統一神書 バルギニア版 第四の巻 叡智神
一
輝かしき英知の才人たる第三の座、真理と知識を司る神、クロル・ファナ・シーデリ。始原が御身を裂きたまいしとき、知を負いて生まれ出でたまえる、八柱の第三神である。男にもあらず、女にもあらず。そのいずれでもなく、またいずれをも内に含む、性を超えたる御身であり、見る者はこの神を、兄とも姉とも、父とも母とも、ついに定めかねるという。
二
御姿は、ひとことで言わば、青である。深き淵の水のごとく、晴れわたる天のいと高きところのごとく、澄みて底知れぬ蒼を、その身にたたえたもう。まとう衣は瑠璃の色、流るる髪は青みを帯びた銀、そのまわりには、たえず細かな文字が、青き光を帯びて浮かんでは消える。瞳は、いかなる偽りをも見透かす、底澄みの青。老いてもおらず若くもなく、千古変わらぬ静けさを、その面にたたえている。常に、片手には一巻の書を、いま片手には、いまにも消えそうな小さき灯を携えたもう。
三
御声は、低く、よどみなく、書を読みあぐるがごとし。声を荒げることなく、ただ静かに、ひとつひとつ理を解きほどくように語りたもう。
四
御心は、ただ真理への、尽きせぬ慕わしさである。されどこの神は、知ることを誇らず、知らぬ者を侮らず、求むる者へは、惜しみなく知を分かちたもう。富や位の高下を問わず、賢愚の別を問わず、問う者あらば、等しく答えたもう。
ある日、この神の御許に、一人の大王と、一人の乞食とが、同じ日に、同じ問いを携えて参った。神は、二人に、寸分たがわぬ同じ答えを、同じ言葉で返したもうた。大王は、おのれが特に重んぜられぬを怒り、去った。乞食は、生まれてはじめて人と等しく扱われしを、泣いて喜び、去った。真理は、問う者の貴賤を選ばぬ。これがこの神の、寛にして公平なる徳である。
五
御業の第一は、人への、魔導の授与である。いにしえ、人がいまだ力なく世を生きていたころ、この神は、世界の真理の一端を、人に分かち与えたもうた。これぞ魔導の始まりである。あわせて、天稟なき者にも真理を扱いうるよう、原初の呪文体系をも授けたもうた。一語にして多くを言い当てる、かの原初の言葉は、もとはこの神の知の結晶である。
六
いまひとつの御業は、世のあらゆる知を、忘れず、失わず、束ね、納めおくことである。世界の図書館とも称さるるこの神の御許には、過ぎし世の、今の世の、来る世の、ありとあらゆる真理が、青き文字となって納められていると伝わる。
七
されど、心せよ。あの片手の灯は、知の灯である。正しく掲げれば、闇を照らし、道を示す。されど、掲げ方を誤れば、掲げた者の手をも焼く。この神が人に授けたるは、知そのものと、同時に、この一つの戒めであった。知は、希望であると同時に、絶望でもある。
いにしえ、世のあらゆる学を修めてなお飽き足らぬ一人の賢者が、この神の社にこもり、真理のすべてをひと目に見せたまえと、幾夜も祈りつづけた。神は再三、それは身を滅ぼすと、おしとどめたもうた。されど賢者は退かず、ついに願いはかなえられ、一切の真理が、青き光となって、いちどきに彼の前へ開かれた。その瞬間、賢者は灯にかざした蛾のごとくその光に灼かれ、二度と口をきかなくなった。生涯の最後まで、ただ虚空を見つめて微笑んでいたという。あまりに多くを知ることは、何も知らぬよりも、人を壊すのである。
八
この神が最も愛したもうのは、賢き者ではない。問うことをやめぬ者である。学びとは、答えを集めることではなく、問いを絶やさぬことである。問うことをやめぬかぎり、人はこの神につながっている。これが、この神の、もっとも深き教えである。
九 叡智神の教え
この神を敬う者の守るべき教え、二十を記す。
一つ。知らざるを、知らざると言え。それが、知のはじまりである。
二つ。学びて考えざれば、覚えたものは、ただの荷である。考えて学ばざれば、道は危うい。
三つ。過ちを認めることを、負けと思うな。過ちて改めざる、これをまことの過ちという。
四つ。古きを訪ね、新しきを知れ。汝の問いは、たいてい、誰かがすでに問うた問いである。
五つ。おのれより幼き者、低き者に問うことを、恥じるな。問いに、貴賤はない。
六つ。連れ立って歩けば、そこに必ず師がいる。善き者からは学び、悪しき者を見ては、おのれを省みよ。
七つ。一を聞いて十を知る者を、羨むな。十を聞いて、一つずつ確かめる者であれ。
八つ。憶測を、知と呼ぶな。聞いた話を、見たことのように言うな。
九つ。書に問え。されど、書を信じきるな。書を信じきるは、書を持たぬに劣る。
十。見出したことは、書き残せ。汝の覚えは汝とともに朽ちるが、書きしるされたものは、次に問う者の足がかりとなる。
十一。学びを、なかばでやめるな。九仞の井戸も、泉に届かねば、掘らなかったに等しい。
十二。朝に一つの真理を得たなら、その日は、すでに満ちている。
十三。知って行わざるは、知らざるに同じ。
十四。知を誇るな。実った穂は、頭を垂れる。
十五。知をもって人を裁くな。知は、刃ではなく、灯である。
十六。教えを乞う者を、選ぶな。器の大小は、注いでみるまで分からぬ。
十七。問われる前に、教えるな。あふれんとする者にのみ、口を添えよ。
十八。子の「なぜ」を、叱るな。その一語は、この神への祈りにひとしい。
十九。人の測りえぬものを、測ったと言うな。灯は、闇のすべてを照らすためのものではない。足元を照らすためのものである。
二十。答えを集めることを、学びと思うな。問いを絶やさぬことが、学びである。問うことをやめぬかぎり、汝は、この神とつながっている。




