へ入部してから、主に持久力を上げる練習が行われて、紅白戦のような事をしてないなと振り返った。
「……そこで牙崎先輩に絡まれなきゃいいけど……」
影二としては理勝が輝羅に何かしてこないか、心配している様子だ。
「いや〜、あの人そこまで酷い事しなさそうかなぁ。手加減無しでガツン! とは来るだろうけどねー」
「練習の時、競り合いで殺す気かってぐらい強く当たるとか聞いてるしな……何かあったらすぐ言えよ?」
守ってくれる竜斗に対して、輝羅は明るく笑って感謝を伝える。
最初は向こうから喧嘩を仕掛ける可能性を考えていたが、直接話した限り無さそうに思えた。
何より心が上に行く事を強く望んでいる。
そんな相手がフィールドの外で殴り合いをして、自らの将来を棒に振るなど考え難い。
「こっちは大丈夫だから自分の事に集中しなさいってー。公式戦に飢えた先輩達と競り合って、吹っ飛ばされても知らないよー?」
輝羅は心配無いと、笑顔を崩さなかった。
☆
放課後を迎えると何時ものように各部活が始まり、立見のサッカーグラウンドには3軍のメンバーが集結。
「今日は一対一の練習を行う。攻撃側が突破したら守備側は交代で、守備側が止めれば攻撃側は交代。キーパーはゴールを決められたら交代だ」
コーチの口から今日の練習メニューが発表される。
フィールドの片方だけを使い、反対側のゴールはは同じ練習をする2軍の姿が見えた。
200人を超える大所帯の為に片方しか使えず、こういった形式らしい。
「(成功する限りはエンドレスで続くって事かぁ。結構ゲーム性あるのやるんだね)」
インターバル走に続いて面白そうな練習だと、輝羅の口に楽しげな笑みを浮かぶ。
勝利すれば負けるまで続き、延々と行われる。
周囲は昇格へのアピールにする為、此処で力を見せつけようと張り切っていて、同じ1年の昇格組も同じ考えだ。
「確か守備側は抜かれて、相手に良い形でシュートをされたら負けだっけぇ?」
「ブロックで阻止すれば勝ちだけどね。攻撃側はシュートを阻止されず、キーパーまで届けばセーブの有無は関係なく続行みたいだから」
星夜と影丸が独特のルールを確認し合う中、練習は開始を迎える。
「攻撃は赤羽! 守備は西!」
「はいっ!」
コーチに名前を呼ばれると、竜斗は大きく声を出して返事。
前に進んで相手と向き合う。
「(まだ僕の出番じゃないのかぁ)」
ゴールマウスには先輩のGKが立っていて、まだ輝羅の出番ではない為、フィールドの外で他の3軍と共に練習を見守る。
内心、早めにゴールを奪われて自分に場所を譲ってほしいと、密かに願っておく。
「(此処、アピールしとかねぇと!)」
目の前にいる相手を個人技で抜き去った後、後ろに居るGKからゴールを奪う。
これが出来ればFWとして大きなアピールになる。
竜斗は昇格を目指す為、開始と共にドリブルで相手へ突っ込む。
「っ……!」
だが、相手は先輩の部員。
西は竜斗の動きを読むと、ドリブルのコースに立ち塞がってきた。
右や左と縦横無尽に走り回って、竜斗は大きく揺さぶりをかける。
「3軍とは思えないな。守備側の先輩、良いマークしてくるよ」
「竜斗が苦戦してる感じだね〜」
守る先輩の動きが良く、星夜は突破が簡単ではないも感じながらも、フィールドで動き回る彼らを観察。
影丸は時間が大丈夫なのかと気にしていた。
「(……1分以上経過すると、両方の選手が交代になっちゃうから……攻撃も守備も積極的に行かないと駄目……)」
一対一は1分の勝負。
多くの選手達に経験させようと、この形式の練習が採用されている。
影二は竜斗に行け、と内心で応援。
「っ!?」
30秒以上が経過した時、西の動きに一瞬の隙があって竜斗は右から突破する。
後はGKとの勝負となり、右足を振り抜いてシュートを飛ばす。
バシィッ
ゴール左へ力強い球が向かうも、前に出ていたGKが両腕に当てると、ボールが外に弾き出された。
「くっ……!」
相手DFを抜けた所までは良かったが、最後に決められなかった事に竜斗は悔いを残してしまう。
