「私のウサギさん」
「リアンくん、もう観念して私のものになっちゃいなよ」
女の私よりも太くて逞しい男の子の両手。だけど狼よりも力が弱い兎の手首を掴み、ベットへと優しくしっかりと押し付る。そのまま、その不安と期待に揺れる可愛い顔を私は覗き込んだ。
「難しく考えなくてもいいの、YESかNOで答えて…リアンくんは私とキスして気持ち悪かった?」
その質問を聞いた瞬間、リアンくんは目を真ん丸にしてサッと顔を赤らめた。そしてそれに気付き、直にパッと横を向いて顔を隠してしまう。ふふ、耳まで赤くなってるわ。美味しそう…こんな顔されたら、答えなんて聞かなくてもバレバレよね?
「それとも気持ちよかった?」
我慢できなくなって歯ごたえの良いだろう目の前の耳にカプッと齧りついた。本命である方のこの問い掛けは、一字一句吹き込むように囁いてあげる。
するとリアンくんは、いきなり噛まれた衝撃でプルっと震えていた。そして「あ…」て可愛い声を漏らして、無意識なのかバッと口を手で塞ぎ、不安そうにこっちを見上げてくるのよ。その目が「今の聞いてました?」って語り掛けてくるようで―――
ごくり。
もうね、ヤバい。このウサギさん色んな意味でヤバいわ。誰よ、リアンくんが普通なんて言ったやつ。そこらのヒロインが裸足で逃げ出す可愛さよ!
「NOって言わないのね。沈黙は肯定と受け取るよ?」
「待ってください!俺の気持ちはノ…」
「因みに、嘘つきはお仕置きだから。正直な子なら、私が時間をかけてたっぷりじっくり可愛がってあげる。リアンくんはどっちが好みなのかな~?」
夜空よりも暗いのに、中心から星屑を散らしたようにキラキラと輝く真っ黒なオメメをふるふる揺らしながら、答えられないリアンくん。
苦肉の末に「ど、どいてくださぃ…」なんて、一生懸命絞り出したような声で呟かれたら…堪りません!
もう辛抱堪らんと、ゆっくりと見せつけるように自らの唇を舐めて顔を近づける。リアンくんの視線が自然とそこにいくのが分かった。
「先輩、俺は…」
まだ何かイロイロ葛藤してるみたい。欲望には素直になった方が楽なのに…気付いてるリアンくん?迷ってる癖に、キスを期待してその唇にちゃっかり隙間を作っているのよ。
そのままチュって可愛い音とともに触合う2つの唇。
顔を離して見つめ合う。そこには何故か驚いたようなリアンくんの顔があった。
「え?」
「ふふ、期待した?」
唇をくっつけていたのは、ほんの1秒にも満たない短い時間。あえて開けてくれた隙間には侵入をしないようにしたの。
「っ、するわけない!」
「あははっ」
思わず笑ってしまったわ。だって求めている癖に強がって否定しているリアンくんが、まるで捕食者である狼が怖くて堪らないけど、精一杯虚勢を張って全身で威嚇してる兎みたいなんだもん。それがもう見てて可愛くてかわいくて。
優しくしたいのに酷くイジメてしまいたい…なんて、私も大概素直じゃないわね。
だけど―――
「私はリアンくんのことをもっと知りたいよ」
それでも私はあなたの心が欲しいの。
「して欲しいことがあるなら言葉にして…私はリアンくんの願いを無視したりしない」
「して欲しいこと……なんて…」
押さえていた右手を放してリアンくんの頬を優しくゆっくり撫で上げる。温かな触合いと互いの熱を通して、しおしおと兎な彼の反抗心と虚栄心が萎んでいくのを感じた。
お互いに何も言わない沈黙が少しの間流れ、私が辛抱強く答えてくれるのを待っていれば、ゆっくりと瞼を閉じたリアンくんが、ポツリ…と蚊の鳴くような小さな願い事をやっと落としてくれた。
「教えて…ください」
「いいよ。なぁに?」
「どうして………俺なの?」
それは…その疑問には、恐らく色々な意味が込められていると気付いていた。
「…さあ?」
だけどあえて素気なく答えれば、リアンくんは悲しそうに、でもどこか諦めたみたいな表情をする。それを見た瞬間、私の中で何かが強く揺れたわ。だって気付いたらリアンくんの瞼にキスをしていたから。
理由なんて分からない。
只、ただ。悲しそうな顔のリアンくんなんて見たくないと思ったのよ!
「だって一目で、貴方だけが、どうしようもないくらい、欲しくなっちゃったから」
壊してしまわないようにリアンくんを形作る一つひとつに、唇でそっと触れていく。
「その黒曜石みたいな瞳も、トマトみたいに直ぐ赤く熟しちゃうほっぺも、甘いニンジン色の髪に隠れた綺麗なおでこも、優しい声で私を呼んでくれる喉も、大好きな野菜を誰よりも美味しく育ててくれる素敵な手も、リアンくんを形作る全てが私の食指を激しく刺激するのよ。私がリアンくんを嫌いになることなんて永遠にありえないわ。だから怖がらないていいの…」
瞼の次は頬へ、頬の次は額へ、額の次は首へ、首の次は手の平へ。足首やつま先に口付けをした時には、既にリアンくんの瞳は膜を張ったみたいに綺麗な水が浮かんでいた。
そして、ついに朱く色づき柔らかく細められた夜空に収まりきれなかった一滴が静かに零れ落ちる。その熱く少しだけしょっぱい味を舌先で受け止めて、最後に熱が上がった息を飲み込むように深くふかく唇を重ね合う。
優しく、リアンくんの反応を見ながら気持ちいところを刺激してあげる蕩けるようなキス。何度もなんども角度を変えて唇を重ねるうちに、与えるだけのキスがいつの間にかお互いを食べ合うものに変わっていたわ。
「躊躇わないで。私を求めて、私のものになって……」
願いを込めた言葉を与えるように、溢れる気持ちを口付けに含ませた。
「……うん」
受け止められた答えは確かに私を受け入れるもの…やっと、やっと手に入れた!
「リアンくん…ん、んぅ…」
「はぁ…先輩…あっ、ん……」
お互いに荒い吐息を零しながら舌先を擦り付けあう。離れたくないとでも言うように時間をかけて1つだった唇を2つに分けた。
リアンくんは熱が上がったのか、もしくはキスのせいなのか、唇を話した時には朦朧としながらくったりと全身の力の抜いてしまっていた。そして無防備に蕩けた表情をしながら徐々に瞼を落としたリアンくんの口元にほんのりと可愛い微笑みが浮かんでいたのを見て、私はとても嬉しかったの。
「おやすみ。私のウサギさん」
もうこれは私のものよ。
another side:リアンの畑
「置いてきちゃったけど、ホントにこれで良かったのか…でも尻尾巻いて逃げ出しといてオメオメと戻るなんて格好悪いし。狼人だからって流石にソッコー襲うなんてないよな…ああ、今頃リアンは無事なのか?無事でいてくれよーリアン!お前の野菜は俺が世話しとくからな!だからそれで許してくれー」




