オオカミさん犬の躾をする
「ここが客室。電気は…っと、え!?」
普段あまり人がこないためかな。電気の灯されていない客室に案内された私は、内に入るのと同時に後ろ手で素早く鍵を閉め、近くにいたピーターが動き出す前にさっさと足を払った。
「イッテェ―!」
「ふふ。相手に腹を見せるのは服従のポーズよね?」
「う、いやでも、これは卑怯なんじゃ…」
仰向けで転がったピーターの腹に足を乗せてちょっと高慢な感じで笑いかければ、戸惑いつつも反論してきたわ。実に生意気ね!
「なら今すぐ起き上がってみて?」
「そんなの簡単に……え、あれ?なんでだ?」
両手足に力を入れて起き上がろうとしても全く退かせられない腹の足を見て、ピーターは慌てだした。アホの子も事の重要性をやっと理解してきたようね。
「私は狼人部族長の娘。部族の中で私より強いのは、両親と兄だけよ」
「はぁ!?狼人トップの娘!それがほんとなら、どうして兎人と恋人なんだ!」
「どうして?そんなの、教えるわけないじゃん」
ピーターは驚きに見開くまあるい瞳をして、心底ありえないという顔をする。私はその彼の態度が酷く勘に触ったので、思わずチッと舌打ちをした。
「肉食系の獣人が草食系の獣人に惹かれるのは珍しいことじゃない。でもそれは…」
「それ以上言ったら…潰すわ」
「イッ!!?」
続けてピーターが言おうとしていることが何か気付いた私は、彼が言う前にやたら固いお腹を衝動のまま踏みつけてやった。多少痛そうにしているが、ご立派な腹筋もあるみたいだし大丈夫でしょ。
本当は、ヒールで思いっきり抉ってやりたいところよ!
「ピーター。私があなたに命令することは2つ。1つ、リアンくんに私が狼人であることを言わない。2つ、私の命令には従う。それだけよ、OK?」
「……いいぜ。それが、主人のためになるならな」
犬人の部族は、義の民と言われるほど一度認めた主へと誠心誠意それこそ生涯をかけて尽くすと言われている。
例え強者に倒され殺されそうになったとしても、それが主の非になることであれば絶対に言うことを聞かないし、逆に主のためであれば主人の意に沿わないことだろうと平気でやる…諸刃の剣でもあるわ。
だからそんな犬人達の主人愛は並々ならないもの、彼らは生まれながらの従僕ともいうべき存在であるはず。それなのに―――
「こんなところに大切な主人を居させてる誰かさんよりマシじゃない?」
ほったらかしの庭園に手入れの行き届いてない埃っぽい内装や最低限の調度品、使用人だけの簡素な離れ。これだけで充分。この家でのリアンくんの立ち位置が目に見えて分かるってもんよ。分かるからこそ、ずっと傍にいたコイツに今まで何をしていたんだと、目を細め言外に皮肉ってやったわ。
「そりゃ、言えてらぁ」
ピーターは頬を指で数回わざとらしく摩り、実に弱よわしく笑っていた。
そんな顔をするくらいなら、さっさと何とかすれば良かったのよ。行動を起こそうとしなかったこいつは、やっぱりアホ犬ね。
「じゃあ、そういうことでよろしく。お見舞いのゼリー持ってリアンくんに私が来たこと伝えてきて。そしたら、もう帰っていいわ。ていうか邪魔だから帰れ」
直行したいけど、一応ピーターが躾通りリアンくんに私のことを言わないか、こっそり着いて行って確認しなければ安心は出来ない。そのため先に部屋へ向かうよう、しっしとピーターに向かって手を払う。
「一気に対応が雑だな…」
「私にとって優先すべきなのはリアンくんだけだから」
情けなさそうに眉をハの字型に下げながらも、ピーターはゼリーを片手に扉を開け足を踏み出した。しかし廊下に出た一歩目で直ぐに立ち止まる。そのままゆっくりとこちらを振り返った彼が私に向けた瞳は、とても静かで真剣なものだった。
「…あいつの何に惹かれて近づいてるのかは知らないけど、リアンはこの家で利用されることに慣れきってるんだ。そんなあいつを弄ぶようなことだけはしないで…ください」
「しない。絶対に」
即答した私が意外だったのか、こちらを見つめパチパチと何度が瞬きしたピーターは「そっか」と一言だけ呟き、今度こそ振り返らずにすっと部屋から出ていった。
…さてと、それじゃあ私もリアンくんを頂きに行こうかな♪
another side:リアン
「逃げなきゃ…食べられる…」
絶賛魘され中だった(´-﹏-`;)