「(ちょっと〜! 止めたら僕の出番無いよ〜!」)」
GKのナイスセーブによって、まだ出る事は出来ない。
遠のく出番に輝羅は頭を抱えたくなる。
「守備側交代! 西から佐藤!」
コーチから交代が告げられ、西がフィールドを出て行くと共に新たな選手が入ってくる。
こうして入れ替わりながら、一対一の練習は行われていく。
「っ!?」
1人目で突破する事は出来た竜斗だが、今度は守備側にボールを奪われてしまう。
交代を告げられれば外に出て、次に呼ばれる時を待つ。
そこから攻撃側が突破をすれば守備側も阻止したりと、白熱した1分間の戦いがフィールドで行われる。
星夜が攻撃側として出番がやってくると、今日初めてゴールネットが揺れ動いた。
「(やった! 流石は星夜ー♪)」
決めてくれた光景を見て、輝羅は小さく右拳を握り締めてガッツポーズ。
GKがゴールを割られたという事は交代になる。
「はいはい、出番〜♪」
「GK、岸川!」
「え?」
ようやく自分の番が回って来たと、輝羅がグローブを着けている時、他のキーパーの名前が呼ばれた。
「なんだぁ〜……」
3軍のGKは輝羅を含めて3人。
後から入ってきた身なので、最後の方となってしまったらしい。
出番が来たと思ったら違うと知って、ガックリと輝羅は肩を落とす。
「(こうなったら、星夜に連続ゴールを決めてもらうしかない。頑張れー!)」
自分の出番の為に、同じ昇格組の1年を応援する事に専念。
フィールドではキーパーと共に守備側に次の選手が立つ。
「……(向かい合うと凄い殺気だな……まるで本番の試合みたいだ)」
星夜の前には理勝が睨みを利かせ、身構えて今にも飛びかかって来そうだ。
開始の合図と共に、理勝は野生の肉食獣かの如く、星夜へ突進していく。
ドガッ
「っ!?」
開始から星夜の右肩と理勝の左肩が激突し、星夜の右半身に強い衝撃が走る。
イギリス遠征で海外選手の当たりを体感済みだが、それにも劣らない。
強烈なショルダーチャージを前に、バランスを崩しそうになりながらも、星夜はなんとか踏み止まった。
「おらぁぁ!」
ガッ ガッ
「くぅ……!」
激しく体をぶつけられ、星夜はフェイントを繰り出す余裕がなく、ボールを奪われないようにキープする事で精一杯。
前に運ぶ事が出来ず、凄まじい圧と衝撃が襲い続ける。
「うわぁ〜……あんな詰められるとやり難そう〜……」
荒々しく向かう理勝の姿に、影丸は苦手だなぁと見ていた。
「(このままじゃ……!)」
1分間の時間で突破出来なければ交代。
ボールを守ってばかりではなく、突破しなければならない。
体を強く当てられ続け、その中でタイミングを待っていた星夜は、次に理勝が力強く右肩から当たりに来るのが見えた。
激突の刹那──星夜はバックステップで後ろに下がる。
結果、理勝のショルダーチャージを躱し、前に出ようとする。
「そこまで! 1分経過で両者交代!」
「!」
「ち……!」
星夜と理勝の一対一は時間内に決着がつかず、互いに交代となって次の勝負がすぐに始まった。
「(出番かと思ったのに牙崎め〜!)」
星夜が決めてくれれば出番だったのが、先延ばしにされてしまう。
理勝に対して輝羅は少し恨むも、それは僅かな間で終わる。
「おおっし!」
交代で出て来た3軍のFW、坂口が相手DFを抜き去った後にゴールも決めて見せた。
「交代! 守備側に闇坂! GKに神明寺!」
「はーい、出番出番〜♪」
ついに3人目のGKとして輝羅の名前がコールされ、ゴールマウスへ向かう。
輝羅「勉強とか続いたせいか、サッカーのシーンが久しぶりに思えるよ〜」
竜斗「受験で忙しいと、そうなっちまうもんな」
輝羅「それ終わっても授業があって結局勉強だもんね〜」
星夜「高校入れば勉強しなくて良いとか無いよ」
影丸「僕は寝たいけど〜」
影二「……次回は、僕と輝羅の出番……」
輝羅「悪いけど控えの先輩2人には、ずっと見学しててもらいまーす♪」




